「クソが! なんで古代文字なんで発見したんだよ」

 追放したことに対して後悔はしていない。なんせ、追放に関しては父さんが決めたことなんだから。でもリアムが古代文字を発見するとは予想もしていなかった。

(あのまま表に出てこなければよかったのに)

 そう、リアムが古代文字を発見してから俺の立場が徐々に悪くなって行った。父さんからは、いつもリアムを比べられる生活を送るハメになっている。

(この前会った時なんて、エルフと鬼人族と女性と一緒に居たじゃねーか)

 あいつが劣等種と一緒に居るのは構わねえ。でもつい最近知ったが、エルフの方は王女様。

(劣等種であろうと王女様である人がなんであんな雑魚と一緒に行動しているんだよ)

 リアムのことを考えて行くと、徐々に苛立ちが顕わになってくる。そう思っていた時、父さんが俺の部屋に入ってきた。

「ザイト、リアムと会ったって言うのは本当か?」
「はい」
「本格的に始末しろ。これは命令だ」
「え?」

(本格的って......)

「お前はリアムが邪魔だとは思わないのか?」
「思いますけど......」

 父さんが言う通り、リアムの存在は邪魔だ。あいつがいなければ俺の人生はもっとスムーズに進んでいたのは間違いない。

(でも......)

 俺はあいつに死んでほしいと思っているのか? あいつは憎い。邪魔な存在なのは間違いない。だから刺客をだして痛めつけて冒険できないレベルにしてもらえればいいと思っていた。でも殺すとか......。

「だったらあいつを始末するんだ」
「......」

 俺が黙りこんでいると、父さんは俺の事をにらみつけてきた。

「まだ状況が理解できていないのか! あいつのせいでロードリック家がどれだけ避難の目を浴びている!」
「それはそうですが」
「いいわけなんていい。あいつを始末する。これは決定事項だ」
「はい......」

 もし、俺が少しでもリアムのことを邪魔だと思わなければ了承していなかったかもしれない。でも父さんと一緒で俺もあいつのことを邪魔だと思っている。だから了承してしまった。

(それに俺は父さんには逆らえないし)

「まあ、今回あいつが行く場所はわかっている。だから俺が刺客は出しておいたから、その後始末は任せる」
「わかりました」

 そう言って父さんが俺の部屋を後にした。

(それにしてもリアムが行く場所って言うのはどこなんだろう?)



 数日が経った日、情報が流れ込んできた。

【ロードリック家が竜人国(ドラゴノウス)に攻め入って、リアムが刺客を返り討ちにした】

(え?)

 竜人国(ドラゴノウス)に攻め入った......。それって、国際問題になるんじゃないのか? ふとそう思った。

 俺はすぐさま父さんのいる部屋に向かうと、そこはもぬけの殻になっていた。

「父さん......?」

 どこに行ったんだ? 俺は竜人国(ドラゴノウス)に攻め入ったなんて聞いていなかったぞ? 

 その後、俺はいろいろな貴族から責められた。「竜人国(ドラゴノウス)と戦争が起こったらどうなるんだ」や「駄貴族が何をしてくれたんだ」など。

(俺がやったわけじゃないのに)

 その時、家にある一つの石板を目にする。

(何だこれは?)

 読めない。なんて書いてあるかわからない。一応は、ある程度全世界の文字を目にしてきたつもりだが、俺が知っている文字ではなかった。

 すると、石板からまがまがしい雰囲気を感じた。

「なんなんだよ!」

 もういやだ。家に父さんはいないし、リアムは世間的に認められ始めた。そんな中、俺は何なんだよ。 

「これが古代文字なら俺に力を貸せよ!」

 そう言った瞬間、石板から黒色の風が吹き始めた。


 
 この出会いが俺の人生を大きく変えて行った。




 竜人国(ドラゴノウス)を出て数日が経ち、俺たちは森の中にいた。

「ねぇリアム、本当に告発しちゃっていいの?」
「いいんだ」
「でも......」

 ミシェルに続くようにアメリアも言った。

「そうですよ。本当にいいのですか......?」
「いいんだ。今回のことは俺個人の気持ちで何とかしちゃいけないから」
「そ、そうですが......」
「そうよ」

 二人は俯きながら俺に言ってきた。二人が俺に何を伝えたいのかはわかる。家族がやってはいけないことをした。それを報告するって言うことは、家族がどうなるのかなんて分かり切っていること。

