実家の中へ入ると、そこにはぐったりとしているザイト兄さんが座っていた。そして、俺たちを見るとすぐさま立ち上がり、頭を下げてきた。

「本当に申し訳なかった」
「......」
「今回、俺の不手際でこのような事態が起きてしまった。もしリアムたちが来てくれなかったらどうなっていたことか」
「そうよ! あなたがリアムを追放しなければ」
 
 シェルが言ったことに対して、ザイト兄さんは頭を下げたままであった。

「シェル、やめろ」
「でも......」
「もう終わったことだから」

 そう、実家を追放されたことなんてもう過ぎたことだ。そりゃあ、実家を追放されていなければこのような事態にはならなかったのかもしれない。でも、俺にも落ち度はあったはずだ。だからザイト兄さんを責める資格はない。

「本当にすまない」
「ザイト兄さん」

 俺が呼びかけると、頭を上げて俺の顔を見てきた。

「どうした?」
「今から真剣な話をしたいから、地下室へ行こう」
「あぁ」

 俺たちは、父さんの部屋に入ってから、地下室の中に入って、石板をザイト兄さんに見せる。

「今回の発端はこれだよね?」
「なんでそれを......」
「これ、古代文字なんだ。そして、ここにはこう記されている」

【禁断の魔族~~~。】

 俺が書かれている内容をすべて説明すると、ザイト兄さんは顔を青くしていた。

「......」
「ザイト兄さんは解いてはいけないのを解いてしまった。そう言うことなんだ」
「そ、そうなのか」
「そして、ザイト兄さんが操られてから、住民たちは疫病にかかって街が滅亡仕掛けた。そして多分、ベルフェゴールのせいで街にはモンスターがやってきた」

 そう、今回一番やってはいけなかったことは、ベルフェゴールを解き放ってはいけなかったこと。もし、これを解き放たなかったら、疫病になることは無かったし、モンスターたちが押し寄せてくることもなかったはずだ。

「ごめん」
「ザイト兄さんはこの場所をしっていたの?」
「あぁ。リアムを追放した後、父さんに連れられてここに来た」
「父さんはなんて?」

 今一番聞きたいのはこれだ。多分、今回の主犯は父さんだ。結局ザイト兄さんも利用されただけの身。だから責める気にはなれなかった。

「それが、あまり教えてくれなかったんだ。時期俺にも教えてくれるとは言っていたが」
「は?」

 それを信じろと? そんな話あるわけないだろ!

「信じてくれ!」
「だったら、俺たちに刺客を送ってきた理由は?」
「それは......。本当にごめん」
「謝ってほしいわけじゃないんだ。理由を教えてほしい」

 そう、今謝られたところで無意味だ。それよりも、なんで竜人国(ドラゴノウス)にまで攻め入ってきたのか。そしてシェルやリアにも襲ったのか。それが聞きたいんだ。

「最初はお前が古代文字を発見したことが憎たらしかった。なんで俺じゃなくてお前が功績を出すんだって。そこからお前に対しての嫉妬心で刺客を出した」
「それで竜人国(ドラゴノウス)にも?」

 すると、首を横に振って否定をしてきた。

「それは違う! 俺も知らなかったんだ。竜人族(ドラゴニュート)たちにも刺客を出していたなんて。俺だって国際問題にはしたくなかった」
「......。そっか」

 今のザイト兄さんが嘘をついているとも思えなかったので、頷いた。

「信じてくれるのか?」
「すべてを信じるわけじゃない。でも今のザイト兄さんが嘘をついているとも思えなかったから。それにあの紙を見たからな」

 そう、父さんが書いた紙を見なかったら、ここまで信用することは無かっただろう。

「あ、ありがとう」
「じゃあ、上に戻って今後の話をしよう」

 俺はそう言って、来賓室へ向かった。そこで、俺たちと向かい合わせてザイト兄さんが座り、話し始めた。

「今までの件、すべてを竜人族(ドラゴニュート)の長と、人族の国王に説明した」
「......」
「だから本当はアーデレスの精鋭部隊も今回の件のために来たわけでは無くて、ロードリック家を罰則するために来たんだ」
「そ、そうか」

