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いつ来ても、無愛想な机と椅子が並ぶこの教室で、お決まりのようにセットを準備していく。
今日で吉瀬を描くのは通算十枚目。
吉瀬本人には、一枚の絵をずっと描いているように思わせているが、実のところ、吉瀬の線を模ったそれらは、俺の通学鞄にしっかりとしまわれている。
夏にしては緩やかで涼しい風が教室に吹き、その風に紛れるようにしてやってきたのが吉瀬だった。
「あれ? もう来てたんだ」
先にここで待っていてもらった吉瀬がここにいなくて、正直焦ってしまったけれど、彼女が座る椅子に「すぐ戻るから」と書かれたメモを見つけて安堵した。
「うん、意外と早く終わって」
「そっか、松浦なら話長くなると思ってたから、まだだと思っちゃった」
そう言って白いタオル生地のハンカチをスカートのポケットにしまった。
どこに行ってたのか、聞くのは野暮ではないだろう。さすがに男として失礼だ。
「今日は午前中だからなんか新鮮だね」
夕日が差し込む時間帯を共にするけれど、登校日だったということもあり、彼女とこうして膝を付き合わすのは必然的に明るい時間になる。
「そうだね」
「この時間だと、呉野くんと話した内容もばっちり覚えてるよ」
ということは、やはり覚えてはいないのかと、内心傷付いている面倒な俺。
確かに、この前の過ちはもちろん忘れてくれて問題ないものだったけれど、それまでに過ごしてきた時間が、彼女の中に存在しないというのは、何度目の当たりにしても寂しいが付き纏ってしまうものらしい。
「俺は今までの話も全部覚えてるけどね」
「あ、それってなんかいいなあ」
心底羨ましそうな眼差しを向ける彼女からは、悪意めいたものは感じない。
本気でそう思ってくれているのだろう。
いつ来ても、無愛想な机と椅子が並ぶこの教室で、お決まりのようにセットを準備していく。
今日で吉瀬を描くのは通算十枚目。
吉瀬本人には、一枚の絵をずっと描いているように思わせているが、実のところ、吉瀬の線を模ったそれらは、俺の通学鞄にしっかりとしまわれている。
夏にしては緩やかで涼しい風が教室に吹き、その風に紛れるようにしてやってきたのが吉瀬だった。
「あれ? もう来てたんだ」
先にここで待っていてもらった吉瀬がここにいなくて、正直焦ってしまったけれど、彼女が座る椅子に「すぐ戻るから」と書かれたメモを見つけて安堵した。
「うん、意外と早く終わって」
「そっか、松浦なら話長くなると思ってたから、まだだと思っちゃった」
そう言って白いタオル生地のハンカチをスカートのポケットにしまった。
どこに行ってたのか、聞くのは野暮ではないだろう。さすがに男として失礼だ。
「今日は午前中だからなんか新鮮だね」
夕日が差し込む時間帯を共にするけれど、登校日だったということもあり、彼女とこうして膝を付き合わすのは必然的に明るい時間になる。
「そうだね」
「この時間だと、呉野くんと話した内容もばっちり覚えてるよ」
ということは、やはり覚えてはいないのかと、内心傷付いている面倒な俺。
確かに、この前の過ちはもちろん忘れてくれて問題ないものだったけれど、それまでに過ごしてきた時間が、彼女の中に存在しないというのは、何度目の当たりにしても寂しいが付き纏ってしまうものらしい。
「俺は今までの話も全部覚えてるけどね」
「あ、それってなんかいいなあ」
心底羨ましそうな眼差しを向ける彼女からは、悪意めいたものは感じない。
本気でそう思ってくれているのだろう。