 それでも、二人は家族を大切にしろって言いたいのだろう。

(俺だって救えるなら救ってもいいと思ってたさ)

 縁を切られたって、家族は家族だ。だから救えるなら救いたいさ。でも、ロードリック家はやってはいけないことをした。そんな人たちを救える程俺もお人好しではない。

「心配してくれてありがとな。でも俺にはミシェルやアメリア、それに竜人族(ドラゴニュート)の人たちだっている。もう大丈夫だよ」
「「うん」」

 そう、俺はもう一人じゃない。いつも行動してくれる仲間がいる。そして俺を力を信用してくれる人たちだっているんだ。

 そう思いながら人族の国---アーデレスへ向かった。



 アーデレスまで残り数日で着くというところで、近くに湖が見えた。するとミシェルが言った。

「ちょっと湖に寄らない?」
「いいですね!」
「あ、うん」

 湖か......。湖に行くのなんてティターニアと会った時以来だな。

(それにしてもなんで湖なんだ?)

 そう思いながらも、湖付近に着くと、ミシェルが俺に言う。

「先にリアムが水浴びしていいよ。その後私たちが水浴びするから」
「あ、はい」

(そう言うことか)

 道中湖なんて見つけることなんてなかったからわからなかったけど、みんな水浴びぐらいしたいよな。いつもは、軽く水魔法で布を濡らして体をふいていたけど、それじゃ体は綺麗にならないしな。

 二人と別れて湖に入ると、案の定さっぱりする感じがした。

(やっぱり水って重要だよな)

 汗をかいたままいると、体がベトベトして嫌になるし、どの種族だって水を飲まなくちゃ生きていけない。

(ふぅ~)

 湖に入りながらあたり一面を見る。

(きれいだな)

 エルフの国へ行った時も思ったけど、自然を目の当たりにしていると、心が安らいでいく気がした。

(たまにはこういう日もいいよな)

 そして、俺が湖から出てミシェルたちの元へ着くと、二人はなぜか顔を赤くしていた。

「どうしたの? 熱でもある?」

 二人は首と手を横に振りながら否定して

「私たちも湖に行ってくるね!」
「了解」

 そして二人が湖に向かった。

(......)

 何をすればいいのかわからず、あたり一面を見ていると、ふと二人のことを思い出してしまう。

「なんであんなにかわいい子が俺と一緒に居てくれるんだろう?」

 ミシェルとアメリアは、古代文字の解読をしたいから俺と一緒に居てくれるのはわかる。でも、それ以上に何かあるのかなって考えてしまう。

 それこそ、俺が竜人族(ドラゴニュート)の長にとがめられそうになった時、二人は自分の身を顧みずにかばってくれた。 

(あの二人と一緒に居れるのも後どれぐらいなんだろうな)

 そう、結局は古代文字の解読が終わったら終わってしまう関係だと思うと少し悲しくなる。

 その時、湖の方向から悲鳴が聞こえて俺はすぐさま向かう。すると、二人の裸姿をみてしまい、お互い目が合う。

「「「あ......」」」

 俺はすぐさま、木の裏に隠れて謝る。

「ごめん!」
「......。後で話そうね?」
「はい......」

 ミシェルが低い声で俺に言って、俺は元の場所に戻った。

(それにしても悲鳴は何だったんだ?)

