絵の具で塗ったような見事な紅葉は、何気ない日常を送っていると、あっという間に終わってしまっていた。
 見上げれば、それは娯楽として人は愉しむものなのに、いざ地面に落ちてしまうと、まるでごみのように踏み荒らしていく。
 見上げることと、見下げることでは、なにが違うというのだろうか。
 ずいぶんと冷え込むようになってしまった。世間はもうすぐクリスマスという聖なるイベントを目の前にしていた。
 ふと、濡れるように広がった落ち葉の中に、季節外れの蝉を見つけて、思わずじっと見つめてしまう。
 蝉の亡骸を見つけると、こうして目を止めてしまうことが増えた。
「ねえ、弥宵にとって夕方は、まだ嫌いな時間なの?」
 慧子の聞き取りやすい凛とした声が聞こえては、はっとして、視線が声を追いかけていく。
 下から覗き込むようにして見えた彼女に「え?」と驚きが出たものの「どうかな」と苦笑が滲む。
「嫌いというか……覚えてられないから」
 夕方の記憶は消えていく。綺麗さっぱりと。だから、好きか嫌いかという概念で話をするのは難しい。
「でも、好きではないと思う」
 どちらかに当てはめないといけないのなら、好きとは答えられないもので。そんなわたしの答えに、慧子は「そっか」と苦く微笑んだ。
 気温がぐっと下がり、冷え込みが厳しくなってきたころ、慧子に「連れていきたい場所がある」と言われたのは、冬休みに入る直前のことだった。
 そこがどこなのか、どうして連れていきたいのか、慧子はひとつも情報をくれようとはせず、ただひたすらに「お願いだから一緒に来て」とだけ言われていた。
 連れられたのは、ガラス張りになった大きな建造物の前。呆然としているわたしに、隣から「美術館だよ」と慧子が教えてくれる。
「美術館……? どうして急に」
 そんなわたしの問いかけに、慧子はなにも答えなかった。ここに来るまでの道中でも、口数はずいぶんと少なかったけれど、ここに到着してからの慧子は、より一層まとう空気が険しくなったような気がする。
 美術館に足を踏み入れたことは人生で一度もなかった。慧子が受付を済ませているのを横目に、その横には「高校生デッサンコンクール」と書かれたパネルがひっそりと佇んでいた。