「あ、本当? 引き受けてくれるの?」
放課後、職員室を訪れては、たえちゃんを探した。机に向かっていたその背中に声を掛けると柔らかい笑みをこぼした。
「はい、……上手く描けるかは自信ないですけど」
「いいのよ、そういうのを競うコンクールじゃないから。その人の本質を見るところだから、上手い下手は関係ないのよ」
たえちゃんはなにかとやんわりとコンクールというものを説明してくれるけれど、それでもやっぱり、俺みたいな初心者が出ていいのかは未だ不安でしかない。
けれど、わざわざ職員室に出向き、たえちゃんに報告しては、正式に秋のコンクールに出品することを約束してしまった。
高三という、あまりにも遅すぎるデビューに逃げ腰ではあるものの、上手い下手が関係ないというたえちゃんの言葉にはどこかほっと胸をなでおろす。
「描くものって決まってるんですか?」
「ううん、描きたいものを描いてくれたらいいのよ。呉野くんの心に残る風景とか、印象的な出来事とか、空想上の世界とか。なんでもいいの。描きたいように描いてくれれば」
「そうですか……」
と言われるものの、ピンとくるものはなかった。ちゃんと絵を描いたのはこの前のりんごぐらいだったし、風景が描けるとも思えない。基礎的なことは教えるからね、とたえちゃんは言ってくれていたものの、俺に足りないのは経験と、時間だ。
秋までのコンクールは三か月を切っている。たえちゃんの話では、春から準備し始めてる子もいると言っていたのだから、一つ季節を過ぎた夏から、完全なド素人が描き始めるというのはさすがに無理のある話だ。まだ来年挑戦するならまだしも、俺はこの秋に挑もうとしている。
放課後、職員室を訪れては、たえちゃんを探した。机に向かっていたその背中に声を掛けると柔らかい笑みをこぼした。
「はい、……上手く描けるかは自信ないですけど」
「いいのよ、そういうのを競うコンクールじゃないから。その人の本質を見るところだから、上手い下手は関係ないのよ」
たえちゃんはなにかとやんわりとコンクールというものを説明してくれるけれど、それでもやっぱり、俺みたいな初心者が出ていいのかは未だ不安でしかない。
けれど、わざわざ職員室に出向き、たえちゃんに報告しては、正式に秋のコンクールに出品することを約束してしまった。
高三という、あまりにも遅すぎるデビューに逃げ腰ではあるものの、上手い下手が関係ないというたえちゃんの言葉にはどこかほっと胸をなでおろす。
「描くものって決まってるんですか?」
「ううん、描きたいものを描いてくれたらいいのよ。呉野くんの心に残る風景とか、印象的な出来事とか、空想上の世界とか。なんでもいいの。描きたいように描いてくれれば」
「そうですか……」
と言われるものの、ピンとくるものはなかった。ちゃんと絵を描いたのはこの前のりんごぐらいだったし、風景が描けるとも思えない。基礎的なことは教えるからね、とたえちゃんは言ってくれていたものの、俺に足りないのは経験と、時間だ。
秋までのコンクールは三か月を切っている。たえちゃんの話では、春から準備し始めてる子もいると言っていたのだから、一つ季節を過ぎた夏から、完全なド素人が描き始めるというのはさすがに無理のある話だ。まだ来年挑戦するならまだしも、俺はこの秋に挑もうとしている。