 そう思いながらもその後、ずっと二人の光景が頭から離れず、棒立ちをしていると、二人が戻ってきた。

 二人と目が合うと、少し顔を赤くしたがミシェルは怒った表情に、アメリアは恥じらいのある表情をしていた。

 俺はすぐさま頭を下げて謝る。

「本当にごめん」
「......。本当にそう思ってる?」
「あ、あぁ」

 少し役得だったとは思うが、本当に申し訳ないと感じている。故意的ではないとは言え、二人の裸を見て恥ずかしい思いをさせてしまったのだから。

「なら私は良いけど、アメリアはどう?」
「私も......。リアムさんならいいです」

(俺ならって......)

 少し、アメリアが俺に好意があると思ってしまったが、すぐに頭を振って邪念を消す。少しでも俺の事を信用してくれたからこう言ってくれたに決まっている。

「でも、リアムは私たちに貸し一だからね?」
「わかった」

 二人が負ってしまった精神的に受けた痛みに比べたら、貸し一つで済むなら安いすぎるぐらいだ。

 その後、お互い気まずい雰囲気になりながら休憩していると、ミシェルが立ちあがった。

「もう私たちも怒っていないんだからリアムもそこまで考えすぎないで! アメリアもそう思うよね?」
「は、はい!」
「あぁ」

(二人がこう言ってくれるなら、それに甘えよう)

「それで、人族の国でどうやって国王様と会うの?」
「あ~」

 ぶっちゃけそこまで考えていなかったので、何とも言えなかった。一応は、古代文字の解読をしたと伝えたら会うことはできるかもしれない。まだ顔は知られていない俺が、事実を伝えてしまったら、確実に国王からマークされるに決まっている。

「はぁ。やっぱり決めていなかったのね」
「ご、ごめん」

 ミシェルはため息をつきながら、俺に提案をしてくれた。

「だったら私たちを頼ればいいじゃない」
「え?」

 ミシェルとアメリアを頼る? そんな発想はなかったので、少し驚く。

「私はエルフの国の王女だよ? 国王に会おうと思えば会えるはずだよ」
「そ、そっか」

 今まではミシェルやアメリアのことを王族だと認識しながら行動していたが、ここ最近になるにつれて二人は大切な存在になって、王族という認識から徐々に離れて行っていた。

「それでどうするの?」
「できればミシェルの案で行きたい」
「じゃあそうしましょ。アメリアも良いよね?」
「はい! 私は二人について行くまでですので」

 アメリアがそう言ったのに対して、今まで思っていたことを言う。

「アメリア、もう俺たちは仲間なんだから気を使わなくていいんだよ? もっと意見とか言ってほしいよ」
 
 そう、いつもアメリアは俺とミシェルが決めたことに対してついてきてくれるだけ。だけど、それじゃあアメリアの意見が聞けない。もう俺たちは仲間なんだし、もっとアメリアの気持ちを聞きたいと思った。

「わ、分かりました。では一つお願いをしてもいいですか?」

 俺とミシェルは首を傾げなら、笑顔で頷く。

「私のことは、アメリアじゃなくてリアって呼んでくれませんか?」
「......。わかったよリア」
「え~。私は嫌だよ」
「え? 嫌ですか......」

 流石にミシェルがそんな回答をするとは思っていなかったので、驚いた顔でミシェルを見る。だけど、ミシェルは嫌な表情はしておらず、笑顔のまま言った。

「リアムがリアって呼ぶなら私はアーちゃんって呼ぶよ!」
「は、はい!」
「だから私のこともミーちゃんって呼んでね。リアムはシェルって呼んでよ」
「わ、分かった」

 突然のことで少し驚くが、すぐさま了承する。

「じゃあそう言うことでね。リアムもリアってあだなになっちゃうから、リアムはリアムのままね」
「あぁ」
「リアムさん、ごめんなさい」
「いいんだよ。逆に俺がリアって呼ばれてたら女じゃないのかって思われちゃうしね」

