夏の終わりを迎えるたびに、俺は来年、夏を迎えられているのだろうかと考えてしまう。
 登校日なんてもの、出席する人なんてほとんどいないのに、俺はちゃっかり登校して、そしてその数少ない生徒の中には、あのうるさい高岡がいた。

「呉野! どう? 俺こんがり焼けたと思わない?」
「……どうだろうね。元を覚えてないから」
「興味なっ! 俺に興味なさすぎじゃない?!」

 久しぶりに会っても、この男はほんとうにうるさくて参ってしまう。すこしは大人しく出来ないのかと言ったら「大人しくしてたら俺じゃないから」とあっさり断られた。

 ——ちらり、吉瀬を見れば、友人と楽しく笑っていた。

 彼女のあまりにも綺麗な涙が忘れられなくて、どうして言ってしまったのだろうと後悔した。
 けれど、あれから彼女は普通で、当たり前だけれど、あの時間は彼女の中では消えてしまっていることに気づいて、その後悔はすこし和らいだ。
 拓哉のことが頭に残って、ついあんなことを口走ってしまったけれど、本来なら誰にも打ち明けるつもりなんてなかった。
 そもそも友達もいなかったし、打ち明ける人間がいなかったといった方が正しいかもしれないけど。
 黙っていることが出来なかったのは、どうしてだろうか。
 定められた運命を、十分に生きてきたつもりだったのに。受け入れてきたつもりなのに。
 途端に抗いたくなってしまった。この運命から逃れたくなってしまったのかもしれない。
 拓哉の死と向き合って、それが自分に降り注ぐものだと思ったら、一気に現実味を帯びて。

 ——ああ、逃げられないんだ、俺は。

 そう思ってしまったから。だから、きっと吉瀬に伝えてしまったんだ。
 彼女には苦しい思いをしてほしくない。俺なんかのことで、もう泣いてほしくなんかない。
 ただ、笑っていてくれれば。吉瀬にとって大切な夕方を、ただ静かに一緒に過ごせればそれでよかったんだ。
 忘れてはいけない。俺は自分の立場を決して忘れてはいけないんだ。

「なに怖い顔してんだよ、モテ顔が台無しだぞ」
「……お前はいい加減静かにしてくれよ」

 こうして、高岡みたいに馬鹿騒ぎして過ごせたら、どれだけよかっただろうか。そんな人生を選んでこれなかった俺は、どこを間違えたのだろうか。