なんだ、また暴言でも飛んでくるのかと構えていれば、
「いろいろ言ってごめんなさい、あと、ありがとうございました」
 予想外の一言に、思わず拍子抜けしてしまった。
「え……」
「あなたと拓哉をいつもと比べていました。どうして幼い拓哉の方が進行が早くて、あなたは遅いんだろうって。なんでそんなに肌も綺麗なんだろうって。同じ病気なのに、全然違って、あなたに会うたびに、いつもどうしてって」
 理子の顔が一瞬歪む。吐露したことのない思いを、初めて口にするような、そんな言いづらさを残しながら、彼女は続ける。
「拓哉がかわいそうだって思って。あなたとは会わせたくなかった。拓哉も同じことを思ってしまいそうだから」
「うん……」
 わかっていた。理子の拓哉に対する思いは、いつだって強く伝わってきていたから。
「でも、拓哉はあなたといることを望んでいた。あなたの話をする拓哉はいつも楽しそうで、子供らしく笑ってました。子供なのに、大人に気を使って、私にまで気を使っていた拓哉が、あなたといるときだけは拓哉のままでいられた」
 理子の髪がさらりと前におち、頭をさげる。
「拓哉にあのとき会ってくれてありがとうございました。辛かったはずなのに、会ってくれて……拓哉の願いを叶えてくれてありがとうございました」
 俯いていた理子の声はかすかに震えていた。いつも強気で、冷たい言葉ばかりを投げてくるあの理子は、今はどこにもいない。
 愛する家族を失った理子、そしてその家族は、きっと今、悲しみに暮れている。
 人の死は、簡単に乗り越えられるものではない。これから先、何年も、拓哉のことを思い出し、涙を流し、拓哉のいない日々を過ごしていく。
「……うん」
 そんな理子に、俺はなにも言えない。なにか言える立場ではないような気がして。
 ただ、理子の思いをしっかりと受け止めることだけが、俺の出来ることだと思った。