きっと無知なわたしに、どう説明したらいいのかを簡潔にしようとしてくれていたのかもしれない。明確な答えはきっと彼の中にあって、それを上手く解きほぐしているような、やんわりとなにかを包んでいくような作業をしているように見えた。
「火傷は怖いね……それって治るの?」
「いや、治らない……えっと、普通は修復するような機能が人間には備わってるから、日焼けとかでダメージを受けた肌を正常に戻すんだけど、俺の場合はその機能が低下っていうか……まあほとんど役割を果たしてないから、結果的に焼けた肌はそのままっていうか」
 あれこれと、言葉を引っ張り出してきてくれているようなイメージ。本当は色々と難しい言葉が使われるのだろうけど、それをやんわりと分かりやすく説明してくれているのがなんとなく伝わる。
 彼の肌に自然と目がいく。シャツからのぞく首筋や手首は、わたしよりも白くて綺麗。
「……もし焼けたら?」
 太陽をまるで知らないと言わんばかりの肌から目が離せないでいると、彼は「あー」と少し唸って、それから
「黒くなっていくんだ」
 そう、静かに息をこぼした。
「シミとかそばかすとか、いろいろ増えて、赤黒くなって戻らない。俺はまだ症状が軽いんだ。奇跡的にね。本当は黒くなるはずなんだけど、軽いからまだ」
 そう言った彼はどこか寂しそうな顔をして、自分の手に視線を落とした。
「……そっか」
 その顔が自分の手ではなく、その先にある何かを見つめていた気がして、それ以上彼の病に触れることはやめた。
 あのとき、彼は何を見ていたのだろう――何を、思い出していたのだろう。そこに触れられないことが、どこかもどかしく思えた。