屋敷に戻り、ティターニアと契約したことをミシェルのお父さんたちに報告する。すると、驚いた顔をしながら言われた。

「ほ、本当か......」
「はい」

(まあ驚くよな)

 ミシェルに古代文字を解読してほしいと頼むぐらいだ。驚くに決まっている。どれぐらいティターニアが封印されていたかわからない。だけど、封印を解いたということは、エルフの国にとっての第一歩になったはずだ。

 真剣な顔をしながらミシェルのお父さんが咳ばらいをして言った。

「今回はありがとう。後、ミシェルのことで自己紹介がまだだったね。カイル・スチュアートだ。本当になんて言ってお礼をしていいか」
「お礼なんていいですよ! 俺がやりたくてやったまでですので」

 そう、これに関しては俺の意志で行ったことだ。ミシェルに頼まれたのがきっかけではあったけど、その後やりたいと思ったのは俺だ。だからこれは紛れもなく俺の意志である。

「そう言ってくれるとありがたい」
「パパ! でもこれで終わりじゃないの」
「え? 後、この場ではお父さんか国王と呼びなさい」

 すると、俯きながらミシェルが謝っていた。

「それで、終わりじゃないって言うのは?」
「うん。ティターニア様はここ以外にも封印されているの」

 ミシェルはそう言いながら、淡々と説明を始めた。それを聞くと、カイルさんを含んだ全員が驚いていた。

「じゃあ、封印がすべて解けたわけではないってことなのか」
「はい」

 周りの人たち全員が、先程の喜びとは一転して俯き始めていた。それを見て、俺も少し申し訳なくなる。

(最初に説明しておけばよかったな)

「まあ祠での封印が解けただけよかったよ」

 そう言った途端、何か思いついたかのような顔をして、周りにいる人たちをこの部屋から出した。そして俺たちに話し始めた。

「祠に行く際、湖は見たよね?」
「はい。見ましたけど」
「その湖なんだけど、ティターニア様の聖水とも言われているんだ。俺も良くはわからないけどね」

 ティターニアの聖水って......。なんか怖いな。

「湖に入ったものの中で選ばれた者のみが、ティターニア様の力を受けられると言われている。だから三人とも一回湖で休暇でも取ってきたら? 私もやらなくちゃいけないことがあるし」

 すると、ミシェルは飛び跳ねるように喜び始めた。

「だってさ! リアムにアメリア早く行こ!」
「あ、うん」

 俺とアメリアはミシェルに圧倒されながらこの場を後にした。



 ミシェルとアメリアは、湖に入る用の水着を選ぶから先に言ってろと言われたので、湖に一人でいた。

(は~。まずは着替えとくか)

 俺は、湖に入るために水着へ着替えてあたり一面をボーっと眺め始めた。

(本当に綺麗だな)

{でしょ?}
{え?}

 突然ティターニアに話しかけられて驚く。

{なんで来れるのって思ってるでしょ}
{そりゃあ} 
{私だって、祠付近なら少しの間でれるんだよ!}
{そうなんだ}

 てっきり、祠にしかいれないと思っていた。

(よかった)

 祠に一人でずっといるなんてティターニアであっても耐えきるのは至難だと思う。だからこそ、祠付近でも出れると聞いてホッとした。

{そう言うと、湖ってティターニアの聖水なの?}
{!?!? ち、違うよ? でも、あそこに入った人の中で、私と波長が合う人は、私の恩恵が少しは受けられるかもだけどね}
{そうなんだ}

 あれはあながち間違っていなかったってことか。すると、ティターニアが俺には聞き取れない声でしゃべっていた。

{ありがとね、リアム。あなたは私の恩人よ}
{え?}

 あまりにも声が小さすぎたので、聞き直してしまう。するとそっぽを向きながら指をさされた。

{何でもないよ~。それよりもあの子たちが来たわよ}

 ティターニアに言われた通り、ミシェルが俺に向かって手を振っていた。俺がミシェルに気を取られている時、ティターニアはこの場から消え去っていた。

「リアム遊ぼ~」
「あぁ」

 俺は上着を脱いで二人を待つと、なぜか二人はまじまじと俺を凝視していた。

「ど、どうしたの?」
「「な、なんでもない(よ、です)!」」
「あ、そうなんだ」

 そして二人も上着を脱いで、水着姿になった。

(あ......)

