「でも、それが答えなんで……」

 すみませんと、消え入りそうな声でぼそぼそ呟けば、松浦は「いや、分かるよ」と続ける。

「俺もお前の親御さんからは話は聞いてるし。でもさ、もうちょっとやりたいことやったらいいんじゃねえかって思うんだよな、俺は」

 やりたいことと、思わず松浦の言葉をなぞった。
 
「お前にだってあるだろ? この先やりたいことって」

 それを聞いた瞬間、自分の頭の中に浮かんだのは、漠然とした白い塊だった。それがなんなのか分からず、それを消化しきれないまま口を開く。

「……考えたこともなかったです」

 俺の人生は最初から決まっていた。生まれたときから、この地球で産声を上げた瞬間から、絶望という名の札を貼られたような人生だった。
 この先、なんて不確かなものが、俺には存在しないと思っていた。
 高校を卒業して、その先は考える必要さえないと思っていたこの俺の人生に、道は続いていないと思っているのだから、その質問はかなり難しい。
 そもそも、俺は中学までだったはずなんだ、学生生活は。
 義務教育は最低でも通えと言われ、どれだけいじめられようが踏ん張って通った。
 それをどう受け取ったのか、今度は「高校にも行った方がいいんじゃないか」という結論に至った俺の親はどうかしてるのだと思う。
 結局、俺にはなんの選択肢も与えられないまま、決められた高校へと進学するしかなかった。
 あそこで反論しなかったのは、もうすでに、決められたルールを走るしかないのだと、人生に悲観していたからかもしれない。
 だから松浦の質問は、とても簡単に決められるものではないと思う――

「そうか、それもそうだよな。――なら、考えるきっかけにすればいい」

 と自己解決したところで、斜め上の回答を飛ばされた。