「あ、馬鹿にはしてたと思いますけど、なんていうんですかね、愛があるっていうか。そういうのわかるじゃないですか。見下されてるのとはまた別の、温かいやつ」
 高岡くんと一緒にいた呉野くんは、いつもよりくだけているような印象で、どことなく心を開いているようにも見えていて。
「俺、幸人くんのことなにも知らなかったですけど、この前のコンクールの絵を見に行ったとき、なんか、恥ずかしいですけど泣けました。たくさん吉瀬がそこにはいて、描きたいものを、やりたいことを真剣にやってる呉野、めちゃくちゃかっこいいなって」
「……」
「あいつは俺のこと、友達だって認めないかもしれないですけど、俺は友達だって思ってます。これからもずっと、俺はあいつが憧れだし、あいつの友達でいたいです。また会ったとき、馬鹿ができるように、あいつと友達でいたいです」
 高岡くんの真っ直ぐな気持ちは、痛いほど伝わって、引いたはずの涙がうっすらと浮かんだ。
「……ありがとう」
 お母さんは泣いていた。高岡くんの話を聞いて、スイッチが切れてしまったかのように泣いていた。
「……後悔しかないの。あんな体で産んでしまったことも、学校のことも、全部全部申し訳なくてね。あの子を守るのに必死だったから、あの子の体ばかりに目がいってしまって、肝心の心には目を向けてあげることが出来なくて」
 瞳から溢れる涙に、つられて止めた涙が流れてくる。
「余命宣告を受けたとき、冬を迎えることは出来ないって言われてね。あの子、いろいろと覚悟して生きてきたんだと思うけど、さすがに辛かったみたいで。少し前に、あの子と同じ病を持った男の子が亡くなって、自分もこうなるんだって思ったと思うの」
 日記に書いてあった文章が、文字となって頭の中に浮かんだ。
「〝もう死ぬんだから好きにさせろよ〟って、言い合いになったときに言われてしまってね。その言葉になにも言ってあげられなくて、一番悲しい思いをしてるあの子に、わたしは母親なのに、かけてあげられる言葉がなにもなかった」
 辛くて苦しい胸のうち。わたしの知らない呉野くんのいた時間。
「もう絶対安静だって言われてるときに、あの子病院を抜け出して。病院から電話を受けたとき、もう心臓が止まるかと思った。だって、なにも持たずに出ていったって言われるんだから。太陽の下を走れないのに、自分を守るものなにもつけずに、自分から危険な場所に飛び出して。昔ね、夢はなに?って聞いたら、太陽の下を走ることって言われたのを思い出したわ。やりたかったことなのに、させてあげられなかったから」
 季節関係なく長袖の呉野くんの姿を思い出す。外にいるときは、日傘や帽子も必要で、体育の時間はいつも見学していた。