──笑っていることが、わたしに出来ることだと思った。
 久しぶりの登校日。松浦先生の呼び出しがあると悲しそうに口にした呉野くんを見送り、一足先にあの教室で待っていると、次第に涙が滲み出て、ぽろぽろとこぼれていった。
 だめだ、こんなところを見られたら、呉野くんに心配をかけてしまう。
 通学鞄に入っていたルーズリーフを取り出しては、びりびりと破り殴り書きをしていく。
 早く、早く、そう思って慌てて教室を飛び出した。
 人目につかない場所までくると、力が抜けていくように壁に背中を預けずるずると膝から崩れていった。

〝呉野くんが、死んでしまうかもしれない〟

 震えた字が信じられなくて、何度も何度も読み返した。
 日記をつけることなんてやめてしまったわたしが、自室の机においていた一冊のノート。
 呉野くんと夕方を過ごすようになってつけはじめた日記は、いつだって眩しくて、きらきらしていて。
 なのに、この言葉が目に飛び込んできた瞬間、心臓がなにかに憑りつかれてしまったかのように不規則に不快な音を鳴らし始めた。

 信じられなかった。何が書いてあるのか、上手く呑み込めなかった。

 呉野くんが……? どうして……?

 日記には、その日呉野くんから聞かされたという男の子の話と、その子と同じ病気を患っていること、そして自分の命も、残り少ないことを告げられたと、筆跡の弱い字で書かれてあった。
 ところどころには涙が落ちた形跡。
 
〝書いておくべきじゃないかもしれない。忘れるべきなのかもしれない。呉野くんは、わたしが忘れてしまうと思ったから伝えてくれたのかもしれない。でも、忘れちゃいけないと思う。これは、絶対に覚えておかなきゃいけないことだと思う。だから忘れないで。お願い。〟

 昨日の自分の悲痛な願いが紙の上に託されていた。