「高岡ぐらいだよ、こうして話しかけてくんの」
「まあ、そうだろうな。俺みたいなデリカシーない奴じゃないと、お前みたいなのに話しかけられないだろうし」
「……デリカシーないって自覚あったんだ」
「あるに決まってんだろ。俺の座右の銘、自由に生きる、だから」
「……馬鹿じゃん」
「おい」
 うるさくて、やいやい騒いでる奴だと思っていたが、きっとこの遠慮のなさは、高岡なりに俺との距離を詰める為に必要な行為だったのだろう。だから、許可なくズカズカと踏み込んでくるんだ。容赦なく、内側を土足で歩いてくるように。
 周囲は、俺をまるで腫れ物のように扱う。触れたらやばい、みたいな、おかしな危機感を持って、誰も近付こうなんてしないのに。
「呉野ってもっとこう、あれだよ、積極的になってけよ。お前良い顔してんだからよ、その武器をなんで上手く使っていけないんだよ。俺だったら、その顔でどんだけでも彼女作るぞ」
「……」
「その冷めた目だけはやめろ。冗談だって、冗談に決まってんだろ」
 見学は、静かな時間のはずだった。それが何故だか、高岡というお祭り騒ぎの人間に掴まり、ものの見事に静寂を奪われていく。
「あ、分かった。じゃあさ、お前の顔、ダシに使ってもいい? 今度合コンでさ」
「無理」
「おい聞けよ。いいじゃねえか。全然いいじゃねえか。顔ぐらい使わせろよ」
 とんでもないどんちゃん騒ぎを俺に仕掛けてくるのは、きっとこの世界でも高岡ぐらいなんだろうなと、相変わらず暑さで揺れている景色を見て思っていた。