 流石にリアって呼ばれるのはきついしな。だからリアが先に言ってくれてよかったよ。

「じゃあみんな言い方は決まったわけだし、練習しよ~」

 シェルがそう言った後、一時間にもわたりお互いの名前を呼び合った。

 そして、数日が経ち、やっとアーデレスにたどり着いた。


 俺が暮らしている街と違いすぎて呆然としてしまった。人の多さ、服装に建築物まで何から何まで違かった。

「早く王宮に行こ」

 ミシェルにそう言われるのに対して、俺とリアは頷いて王宮に向かった。幸い、アーデレスに王宮らしき場所は一つしかなかったので、そこへ一直線で向かう。

(それにしてもすごい)

 言葉では表せない程、王宮は綺麗であった。

「俺もこんなところで暮らしてみたかったな」
「「え?」」

 二人は、俺の言葉に驚いた表情でこちらを見てきた。

「だって、こんなきれいな場所で暮らしてみたいと思うじゃん?」
「私はそう思わないな」
「私もです」
「え、なんで?」

 だって、街が発展していて、技術も最先端だと思う。そんな場所で暮らしていたら人生が楽しそうだと思うじゃないか。

「どの国であっても、良いことと悪いことはありますよ?」
「そうよ」
「例えば?」
「ついてきてください」

 リアに言われるがまま、ついて行くと路地裏にたどり着いた。

(!?)

「おねいちゃんたち、ご飯くれない?」
「ごめんなさい。ご飯はもっていないの。でもお金なら上げるわ」

 そう言って、子供たちに少量だがお金を渡してこの場を去った。

(あれは貧民の人たちだよな......)

「これを見てもリアムさんは暮らしたいと思いますか?」
「いや......」
「どの種族の国だって発展している国に暮らしたいという人は一定数います。ですが、物価が高かったり、貧民の精度がきちんとしていなくてあのような人達ができるのです」
「そ、そうだよな」

 俺が結局見ていたのは表面上な街並みなだけで、裏側を見ていなかったって言うことか。もっと俺の知らないやばいところがあるのだろう。

 そう言う面で、リアやシェルは王族である立場上知っていたって言うことか。

(俺も元貴族なのに何も知らなかった)

 少しふがいないと思った。実家から街の情勢などを聞かされていなかったとは言え、自分から調べようとしなかったことがはずかしい。

「まあ、少し酷な現実を見せてしまいましたね。ごめんなさい」
「いいんだ。俺もこういう事態が知れてよかったよ」
「じゃあ王宮に行きましょうか」
「あぁ」

 あの光景が頭から離れないまま、王宮の目の前にたどり着くと、近衛兵たちが俺たちの前に立って妨害してきた。

「本日はどのようなご用件ですか?」
「国王と会いたい。重要な情報があります」
「見ず知らずの人物を中にいれることはできません。おかえりください」

 まあわかっていたことだが、突っぱねられてしまったため、シェルが言う。

「エルフの第一王女、ミシェルです。中に入れてください」

 その時、近衛兵たちは怪訝そうな顔をして俺たちを見てきた。

「証拠はありますか?」
「これでどうかしら?」

 そう言って、シェルはエルフの紋章を見せた。すると、おじいさんの近衛兵が血相を変えて言った。

「来賓室でお待ちください。国王様にお伝えいたします」

 言われるがまま近衛兵の人に来賓室へ案内してもらった。

(すごいな)

 やっぱり、王族ってだけあり、人族でも紋章を見て知っている人はいるってことか。

 来賓室に入るとシェルが言う。

「やっぱり人族は種族差別があるんだね」
「そうですね」
「あぁ」

 シェルがエルフと言った時、近衛兵たちの表情が強張っていたし、街に入った時もシェルに対して嫌そうな表情をしていた。

(はぁ。こんなことならシェルにもフードを被せておけばよかった)

