「呉野に会いに行かない?」
 冬休みが明け、三学期に突入したタイミングで、高岡くんにそう提案されたときは字の如くフリーズしてしまった。
「え……?」
「四十九日終わったと思うからさ、線香あげに」
 高岡くんの言葉に「ああ、もうそんな時期なのか」と言葉がもれていった。
 呉野くんがいなくなっても、この世界はなにごともなかったかのように進んでいく。時間は止まらないし、新聞にもニュースにも流れたりはしなかった。それは当たり前なのかもしれないけれど、なんだかすごくさみしくて、呉野くんの存在がそっと消えてしまった気がした。
「あ……でもいきなり行ったりしたら迷惑じゃない? 家も知らないし」
「平気。担任に家教えてもらったし、呉野の母さんにも伝えてもらった」
 どうやらそのあたりの準備はすでに整っているようで、あとはわたしだけといったところの様子。
「でもどうしてわたしを……?」
 誘ってもらえるのはありがたいけれど、だからと言って、なぜわたしを誘うのだろうか。
 そんな疑問が伝わったのか、にへらと高岡くんが笑う。
「呉野が一番喜ぶと思うから」

 呉野くんの家は、学校の最寄駅から四つ離れた駅だと高岡くんが教えてくれた。駅からは歩いて十五分。辿り着いたのはライオン像でお馴染みのマンションだった。
 高岡くんにお誘いを受け、その日のうちに呉野くんの家へとふたりして向かう道中で、あれだけおしゃべりの高岡くんは、なにも口にすることはなく、しばし沈黙の時間を過ごして到着した。
 エレベーターで三階。おりてから二つ目の扉には、呉野と右上に表札がかかげられていた。
 すこしばかり緊張が生じたのはなにもわたしだけではなかったはず。高岡くんもまた、インターホンを押すのを一瞬躊躇うかのように右手が宙を彷徨った。
 ピンポーンと鳴ったのはそれからすぐのことで、「はーい」と扉越しに女性の声が聞こえる。インターホンで応答しないということは、すでにわたしたちだということを察しているのか。
「はーい……あ、幸人のクラスの子、かしら?」
 出迎えてくれたのは、人が良さそうな女性が一人。わたしたちの顔を見て、なにを聞くでもなく「どうぞ」と家の中に招いた。
「あ……お邪魔します」
 戸惑いつつも、はきはきとそう言った高岡くんにならい、同じような挨拶を口にしては玄関へと足を踏み入れる。
 廊下を進み、突き当たりにはリビング。その奥に小さな仏壇と、呉野くんの写真。その前には、白い骨箱が添えられるように置かれていた。
「狭くてごめんなさいね。今、お茶淹れるから」
「すみません、いきなり押しかけてしまって」
 呉野くんのお母さんと高岡くんのやりとりが広げられる中、ただ呆然と仏前から動けなくなってしまって。
 久しぶりに再会する呉野くんは、写真の中で無愛想にこちらを見つめている。その前にあるのはきっと、呉野くんを形成していた骨だ。
〝ああ、本当に呉野くんはいないんだ〟と、漠然と喪失感に襲われる。