ベッドの上で眠る拓哉は、あどけない顔で弱りきっていた。息をするのもやっとなのだろうか、その呼吸はどこか苦しそうだ。
「……拓哉に、会ってあげて」
 拓哉の両親は、二人揃って無理して笑ってくれた。「拓哉も喜ぶと思うから」と。廊下を出ていった二人に「……ありがとうございます」と小さく漏れていく声。少しでも拓哉と一緒にいたいはずなのに、こんなときでさえ気を使ってくれる拓哉の両親。その心中を察すると、あまりにも痛い。
 ベッドサイドにあるパイプに座っては、静かに眠る拓哉の顔を眺めた。
 ずっと病院暮らしだった。学校にも行ったことがなかった。
 それでも、拓哉はいつもにこにこしていた。病気を感じさせないその顔に、いつだって俺は怯えていた。
 後悔ばかりが押し寄せる。もっと優しくしておけばよかったとか、もっといろんなことを教えてやればよかったとか――俺が拓哉になってやれたらとか。
 そんなことを考えては、拓哉の顔が見れなくなっていく。
 シーツから出ていた拓哉の手は、まだまだ子供の手をしている。小さくて、大人になりきれない手。
「……ゆき、兄ちゃん」
 途切れ途切れに聞こえたその声に視線を上げると、目を閉じてた拓哉が、俺を見ていた。
「……来て……くれたんだ」
 その顔が、ほろほろと緩んでいく。苦しい中でも、人を安心させようとするその顔に言葉が詰まる。
「……ゆき兄ちゃんにね……会いたいって、思ってたんだ」
「……どうして?」
「話、したくて……」
 つたない喋り方で、それでも、普段見せている笑みとは変わらないものを、今なお浮かべようとしている。
 げっそりとした頬が見ていられなくて、視線を逸らしてしまいたくなる。それでも、拓哉の顔から目が離せない。
「前に……アニメの話、してくれた……でしょ? あのね、ぼく、ずっと考えてたことがあって……どうしてぼくは、病気を持って生まれてきちゃったんだろうって……。病気があるとね……おとうさんも、おかあさんも、理子も、ずっと泣いてて……ずっと、頑張ってて」
 拓哉から見た自分の家族は、いつだって辛そうに見えていたのだろう。