 そうしていれば、リアのように不快な思いをしなかったかもしれない。そう思いながらも、来賓室で十分ほど待っていると、先程の近衛兵のおじさんが中に入ってきた。

「国王様が王室でお待ちしております。ついてきてください」
「わかりました」

 そして、俺たちは王室の中に入って行った。


 中には、国王及び宰相、そして近衛兵の数人が待っていた。

「お初にお目にかかります。リアムと申します」
「エルフの国、第三王女のミシェル・スチュアートです」
「アメリアです」

 俺たちが頭を下げながら挨拶をすると国王が少し驚いた顔で俺の事を見ながら、咳ばらいをして言った。

「頭を上げてよろしい。いや、上げてくれ。私は別に国王だからって偉そうにしたいわけじゃないから」

 言われるがまま俺たちは頭を上げる。

「人族の国王、グリーン・アーデレスだ。それで要件とはなんなんだ? それもエルフの国の王女様が来るぐらいだ。重要なことなんだろ?」

 深呼吸をして、平常心を保ちながら発言をした。

「人族が竜人族(ドラゴニュート)の国へ攻め入ったことは知っていますか?」
「あぁ」
「その犯人がロ子爵家であるードリック家です」

 すると、国王は椅子から立ち上がった。

「それは本当か?」
「はい」

 少し胸がチクリとした。俺もできれば言いたくはなかった。実家がこんなことをしたんてことを。

「そうか。知らせてくれてありがとう」
「はい。それでロードリック家に罰則をしてもらいたいです」
「それはもちろんだ」

 国王がそう言ってくれてホッとした。今のロードリック家は地の果てまで落ちてしまった。なら、国王から罰を与えてもらって、もう一度最初からやり直した方がいい。

「では、これで俺たちは失礼いたします」

 俺たち三人が頭を下げてこの場を去ろうとした時、国王から止められた。

「ちょっと待て。知らせてくれたお礼をしたい。まだ確実というわけではないが、エルフの国の王女が言っているのだから信憑性はあるはず。ならお礼ぐらいさせてほしい」
「いえ、お礼をしてもら居たくてお伝えしたわけでは無いので」
 
 すると国王は少し悩んだ顔になりながら言った。

「この場にいる者たちよ。席を外してくれないか?」

 国王がそう言った瞬間、この場にいる人たちがざわつき始めた。

「ここからは聞かれたくない内容だ」
「ですが」
「あぁ。一人は残す。だからこの人たちを連れてきたピートだけ残す」
「わかりました」

 そして、王室には俺たちと国王、ピートさんだけになったところで

「リアムよ。お主、古代文字を解読したと噂の人よな?」
「......」

(なんでバレているんだ)

 でも、すぐさま理解する。古代文字の発見をしたのが俺とシェルと世間で知らされている。そして解読もその後すぐできたと噂が流れた。そしたら俺と言う目星が付いていてもおかしくない。それも国王だ。情報は俺たちよりも持っているに決まっている。

「言わなくてもよい。今回の件、知らせてくれたお礼として、古代文字の情報を知っている人物がいるから会ってみるといい」
「え?」
「まあ厳密には私も知らないが、この国に仕えている一人が知っているから、そいつに聞いてみてくれ」
「わ、分かりました。ですが本当にいいのですか? こんな情報を俺たちに知らせて」

 そう、俺たちは今日初めて会った人であり、信頼云々前の存在だ。そんな人に貴重な情報を伝えるなんて......。

「いいんだ。それに私も世界の理は知っているからな」
「な......!」
「そう言う行動は慎んだ方がいい。私は別にリアムを利用しようとは思っていないが、他の種族は違うかもしれない。だから考えてから行動したほうがいいぞ」
「ありがとうございます......」

 国王様が言う通りだ。今の行動で俺が古代文字の解読をしたと言っているようなものだったのだから。

「ピートよ。リックのところへ案内してやれ」
「わかりました」
「お主らには期待している。だからもし力が貸してほしくなったら言ってくれ。必ず欲する時期が来るから」
「ありがとうございます」

 そして、俺たちが王室を出ようとした時、国王様が何かボソッと言ったが聞き取れなかった。

「え...うがや..あ..れ.か」

 その後、ピートさんの案内の元、地下室へ行った。


「では、私は外で待っていますので、終わりましたらお声がけしてください」
「「「ありがとうございます」」」

 俺たちはピートさんに頭を下げて地下室に入る。

(何だここは!!)