 俺の話を聞くと、徐々にザイト兄さんの顔が青くなっていくのが分かった。でも、すぐに何か決心したかのような顔になった。

「だから、次期にザイト兄さんは罰せられると思う」
「わかった。いや、本当にありがとう」
「え? ありがとうって」

 ここでお礼を言われると思っていなくて、驚いてしまった。

「リアムが居なかったら、俺はまた逃げ出していたかもしれない。俺はもう逃げたくない。罪は罪として償いたい。だからありがとう」
「あ、あぁ。俺たちは寝るけど、ザイト兄さんも明日からできることを一緒にやろう」
「あぁ。本当にありがとう」

 話が終わり、俺たちが来賓室を出ようとした時、ザイト兄さんは涙を流しながら椅子に座っていた。




 目を覚ますと体中が悲鳴を上げていた。そして目の前には、弟であるリアムが立っていた。その顔を見て、俺はつい話しかけてしまった。

「リアムか」

 すると、驚いた表情で俺を見てきた。そして、リアムに軽く、俺が何をしてしまったかの状況を説明してもらった。それを聞いた時、俺は絶望した。

(俺は何をしてしまったんだ......)

 今まで、民のため、街のために魔法や剣術を勉強してきた。それはすべて街がよりよくなるためにやってきたことだ。なのに今、周りを見てみるとあたり一面が瓦礫とかしていた。

(俺はこんなことしたかったわけじゃないのに)

 でも、今そんなことを言ってもしょうがない。もう俺は、街に絶大の被害を出してしまったのだから。

「クソ」

 そして、リアムに言われた通り、街に入り込んでいるモンスターを探して倒し始めた。戦っている最中、モンスターの攻撃を何度も受けた。

(これも俺のせいなんだよな......)

 そう思うと、モンスターに攻撃を受けてもしょうがないとしか考えられなかった。そして、モンスターを倒していると、少しだが街に貢献できているとすら感じられた。

 その時、コボルトが親子に襲い掛かっているのを目撃して、俺はすぐさまモンスターを倒した。すると親子が泣きながら言った。

「ザイト様。ありがとうございます」
「......。早く安全なところへ」
「はい。本当にありがとうございます」

 そう言って親子はこの場を去っていった。

(......)

 いつもなら、民にお礼を言われたら嬉しいが、今回は全くそうは思えなかった。何なら、申し訳ない気持ちでいっぱいであった。だって、俺が今回の主犯なのだから。

 その後も、モンスターをことごとく倒したところで、なぜかアーデレスの精鋭部隊がこの街にいて驚いた。そして、その人たちが俺を見ると、一瞬驚いた表情になった後、睨みつけてきながら俺の目の前から去っていった。

(なんで睨まれるんだ?)

 少しそう思った。でも、今は誰でもいいから罵倒されたい。罵倒されれば、少しは気が楽になるから。俺が悪いのに、お礼を言われるなんておかしなことだ。

 そして、モンスターの気配がなくなったと感じた時、すでに日が暮れ始めていたので屋敷に戻った。



 屋敷に入ると、一気に体がだるくなってしまい、ソファーに横たわってしまった。すると一気に眠気が襲ってきて目をつぶってしまった。

 玄関から音がして、目を覚ますとそこにはリアムとエルフの女の子、そして魔族が目の前にいた。

(なんで魔族が?)

 ふとそう思ったが、今はそんなこと関係ない。俺はすぐさまリアムたちの元へ行き頭を下げて謝る。だが、リアムは俺に対して冷たい目を向けながら地下室へ行こうと言ってきた。

(地下室の存在を知っていたのか.....)

 いや、知っていてもおかしくないか。俺を倒して街を救ったってことは、この屋敷で情報を集めたに違いない。

 そしてリアムは俺に石板を見せてきて、これは古代文字だと言ってきた。

(やっぱりか)

 だが、次に言われた言葉で、俺が何をしてしまったのかを知った。禁断の魔族を解いた。それがどれだけやばいことか言葉を聞いただけでわかる。そして、それはベルフェゴールだということ。

 誰だってベルフェゴールと聞けばわかる。それほど危険な魔族だ。

(俺はそんな奴を......)

 そこから、リアムは俺が今後どうなるのかを説明されて、部屋に戻っていった。

(本当にありがとう。お前が居なければ俺は......)

