昇降口で上履きに履き替え、二週間ぶりの校舎にも拘らず、視線はただ一直線だった。
 はやく、はやく描きたい。今、頭を支配していくこの感情のまま、彼女の絵を描いておきたい。ただそれだけの思いだった。
 肌がひりひりする。紫外線を目一杯浴びたからだ。それでも、そんな痛みはどうだっていい。今は、そんなことなんだっていい。
 あの特別な教室めがけて走り、つまずきそうになっても走り、そうして、扉に手をかけた瞬間──世界が止まったかと思った。
「呉野くん……」
 彼女が——吉瀬が、いつもの指定席に座っていた。
 俺がこの学校から消えて二週間が経つというのに、彼女はたしかにその場所にいて。
「きち……せ……」
 口の中が乾いていて、うまく声が出せない。九月下旬でも、まだしっかりと残暑が続いている。その中を走ってきたのだから、水分を失っていても当然かもしれないが、そんなことよりもきっと、単純に驚きのほうが勝ったのだと思う。
「どうして学校に……入院してるんじゃ」
 ひどく驚いた彼女に、ほっと胸をなでおろす。よかった。ほんとうに。
「太陽を浴びたら、きみに──吉瀬に、会いに行けると思ったんだ」
 代償を払えば、最期に会えるような気がした。どうしても彼女に会いたくて、たまらなく会いたくて、太陽の下を無我夢中で駆けた。
 彼女の硝子玉のような瞳がゆらりと揺れている。何度か瞬きを繰り返し、視線を落とし、ふと上げたかと思えば、彼女はいつもの笑顔を浮かべた。
「なんだか、呉野くんがいると、ようやくここが成り立つ気がするね」
 久しぶり、なんて会話が飛び交うわけでもなく、まるでついさっきまで話をしていたような流れに、若干狼狽えながらも「そう……?」と教室に踏み込んだ。