 中は図書館のようになっていて驚く。そして奥に進んでいくと、眼鏡をかけた一人の男性が座りながら本を読んでいた。

「あの......。リックさんですか?」
「あ、はいそうですが。あなたたちは?」
「国王様に古代文字について知っている人物がイルト言われてここへ来ました」

 すると、リックさんは驚いた表情で俺たちを見てきた。

「あなたたちは古代文字を知っているのですね」
「はい」

(まあ世間でも知っている人は増えているだろうけど)

 俺たちが古代文字を発見する前までは、知らない人も多かっただろうけど、古代文字が公になってしまった以上、存在を知らない人の方が少ないだろう。

「もしかして古代文字を解読した人たちですか!」
「え、えぇ」
「でしたらこちらへ来てください!」

 言われるがままついて行くと、殴り書きで書かれていた紙を見せられた。

「この紙には私が古代文字についてどう思ったかを綴ってあります」
「よ、読めない」

 シェルがそう言うと、リアも頷いていた。

(俺だって読めないよ)

「申し訳ないです。私の見解としては、古代文字に何かしら封印されていると思うのですよ」
「え?」

 なんでそれを知っているんだ? もしかしてこの人も古代文字を読めるのか?

「違いますか? 私は古代文字を読めないので分かりませんが」
「じゃあなんでそう思ったのですか?」

 リックさんがハッとした表情になって言われた。 

「あ、自己紹介がまだでしたね。私は魔法評論家です。それで古代文字にも少量ですが魔力があることが分かりました」
「実際に見たと?」
「はい。数年前ですが、運よく古代文字を発見しましてね」

 するとリアはリックさんに近づきながら尋ねる。

「それはどこでですか?」
「それが、私もあの時、切羽詰まっていて覚えていないのですよ。本当に申し訳ございません」
「い、いえ。こちらこそ突然質問してしまって申し訳ございません」
「それで話を戻しますが、こう思ったのですよ。古代文字は世界各国のどこかに隠されていて、そこに何かしらが封印されていると」

 俺は目を見開いてリックさんを見た。リックさんの発言の中で、世界の理という言葉を言っていない以上、この存在は知っていない。それなのにここまで真理にたどり着いている人が居る事に驚いた。

「それでどうなんですか?」

{シルフ、サラマンダー、言っていいことか?}
{まあ、ここまで知られているなら行っていいと思うぞ}
{僕もそう思う}

「はい」

 すると、リックさんはやっぱりかって表情をした。

「ですよね。ここまで研究してきてよかった。それで、古代文字の話ですが、私が知りえた情報を皆さんにお伝えする方針でいいですか?」
「はい。助かります」
「今予想していることですと、古代文字には魔族も封印されているかもってことです」
「......」

 そこまで予想がついているのか。

「私の予想ですが、何かしら世界で危ない状況が起きて、それを食い止める存在たちが検討したが封印されたと思っています」

(すごい)

「そして、それは食い止める存在以外にも該当します」
「え?」
「封印した側にも、力を制御できない存在や指示に従わなかったけど、脅威になる存在がいると思います。そう言う存在を封印したのだと推測しています」

 言われてみればそうだ。俺が今まであったのは精霊だったけど、リアの父さんが封印されているみたいに、他にも魔族が封印されている可能性はある。そしてそれは、リアの父さんみたいに善意の心があって封印されたわけではなく、力が制御で着なくて封印された存在もいるはず。

「なので、古代文字を解読するときは気を付けてください」
「わかりました。後、もう少し信頼関係を置けたらお伝え出来ることもあるので、その時まで待っていただけると助かります」

 ここまで言ってくれたんだ。俺だって何かしら伝えなくてはいけない。でも、伝えて言い情報が分からないし、この人が信頼できる存在なのかすらわからない。だから 調子の良いことを言っているが、少し様子見をさせてもら居たかった。

「わかっていますよ。私は一評論家。いや、研究者としてやっているまでですので、研究が無駄じゃなかったと知れただけでよかったことですよ」
「そう言ってもらえると助かります」
「はい。では今後ともよろしくお願いいたします」

 そして、俺たちは地下室を後にして、王室で一泊することになった。その時、部屋にリアが入ってきた。


「リアムさん?」
「どうした?」

 寝間着姿のリアを見てドキドキしながら平常心を保ちながら答えた。

「あの、今日のことですが」
「ん?」

 今日のことで何かあったっけ?

