「それってさ、治ったりすんの?」
 どっこいしょと、パーソナルスペースガン無視の男の髪が、赤髪に近いような色で燃えているように見える。チリチリと、音まで聞こえてきそうなその色は、以前真っ赤に染めた時の名残らしい。ようは黒染めが落ち、日に当たると赤く見えてしまうわけだ。
「今のところ治療法はない」
「えーじゃあ、どうすんのさ」
「……極力、直射日光を避けるしかない」
「うわ、無理じゃん。乙じゃん。お疲れじゃん」
 驚きに満ちたその瞳に、ふつふつと苛立ちが募る。この男とこんな風に話したりするのは初めてで、ほぼほぼ接点もないというのに、どうしてこも人のデリケートな部分に入ってこれるのか。
「完全防御とか無理じゃね? だって俺らディーケースリーだぜ?」
「なにそれ」
「男子高校三年生」
「ああ……」
 聞きなじみのない横文字をようやく理解したところで、ふっと息をつく。まさか一番共に過ごしたくない男と体育の見学が被るなんて思ってもいなかった。見学理由もなさそうだし、元気そうだし、俺みたいに変な病抱えてないし。
『うっわ! ジャージ忘れた! まじかよ、激萎えぽよりんじゃん』
 二限目が終わった時、この男の台詞を耳に入れていたのだから、無理して参加する必要はなかったんだ。ああ、失敗だ。大失敗。いっそ保健室に逃げ込めば良かったと後悔し始める。
「そっかあ、大変だよなあ、太陽と相性合わないって。そんなもん生まれてから言われたって遅くね? あれだよな、結婚してから女に色々と問題が発覚したっていうのと同じだよな? 結婚する前に言えよってやつだな」
「そことイコールになんの?」
「なるなる。そういう問題だろ?」
「……ちょっとズレてると思うけど」
 まさかこの病が結婚と同じように例えられるとは思ってもいなくて、けれども言いたいことがなんとなく伝わってくるものだからじわじわと面白さがこみ上げてくる。
 高岡鶴賀は、かなり変わった男だと思う。珍騒動をよく起こしてるし、こいつがいるだけでその周辺がうるさい。でも、やたらと人に好かれる。人との距離の詰め方を間違えているのに、それを受け入れてもらえるような不思議な男。常識人が真似しようと思っても、到底出来っこない至難の業だ。
「まあ、大変って言えば、吉瀬もそんな感じだったっけ」
 不意に出てきたその名前に、姿の見えない彼女の顔を思い出す。
 吉瀬弥宵。ふと過ったのは、背中に靡く黒髪を、つやつやと揺らしているようなシーン。肩越しに振り返った、目鼻立ちのはっきりとした顔が強く映し出される。