「形だけだけど、でも、その形だけで救われることはあるでしょ? 大なり小なりあると思うけど、なんかこうした方がいいかなって」
 それはつまり、俺の為にしてくれたということなんだろうか。まさかの回答に、逡巡しては「そっか」と、また同じ言葉を返してしまった。本当はもっと気の利いたことを言えば良かったのに、結局出てくるのはそんな言葉で、自分の語彙力のなさに呆れてしまう。
 確かに可哀想だと思ったし、踏まれないような場所に移動させたいと思った。わざわざお墓を作ろうとは考えなかったけど、たしかに見えないところで踏まれてしまっているよりは、こっちの方がよかったのだと思える。
「なんかさ、知らないままでいたら、別に気にすることもないんだろうけど。でも知っちゃったらさ、気にしちゃうじゃない? いろんなことに言えることだけど、蝉にそう思ってる呉野くんって純粋なんだなと思って」
 彼女の直球過ぎる言葉が、とんでもなく眩しく感じてしまう。――ああ、きっと似ているんだ。苦手なあの子に。だから眩しくて、目を逸らしたくなってしまう。
 俺は別に純粋でもないし、お墓を作ろうと考えた彼女の方がよっぽど純粋だと思うけど、それを言葉にするのは控えた。今でも、どこまで思ったことを言っていいのか、その境界線が分からない。無意識に傷付ける言葉は使いたくないし、出来れば俺なんかの言葉で傷付いてほしくない。
 だからどうしても、喋る内容は頭でまず考えてしまう。そのままタイミングを逃すこともあるし、話すことを躊躇してこうしてやめてしまうこともある。
「――あのさ」
 それでも、躊躇した代わりに、ぽつんと出た言葉がふっと浮かんだ。
「今日、たえちゃんに授業のあと呼ばれたんだ」
 この流れでするような内容ではないと、空気の不一致さを感じ取りながらも、何故だか話したいと思った。
「吉瀬が言ってたことと、同じようなことを言われた」
 ぽつぽつと出てくる言葉に彼女は「あ、やっぱり?」と話を聞いてくれる。
「そりゃあそうだよね、だって呉野くんのりんごは特別だったもん。まあ、友達の受け売りだったりするんだけどね」
 肩をすくめて笑う彼女に思わず見惚れてしまう。
 特別だと、そう思ってくれるのはきっと、吉瀬ぐらいなのだろう。なんてことはないりんごを、そうやって褒めてくれるのは吉瀬と、ああ、あとはたえちゃんぐらいだ。