 そして、もし叶うなら俺はリアムと......。そう淡い期待を持ちながら自室へ戻っていった。



 寝ようとした時、シェルとリアが部屋に入ってきた。

「リアム、大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。大丈夫だよ」

 でも、二人はなぜか心配そうに俺を見ていた。

「本当に大丈夫だって」
「でも、お兄さんと話している時、少し悲しそうだったよ?」
「そうですよ......」
「え?」

(俺が悲しそうな表情をしていた?)

 二人が言った言葉を疑った。なんで悲しい表情なんだ? 怒っている表情とかならまだわかるけど。

「リアム、嘘はついちゃダメだよ?」
「え?」
「自分に嘘をついても、絶対にキャパオーバーしてしまう。だからきちんと本心を言って」
「本心と言っても......」

 そう、ザイト兄さんたちに罰を与えたいというのが俺の本心だ。そうに決まっている。すると、二人は暖かい目で言った。

「本当はお兄さんを罰したくないんでしょ?」
「い、いや、そんなこと」
「なら、なんでお兄さんが目を覚ました時、楽な道を選ばせたの?」
「......」

 言われてみればそうだ。あの時、俺はモンスターを倒した方がいいっと言った。それは、今思えばザイト兄さんの精神を安定させるためであったかもしれない。あの時、俺たちとついてこさせて、住民たちがどのような状況に陥っているかを見せるという選択肢もあった。

 でもそれをしなかった。それは、俺がザイト兄さんを救いたいからなのかもしれない。

「俺は、ザイト兄さんを救いたいのかもしれない」
「うん。だったらできる限りのことはしてあげようよ」
「あぁ」

 シェルやリアが言う通り、俺はザイト兄さんを救いたいのかもしれない。結果として、街を危険にさらしてしまったが、ザイト兄さんも父さんから追放された、俺と一緒の被害者だ。それにザイト兄さんは昔から民や街を第一に考えていた。そんな人が罰せられてこの場所から消え去るのはダメだ。

「じゃあ、明日から一緒に考えよ。まだ時間はあるし」
「そうですね」
「うん。二人ともありがとう」

 すると、二人は笑顔になりながら俺に抱き着いてきた。

「いいんだよ。お互い困ったら助け合うのが仲間でしょ?」
「そうですよ!」

 そして、二人と少し話して俺が寝ようとした時、なぜか部屋から出て行かなかった。

「え? 二人もここで寝るの?」
「ダメ? まだモンスターがいるかもしれないし」
「そ、そうですよ! それにまだリアムさんが疫病から治ったとは限りませんし」
「.......。じゃあ俺が床で寝るから二人はベットで寝て」

 俺がそう言うと、二人はなぜか俺の腕をつかんでベットに連れ込んだ。

「一緒に寝るの」
「そうですよ。今日ぐらい、一緒に寝ましょう」
「......。はい」
「あ、エッチなことはまだダメだよ?」

 シェルがそう言うと、リアが大いに頷いていた。

「わかっているよ」

 そして、俺たちは就寝した。



(全然寝れなかった)

 翌朝、二人の寝顔を見ながら、ベットから出て、ザイト兄さんの元へ向かった。

「リアムか......」
「兄さん。話があるんだ」
「あぁ。なんだ?」
「俺は、兄さんがこの街を大切に考えているのを知っている。だから兄さんにはこれからもこの街を守ってほしい」

 すると、ザイト兄さんは驚いた顔でこちらを見てきた。

「え?」
「最初は、そう思わなかったよ。俺たちを殺そうとして、あまつさえ街を滅ぼそうとしたんだから」
「......」
「でも、それは俺の私情であり、兄さんの気持ちを考えていなかった。結局、兄さんも被害者なんだから」
 
