生きてる心地がしなかった。どうしようもなく不安になって、どうやってこれからを過ごしていけばいいのか、漠然ともうわからなくなってしまった。
 たまらなく吉瀬に会いたくなった。病院を出て、がむしゃらに走って、月夜の光るこの時間でしか外を走ることを許されないこの身体が、どうしようもなく脱いでしまいたくてしかたがない。
 病気になる理由なんて、そんな理由がもしあるなら消えてしまえばいいのに。
 どんな理由であれ、公平さを奪い取った神なんか、信じられるわけがない。
 拓哉はほんとうにあの答えで満足しただろうか。あんな答えを最期に聞かされて、それで幸せだったと言えるのだろうか。
 特別なんて、特別な存在だなんて、思えるわけがないだろ。思えるはずがないんだよ。
 あてもなく走り続けた先に、なにがあったというのだろうか。なにが見えたというのだろうか。
 ――俺はこのまま生きてて、いいのだろうか。
 走ることに限界を覚えたのは、これが生まれて初めてだったのかもしれない。
 俺の人生に全力疾走なんて言葉はなかった。ついてまわるものではなかった。
 なあ、拓哉。お前は本当に幸せだったのか?本当に幸せだったなんて思うのか?
 ごめん、ごめんな、拓哉。あんな言葉でしか送りだせなくて、あんな言葉でしか、お前に向けられなくて。
 死ぬのは、本当は俺の方だったのにな。



 油蝉がよく嗤っていた。頭の中の鐘を、じんじんと鳴らすような、そんな音。
 けれど、そんな音は別に今、唐突に聞こえたわけではない。意識する前から忙しなく鳴いていた。それに気付かなかったのは、ふと意識が途切れたから。
 拓哉の命が尽きてから、もう一週間が経とうとしていた。
 それからは、気付いたらぼんやりとしてしまう時間が増えてしまって、一気に深い悲しみに突き落とされたような気がする。
 ――あの日、俺が検診日ではなかったら。
 拓哉に会うことなんてなかった。最期の言葉を交わすこともなかった。
 月に一度の病院で、まるで照らし合わせたかのようにその偶然に鉢合わせてしまった。
 ……いや、偶然、なんて言葉は、この世界には存在しないのかもしれない。
 全て計算されているようにも思う。予定されていたような、自分の人生に最初から組み込まれていたような、そんな気さえしてしまう。