『すごいなあ、コンクールかあ……あ、描けたらわたしも見せてね』

 あの約束も、彼女の中ではもう存在しないのだろう。
 一番に見せたかった彼女は、あの約束を覚えていない。覚えられていない約束を胸に抱えながら、俺はイーゼルを準備しては用紙を置いた。
 これから挑もうとする高い壁。その先は俺でも見えない。
 ここにどんな絵が描かれていくのか分からない。何が完成するのか、それはきっと、未来の俺だけが知っている。ここに向き合った俺だけが見える絵なのだろう。
 蝉がひっきりなしに鳴いている。そう言えば、高岡のボイコット運動はどうなっているんだろうか。あれはあれでまた先が見えない。そもそも本当にボイコットするつもりなのだろうか。もししたとすれば、それはそれで大騒動になること間違いないだろう。高岡という男は本当にとんでもない男だ。
 気になることが多い中で、何を描いていこうか、沈んでいく夕日を見つめながら考えた。