「あ……そうなんだ、わたし前にも言ってたんだ」
彼女が苦笑を滲ませ、やってしまった、と思った。
あの時間を、彼女は忘れてしまっている。俺がそのことを覚えておかなきゃいけないのに、
「ごめんね、変なこと言っちゃってた」
困ったように笑うものだから、なにも言えなくなる。気の利いた台詞なんて、思い浮かびもしない。
夕焼けが真っ赤に空を燃やしていく。その空を、彼女は窓枠越しから眺めていた。
「ここに来るとね、なんだか心が自然と開いていっちゃうような気分になるんだ」
なんでかな?と笑う彼女は、やっぱりどこか寂しそうで。
「だから、喋っちゃう。呉野くんに、閉じ込めていた言葉を、吐き出しちゃうんだ。きっと開放感を味わってるんだろうね。心が軽くなっていくような気分」
そんなことを思ってくれていたんだと、自然と顔の緊張が消えていった。
別に力んでいたわけではない。でもどこかで、彼女と過ごす時間の重みを深く捉えすぎてしまって、楽になんてなれなかったのだろう。
「……それは、嬉しいよ……俺からすると」
ここに来て、心を閉ざされるよりはずっと嬉しい。それはきっと、彼女が抱えているなにかから、一時期にも解放されているような気分に聞こえるから。
今だけは、ゆるやかに、そして優しく時間が流れていくような気がする。それは彼女の線を描きたい俺も、そして俺自身にとっても、心がゆるゆるとほぐされていくような言葉だ。
「わたし……優しいねって、言われるように普段意識してるの」
ぽつり、ぽつり、こぼされていく声は、あまりにも小さくて、彼女の儚さが際立っていくように見える。
「周りの目ばかり気にして、人の顔色ばかり伺って、それで、優しいねって言われるような行動をとるの。自分の意思じゃなくて、ただ人から優しくされたい一心で。見返りを……求めるだけの優しさなんだよ、わたしのって」
いつも笑っている彼女は、そんな欠片を一つも見せたりはしない。
彼女の印象は、明るくて、華があって、けれどどこか危うくて。
そんな彼女が吐露されていく感情は、きっと彼女の奥深くに眠る大事なもので。
「……卑怯、なんだよ、わたし。優しくなんて、ないんだよ」
自分を否定ばかりする。そんな言葉なんて似合わないのに、無理矢理当てはめようとしているように聞こえて、切ない。
彼女が苦笑を滲ませ、やってしまった、と思った。
あの時間を、彼女は忘れてしまっている。俺がそのことを覚えておかなきゃいけないのに、
「ごめんね、変なこと言っちゃってた」
困ったように笑うものだから、なにも言えなくなる。気の利いた台詞なんて、思い浮かびもしない。
夕焼けが真っ赤に空を燃やしていく。その空を、彼女は窓枠越しから眺めていた。
「ここに来るとね、なんだか心が自然と開いていっちゃうような気分になるんだ」
なんでかな?と笑う彼女は、やっぱりどこか寂しそうで。
「だから、喋っちゃう。呉野くんに、閉じ込めていた言葉を、吐き出しちゃうんだ。きっと開放感を味わってるんだろうね。心が軽くなっていくような気分」
そんなことを思ってくれていたんだと、自然と顔の緊張が消えていった。
別に力んでいたわけではない。でもどこかで、彼女と過ごす時間の重みを深く捉えすぎてしまって、楽になんてなれなかったのだろう。
「……それは、嬉しいよ……俺からすると」
ここに来て、心を閉ざされるよりはずっと嬉しい。それはきっと、彼女が抱えているなにかから、一時期にも解放されているような気分に聞こえるから。
今だけは、ゆるやかに、そして優しく時間が流れていくような気がする。それは彼女の線を描きたい俺も、そして俺自身にとっても、心がゆるゆるとほぐされていくような言葉だ。
「わたし……優しいねって、言われるように普段意識してるの」
ぽつり、ぽつり、こぼされていく声は、あまりにも小さくて、彼女の儚さが際立っていくように見える。
「周りの目ばかり気にして、人の顔色ばかり伺って、それで、優しいねって言われるような行動をとるの。自分の意思じゃなくて、ただ人から優しくされたい一心で。見返りを……求めるだけの優しさなんだよ、わたしのって」
いつも笑っている彼女は、そんな欠片を一つも見せたりはしない。
彼女の印象は、明るくて、華があって、けれどどこか危うくて。
そんな彼女が吐露されていく感情は、きっと彼女の奥深くに眠る大事なもので。
「……卑怯、なんだよ、わたし。優しくなんて、ないんだよ」
自分を否定ばかりする。そんな言葉なんて似合わないのに、無理矢理当てはめようとしているように聞こえて、切ない。