「お父さんは悪い人じゃないので。そこは安心してほしいです」
「あ~。それなら大丈夫だよ。リアを信じているから」

 あの人が言った通り、力が制御できない魔族がいる可能性は確かだろう。でも、リアのお父さんは違う。それはリアを見ていればわかることだ。

 もし、リアと出会った時、俺たちに攻撃を仕掛けて来ていたりしていたら話は変わっていたかもしれない。でも、あの時、リアは自分が魔族だっていうのを隠して俺たちと話すそうとはしなかった。

 それを見る限り、他種族にも好意的に思っている、もしくは戦闘が行いたくない種族ってことなんだろう。そんな種族の長が危ないわけがない。それもリアのお父さんなんだから。

「ありがとう」
「お礼なんて言わなくていいよ。一緒にお父さんを助けよ」
「うん!」

 その後、リアと少し話してから俺の部屋を後にした。

(この力で俺は大切な人を助けるんだ)

 翌朝、みんなで朝食を取っている時、リックさんが部屋に入ってきて言われる。

「国王様から聞きました。リアムさん、なぜロードリック家はあなたを殺そうとしているのですか?」
「え?」
「だってそうじゃないですか。普通、あそこまでして殺そうとしません。殺さず、辺境地に送ればいいことじゃないですか」
「あぁ~」

 リックさんはまだ俺がロードリック家ということは知らない。でも、普通に考えて俺を殺さずとも、制約をつけて暮らさせるか、辺境地に飛ばせて情報漏洩させないようにすればよかったはず。

「もしかしてロードリック家と何かつながりがあるのですか?」
「......」
「まあそんなことは良いんです。それよりも考えうるのは、ロードリック家が魔族と繋がっていないかってことです」
「は?」

 実家が魔族と繋がっている? そんなことあるはずがない。だって暮らしてきた期間、魔族らしき存在を目撃したことがなかったのだから。

「こう考えてみてください。ロードリック家が主犯となって、種族間で戦争が起こったら魔族の一強時代が始まります」
「......」
「そして、魔族の理念とは、どの種族より優位な位置に立つこと。それが理にかなっているかなと思いました」
「そ、そうですね」

 でも、そんなことあり得るはずがない。ロードリック家が魔族と繋がっているなんて......。でも、もし魔族と繋がっていたら? そうならリックさんが言う通りなのかもしれない。

「ですので多分、今日中に精鋭部隊とロードリック領へ向かうと思いますが、気を付けてください」
「わかりました」

 すると、すぐさまリックさんはこの部屋を後にした。

「ねぇ、リックさんが言ったことは本当なの?」
「いや、わからない。でも俺が暮らしていた時は魔族らしき存在を見なかったけど」
「そうですよね。リアムさんが私を見た時、初めて見るような目で私を見ていましたので」
「あぁ」

 そう、俺が初めて魔族を見たのはリアだ。だからロードリック家が魔族と繋がっているとは思いづらいんだけどな。

「一応、見てみるか」
「え? 魔眼を使うの?」
「あぁ」
「それはダメだよ! リアムが」

 シェルが言いたいことはわかる。でもこれに関しては確かめてみなくちゃいけない。

「いいんだ。これは俺の問題でもあるから」
「「......」」

 二人は俺の事を不安そうに見つめていた。そして、俺は魔眼を使い、ザイト兄さんの未来を見る。

(え?)

