「今の呉野くん……すごく不安だ」
 偽りのない言葉が、ずとんと心に落ちてくるみたいだった。
 不安なのは、彼女の方なのか。それとも俺の方なのか。
 言葉がない。どう捉えていいのかわからない。この瞬間で、わからないことばかりだ。
 鉛筆を握る手にぐっと力が入っていく。自然と呼吸が深くなっていく。
「……っ」
 このモヤモヤを、ずっとどう消化したらいいのか、答えに辿り着けなくて、もう限界だった。
 視線は持ちあがらなかった。吉瀬からズレたまま、ようやく絞り出すような声で言葉が出ていった。
「……先週、俺が通っている病院で――」
 頭の中に、拓哉の残像が映し出される。この一週間、何度も何度もその姿が離れなくて、その度に後悔と懺悔が押し寄せる。
「……亡くなった子がいて……小学生の、男の子が」
 言葉が詰まってしまう。するすると、出てこない。
 吉瀬が、はっとしたような息を漏らした気がした。
「……ずっと、その子に会うたびに罪悪感みたいなものが増えていって、会いたくなかったんだけど……でも、その子は俺のことを好いてくれてて」
 いつだって、拓哉の方から声をかけてくれていた。
 俺がどれだけ遠ざけたくても、拓哉はそんな壁を壊して、あの無邪気な笑顔で俺を呼んでくれていた。
「……でも、ずっと申し訳なかった。話すことさえ、申し訳なかった」
 拓哉に対する気持ちはいつも同じだった。
「……どうして?」
 吐息混じりの、切ない声。彼女が今、どんな顔をしているのか、見ることさえ今は怖い。
 大きく息を吸って、肺から全ての酸素を吐き出すみたいに、深い息をつく。
「……同じだから」
「同じ?」
「――俺と同じ、病気だから」
 黒ずんだ肌が、忘れられない。拓哉の、肌の色が、今も俺の記憶に焼き付いて離れていかない。
「え……」
 同じだと、そう伝えるのが怖くて――いや、認めてしまうことが怖かったのだと思う。
 拓哉と同じ病気ということが。拓哉と同じということは、自分の命もまた、残りわずかだと認めなければいけなくて。
「その子が亡くなって……俺も、もう……」
 拓哉の死が悲しかった。と同時に、自分の死も、すぐそこまで迫っているんじゃないかと思ったら、無性に怖くなって、どこかに縋っていたくなって、心も身体も震えていくような、そんな恐怖に襲われた。
「呉野くんの……その病気は……長く生きることが出来ないの?」
 家族以外、誰にも打ち明けたことなんてなかった。
 誰にも言えなくて、ずっと自分の心の中にしまい込んできた。