……やっぱり、やめた方がいいだろうか。
 今ならまだ間に合うんじゃないかとは多少なりとも思っている。それでも俺は、その選択肢を浮かべながらも、口にすることはしなかった。
 頑張ってみます、と告げた俺に、たえちゃんは嬉しそうに笑っていた。
 コンクールに向けて準備はしていくものの、美術部員と同じ教室というのは気が引けて、そのことを相談すると「そういうことなら」と、別の空き教室をたえちゃんがわざわざ用意してくれた。

「ここはね、文化祭とか大きな大会がある時とか、部室では間に合わない時に使う用の教室なんだけどね、今はそういったイベント控えてないから、呉野くんの貸し切りよ」
「いいんですか……? 部員でもないのに、しかも俺だけって」
「いいのいいの、どうせ使ってないんだから。呉野くんも、部室を使うのって気が引けるでしょ? 満足いく絵が描けない環境に置かせちゃうのも問題あるんだから、好きに使って」
「……ありがとうございます」

 たえちゃんの好意を素直にありがたく受け取る。
 放課後の、橙色に染まる教室が好きだ。そもそも、日が暮れていく時間帯になると、ほっとする。太陽が沈んでいくのを見ていると、自分が生きてることを許されるような気持ちになる。
 空が赤く燃え始めると安心する。夜が訪れるから。太陽を気にせず、堂々とこの世界を歩いていける。
 たえちゃんがいなくなった教室で、静かに窓の向こうを眺めていると、昨日の出来事がふっと蘇る。