 なんで見れないんだ? だが、頭痛がやってくる。

「う......」
「「リアム(さん)!」」
「だ、大丈夫」

 魔眼はきちんと使われていた。それなのにザイト兄さんの未来が見えなかったってことは......。

「それでどうだった?」
「それが分かんなかった」

 すると、二人は首を傾げていた。

「わからないって......」

 俺もシェルと一緒のことを考えていると思う。本当に俺の実家は......。ますますリックさんが言ったことに対して信憑性が増してきた。そう思いながら、アーデレス国の親衛隊とロードリック領へ向かった。


 ロードリック領へ向かっている道中、何度もモンスターと接敵したが、先鋭部隊の人たちがことごとく倒してくれたため、俺たちは馬車に乗っているだけで実家へ戻っていた。

「私達、何もしていないね」
「あぁ、そうだな。でもロードリック領についたら、必ず何かしらあると思うから、準備はしておこう」
「うん」
「はい」

 そう、故郷に戻ってから何が起こるかわからない。精鋭部隊がいるからって、気を緩めていいわけではない。

(それに......)

 魔眼を使ってザイト兄さんの未来が見えなかったのも少し引っ掛かる。いつものことなら、頭の中に光景が見えるはずだ。それなのに見えなかったということは......。それに、魔眼は確実に使えていたはずだ。なんせ、頭痛が起こったんだから。

 その後も特に何もなくロードリック領へ向かい、近く村に着いた時、一人の男の子が俺たちの元へやってきた。

「た、助けてください!」
「え?」

 俺は茫然としてしまったが、精鋭部隊たちは迅速に行動してくれて、あたり一面に警戒網を張ってくれていた。

「お母さんが!」
「「案内して」」

 俺とシェルがはもりながら、男の子に案内をさせてお母さんのところへ向かった。

(これは......)

 何が起きているんだ? 体の一部が緑色になっていて、息もしているのかわからない状態であった。

「状況を説明できる?」

泣きながら、説明をし始めた。

「お母さんがロードリック領から戻ってきて、数日経ったらこうなっていて」
「......」

 ロードリック領へ行ったらこうなっていたと言っていた。だとしたら、ロードリック領に問題があるのか? でも、ロードリック領に問題があるなら、時期は少し前になるが俺たちもこのような現象に陥っていてもおかしくない。

 そして、俺がこのような現象に陥っていない以上、ロードリック領に問題があるのかと思った。

「リアム......」
「あぁ。わかっている。まずはこの人を助けることからだ」

 俺は、すぐさまティターニアの力を女性に使う。すると、徐々にだが平常時の色合いに戻っていくのが分かった。

「それって、ティターニア様の?」
「あぁ。多分シェルも使えると思うよ」
「う、うん」
「多分、これは俺たちにしか助けられないと思う」

 そう、普通ならこういう現象に陥っても教会などが治してくれる。だが、この女性が治っていない以上、教会では治せないってこと。そして、教会が治せないっていうことは、ロードリック領にもこのような現象に陥っている人がたくさんいるってことだろう。

 運よくティターニアの力で治せたということは、俺かティターニアの力を授けられたシェルしか助けることはできない。

 すると、男の子が泣きながらお礼を言ってきた。

「本当にありがとうございます。お礼は......」
「お礼なんていいよ。それよりもお母さんと一緒に居てあげな」
「うん」

 そして俺たちはこの村を後にして、ロードリック領へ向かった。

(本当に何が起こっているんだ?)

 ザイト兄さんの未来が見えないこと、そしてこのような現象が起こっていること。それを考えるとロードリック領で何かしらが起こっているとしか考えられなかった。

(リックさんが言ったことじゃなければいいけど)

 そう、リックさんが言ったように魔族が絡んでいたら、確実に厄介なことになるのは目に見えている。



 村をでて二日後、やっとロードリック領についた。そして中に入ると、案の定村でみた女性の現象がそこら中で起こっていた。

(クソ)

 本当に何が起こっているんだ。そう思いながらあたり一面を歩いていると、後ろから話しかけられた。

「リアム!」