「吉瀬に出会えて本当によかった」
心から出ていった言葉に、彼女はどんな顔をしたらいいかわからないような顔をしていた。
「え……なんか、困っちゃうなあ。そう言われちゃうと」
「ごめん、困らせるつもりはなかったんだけど……言えるときに言うって、大事だと思って」
こんな小っ恥ずかしいこと、普段なら絶対に言えない。言えないけれど、言わないと、俺は二度と彼女に伝えることは出来ない。
「吉瀬──俺に、吉瀬の夕方をくれて、ありがとう」
彼女にとって大切なこの時間を、俺に託してくれたことは、本当に奇跡だったのだと思う。
拓哉、俺も生まれてこれてよかったと思えたよ。あのとき、幸せだったと言った拓哉が信じられなかったけど、でも、今、俺もすごく幸せだ。
残り少ない俺の人生に、彼女との時間があったことは、せめてもの救いだった。
生まれてこなければよかったと思ったこともあった。けれど、俺は彼女に出会うために生まれてきたんじゃないかと思うと、俺はたとえ太陽と相性が悪くても、生まれてくる必要があったのだと思う。
彼女はまた困ったように笑う。長い睫毛をかすかにゆらし、その奥に隠した瞳もゆらゆらと揺れたように見えた。
「──わたしも、呉野くんとこうして過ごせてよかったよ」
それが、どれだけ俺の心に染み込んでいったか、彼女はきっと知らない。知らなくていい。俺だけのものでいてくれれば、それで。
──好きだよ。そんな愛は、俺だけが知っていればそれでいいんだ。