 そう、俺と兄さんは一緒の被害者。なら同士なんだから助けてあげたいに決まっている。

「でも......」
「すべてを許したわけじゃない。でも、兄さんには今回の件を償ってもらわなくちゃいけない。それがこの街でもう一回復旧する手伝いをすることだよ」

 すると、ザイト兄さんは嗚咽を吐きながら頭を下げてきた。

「本当にありがとぅ」
「だからこれからアーデレスの精鋭部隊の人たちと話すと思うけど、俺たちの意志も伝えながら一緒に話そう」
「あぁ。本当にありがとう」

 俺が、兄さんの部屋から出ると、なぜかシェルとリアが居て、嬉しそうな表情をしていた。

「じゃあ、今日から頑張ろうね!」
「あぁ。二人ともこれからも宜しくな」
「「うん!!」」

 こうして、俺たちは街の復旧を手伝った。そして、ついにアーデレスの精鋭部隊の人たちと話す日が来た。

 来賓室で精鋭部隊の人たちと対面していると、精鋭部隊の人たちが魔道具を出して、国王と通信がつながった。俺は、国王にどう思っているのか、そして俺の素性を伝えると、複雑そうな表情をしていた。

「リアムよ、それは本当に言っているのか?」
「はい」
「はぁ~。でもな。流石に罰を与えないわけにはいかない」

 流石に、国王が言う通り、ここまでして罰を与えないわけにはいかない。でも、俺にも引けない部分はあったので、それを主張した。

「わかっています。ですが、ロードリック領を統一できるのはザイト兄さんしかいません」
「それはリアムじゃダメなのか?」
「俺は、やるべきことがあるりますので。それは国王様もわかっていますよね」
「あぁ。でも竜人族(ドラゴニュート)の件はどうするんだ?」

 竜人族(ドラゴニュート)の件は流石にしないわけにはいかないので、俺は深呼吸を一回して、発言をした。

竜人族(ドラゴニュート)の件は俺が、お話をします。なので、ザイト兄さんには軽い刑でお願いします」
「......。わかったよ。リアムには力を貸すと言ってしまったからな。だがな、この処置をするってことはリアムにはそれなりの成果を出してもらわなくちゃダメだから」
「はい、わかっています」

 国王が言う通り、俺のわがままで刑を軽くしてもらっている以上、国王様が必要とする情報、そして魔族を食い止めるのに全力を注がなくちゃいけない。

「ザイトよ」
「はい」
「リアムの進言もあったから、お主はロードリック領を復旧させるのだ。だが、わしが街の復旧ができていないと思ったらすぐに違う人を派遣するからな」
「ありがとうございます」

 そう言いながら、ザイト兄さんの目元には涙が少しで来ていた。

「リアム、私からも竜人族(ドラゴニュート)の長に手紙を送るが、この件は頼むぞ」
「はい」

 この後、ザイト兄さんの刑が決まり、軽い方針で決まった。

(よかった......)

 そこから数週間が経った。最初はザイト兄さんの批判的な声も上がっていたが、ザイト兄さんの行動、そして事情を知ってから民は徐々にザイト兄さんを見る目が変わった。

 そこから数日が経った日、モールト王子がロードリック領にやってきた。

「リアム、この件は本当か?」
「はい。魔族に操られて、竜人族(ドラゴニュート)に攻撃を仕掛けてしまいました。そちらの状況も分かりますが、どうかお願いします」

 都合のいいことを言っているのはわかっている。だが、国王と約束した以上、この部分は譲れなかった。

「はぁ。まあリアムがそう言うならお父様にはそう伝えるけど、一つだけ約束してくれる?」
「はい、何でしょう?」
「リアムのお父さんが現れた時、絶対に殺してよね」
「......。分かりました」

 こうして、モールト王子経由から、今回の一件は軽い方向で収まった。そして、街も徐々に復旧していき、二カ月程経った時には、ほぼ元の状況に戻っていた。
 
「じゃあ兄さん、俺たちは立つけど、よろしくね」
「あぁ。本当にありがとうな。後、実家に戻ってこないか?」
「え?」
「追放した身だから申し訳ないが、もう一度ロードリックの名を名乗ってほしい」

 その提案をされて俺たちは驚いた。だが、もう答えは決まっている。

「ごめん。もう俺はロードリックの人間じゃないから。それはあの時から決めていることだから」
「そうか」
「だけど、困った時は言ってよ。助けられる範囲で助けるから」
「あぁ。ありがとう」

 こうして、俺たちはロードリック領を後にした。そして、また新たな古代文字があるといわれている場所へ向かった。



 この時、魔族と父さんが飛んでもない事を計画しているのをまだ知らなかった。これが世界が崩壊する可能性があるのも。