「高岡に……?」
「うん。なんかバイト帰りかなんかだったみたいで、会うのもなんか珍しいからちょっと話してたんだけど」

 ちらりと浮かぶ、黒なのに、陽の光に当たると赤く燃えるような髪。色落ちが激しく、また頭髪検査で引っかかるような色にも関わらず、当の本人は「上等だぜ」となぜか気合を入れていた姿を思い出す。

「あ、高岡くんね、夏休みに五個もバイト掛け持ちしてたんだって。しかも休みなしって言っててね、わたしバイトしたことないからかっこいいなあと思って」
「……そうだね」

 他になにを話していたのだろうかと、正直気になって仕方がなかった。
 バイトを掛け持ちする高岡をかっこいいと賞賛する彼女に、ひどく嫉妬していたのだけは確かで。

「バイトって大変そうだよね」
「うん……」

 うまく笑えてる自信などなかった。頬が引きつる。痙攣を起こしたかのように不自然にぴくぴくとだけ動いている。それでも下手くそな笑みだけは浮かべるように努めて。
 きっと彼女に対する感情に気付いてしまった直後だから。心が追いついていかない。
 好きだと、気付くべきではなかった。気付いてしまったら、もう遅いんだ。なにかも、手遅れになってしまうから。
 そんな俺の面倒な感情など、きっと彼女は気付いてはいない。
 俺がこんな感情を抱くことすらおかしな話で、間違っているんだ。俺なんかが、彼女に対して嫉妬を――高岡に対して劣等感を抱くなんて、そんなのおかしいじゃないか。