コンクールのあの絵は、優勝には至らなかったけれど、特別賞という形で評価されたらしい。あのブースも、呉野くんを追悼する意味で設けられたのだと、お母さんは教えてくれた。
『きっとね、あの子は恥ずかしい思いしてると思うんだけど。全部出すなよって怒ってると思う』
そう肩を竦めて笑うお母さんの姿は、どこか寂しそうに呉野くんの写真を見つめていた。
写真の中の呉野くんはやっぱり無愛想で、不満たらたらのような表情で、でも愛おしくて。
『あの子、写真は絶対に撮らせてくれなかったから、こんな写真しか残ってなくて。肌とか、綺麗だったんだけどね。でもやっぱり病気のことがあって、自分のこと残したくなかったんだと思う』
前に、一緒に写真を撮ろうと言ったとき、頑なに拒まれたことが日記に書いてあったのを思い出した。なんでも受け入れてくれたけれど、写真だけは最後まで写ろうとしなかった理由は、あまりにも悲しい理由のせいだったのかと知る。
西に傾いた太陽が、橙色に染まっている。赤くて、まるでわたしを闇へと引きずり込んでいくこの時間が嫌いでたまらなかった。きっと明日になったら、今のこの光景も忘れてしまう。呉野くんの家に行ったことさえ忘れてしまう。覚えていられない時間なんて必要ないと、そう思っていたのに。
呉野くんといたあの夕方の時間は、あまりにもきらきらしていた。楽しくて仕方がないような、そんな気持ちが日記から伝わって、読んでいても心が満ちていくような感覚になる。
呉野くんが描いてくれた絵を見て、この時間のわたしは、どの時間のわたしより、わたしらしかった。
ゆらゆらと視界が揺れる。夕日が揺れているのか、それともまた、視界に涙がたまってるのか。
呉野くんがくれた特別な夕暮れは、わたしの心の中でいつまでも強く光続けていく。
〝夕暮れサーチライト〟
呉野くんがあの絵につけてくれたタイトルを、わたしはきっと心に焼き付けていくのだと思う。
わたしにとって、呉野くんは光でしかなかった。絶望してしまうこの夕方に、一筋の強い光を与えてくれた、かけがえのない人。
忘れても、覚えてなくても、あの日記が教えてくれる。
彼と過ごしたかけがえのない時間を、わたしはまた、何度だって過ごしていく。
沈んでいくその夕陽の下には、もう呉野くんはいない。けれど、その光の先には彼がいるような気がして、ただ静かに、その夕陽を眺めた。強い光が消えていくまで。