今まで人と関わることを避けてきた代償なのだろうな、と学校に電話しながら思っていた。たまたま、夏休みに出勤していた担任が電話をとってくれたので話は早かったが、あれが別の先生だったら……なんて考えると、俺の方がよっぽどラッキーだったのだろう。
 ……まあ、つい最近、たまたまなんてないと痛感したばかりなのだけど。あれもあれで、偶然ではなく、必然だったのかもしれない。
「わたしたち、連絡先知らなかったもんね」
「うん……聞こうとは思ったけど」
 何度か、夏休み前に聞こうと試みたことはあった。
 でも、人生でそんな行動に出たことなんて一度もなくて、どう聞いたらいいのかわからなかったというのが正直なところ。連絡先一つ聞くのに、俺はこんなにも臆病なのかと自分を恥じたぐらいだ。
「体調悪いって言ってたけど、今は大丈夫そう?」
 いつもの定位置に座る吉瀬と、イーゼル越しに目が合う。
 会うのを先延ばしにした理由はそんなありきたりな嘘だった。
 体調を崩していたわけではないけど、最もらしい理由なんて頭に浮かばなくて……いや、嘘をついたわけではない。たしかに気分は優れなかった。
「あ……うん。平気。今は回復した」
 頷き一つ、ぎこちなさが表れてしまったかもしれない。その証拠に、吉瀬のガラス玉のような綺麗な瞳が、俺をじっと見つめていた。
「なにかあったの?」
 どきり、心臓が不規則で、不快な音を立てた。
 その目が、あまりにも真っ直ぐに核心をついてくるものだから、自然と瞬きが増えていく。
 定まらなくなった視線は、逃げるように目の前に用意された紙の中へと落ちていった。
「……いや、なにも」
 なにも、ない。そう言いきればよかったのに、俺はまた、ぎこちなさを露骨に出してしまった。
「うそ、なにかあったんだよね?」
 珍しく吉瀬が笑っていない。いつになく真剣な顔で、俺の心の奥へと踏み込んでくる。
「呉野くん、わたしが来たときからずっと……」
 彼女の言葉が、ぷつりと消えた。言うべきではないと、直前で判断したんだろうか。
 その瞳が、揺れていた。
 本気で心配しているように見えたのは俺の気のせいなのかもしれない。俺は吉瀬じゃないからわからない。わからない、けど――