 二人から目が離せなかった。それほど綺麗であった。ミシェルは、上下白色で腰に小さなフリフリが付いていた。そしてアメリアは、上下薄水色で、下はスカートらしい水着姿であった。

 すると、ミシェルは、少し顔を赤くしながら言ってくる。

「な、なによ」
「あ、ごめん。二人とも似合っていて、ついね......」
「あ、ありがとぅ」
「ありがとうございますぅ」

 お互い、変な空気間になりながら湖で半日ほど休暇を取った。その時、木の陰からティターニアがこちらを見ていたのを誰も気づかなかった。


 屋敷に戻った後、俺たち全員が疲れ切って就寝してしまった。そして翌朝、王室でカイル様に言われる。

「古代文字の情報だが、竜人族(ドラゴニュート)の国にあると聞いたことがあるから、次はそこに向かってみたらどうだ?」
竜人族(ドラゴニュート)ですか......」

 竜人族(ドラゴニュート)と聞いてあまり良い噂は聞かない。なんせ、どの種族とも交友関係を結ばない国だから。それに国がある場所は、確か元居た街から一ヶ月程離れた場所。ここから正反対の場所であった。

「あぁ。でも行くだろう?」
「そうですね」

 交友関係を結ばない国だからって行かないわけにはいかない。古代文字のありかは、多いわけじゃない。それに、現状知りえている場所はここしかない。

「後、リアムくんにはミシェルの専属護衛をしてもらいたい」
「え?」

 カイル様が言ったことに対して、ミシェル本人も驚いていた。

(専属護衛?)

 なんだそれ? 聞いたことないぞ? それに俺でいいのか? 俺とミシェルとでは種族が違う。それに俺は他種族から見たら劣等種である。

「無理か?」
「いえ、無理ではないですけど、本当に俺でいいのですか?」
「あぁ。ティターニア様と契約している人が娘の護衛をしてくれるなら願ってもない事だ」
「そ、そうですか」

 まあ、国王がそう言うならいいけどさ。そう思いながらミシェルの方を向くと、顔を赤くしながらチラチラとこちらを見て来ていたので、俺は軽い笑顔を向けた。

「では決定だな。後は......。これに関しては私の方でやっておこう」

(??)

 その時、ニヤッとしながらミシェルに言った。

「ミシェル。きちんと捕まえるんだぞ?」
「お、お父様!!」
「ははは!! じゃあ楽しみながら頼んだぞ!」

 二人の光景を見ながら、俺たちはこの場を後にした。そこから、エルフの国で、必要物資を集めて、最後にティターニアへ会いに行った。

 今回は、みんなに見える姿で現れて話しかけてくれた。

「もう行くのですね」
「「「はい」」」
「気を付けてください。そして、私を救ってください」
「あぁ」

 ティターニアに言われるまでも無く、助けるよ。それが俺がなすべきことであるのだから。

「ミシェル、少しこっちにきてください」
「え?」

 ミシェルは言われるがまま、ティターニアのもとに向かうと、ミシェルが徐々に光出した。

(え?)

 何が起きているんだ? 

「これで、ミシェルにも少しばかり私の力を授けました。湖に入ってくれた時、私と波長が合っていましたからね。まあ私の子孫なので当たり前ですが」
「あ、ありがとうございます」
「えぇ。後......」

 ティターニアがミシェルに何かを言うと、顔を真っ赤にしながら俺の方を見てきた。

(??)

 そして、ミシェルがこちらに戻ってきて手で顔を仰ぎながら言った。

「さ、早く行こ」
「あ、うん」

 俺とアメリアは何なのかよくわからないまま、ミシェルの後をついて行った。

{またな}
{はい}



 馬車の中に入り、街に戻り始めた。その道中、色々と噂を聞くことが出来たが、何一つとして古代文字の情報は流れてこなかった。そして一つ、俺たちに関係している噂を耳にする。

『古代文字を発見した奴がいるらしい。それに、エルフの国では古代文字が解読されたらしいぞ!』

(これ、俺たちのことだよな?)

 古代文字を発見したって言うのは、多分シルフの時のことだろう。そして、エルフの国って言うのは、まあ紛れもなく俺たちだよな。

(それにしても、早くないか?)

 そう、まだエルフの国を出て、二週間程しか経っていないのに、もうこんなところまで情報が流れていることに驚く。それは、ミシェルとアメリアも思っていたようだった。

「これ、私たちのことだよね?」
「そうだな」
「なんかすごいことになっていますね」

 アメリアの言う通り、こんな大事になっているとは思いもしなかった。だが、ミシェルは現状を予想していたような雰囲気で言った。

「古代文字自体発見するのが難しのに、解読したなんて聞いたら誰だって話すって」
「そうなのか?」

 ここ最近で二回も古代文字を見ていたから、親近感しかわいていなかった。

「そうよ! それに今まで古代文字を解読した人なんていないんだからね!」
「え?」

 それを聞いて俺は驚く。

「逆に考えてみてよ。魔族が古代文字を封印の道具にしていたのって、解読できた人が居ないからってことじゃない」
「あ~。言われてみれば」
「でしょ!」

 ミシェルの言う通り、魔族が封印の道具として古代文字を使っているってことは、魔族以外は現状解読できる人が居ないということなのかもしれない。

(ってことは、俺......)

 そこで少し悪寒が走った。もし、俺が古代文字を解読できると魔族に知りわたったら。それを考えるだけで少し恐怖すら感じた。



 道中何も無く街に着いた。

(やることだけやって、刺客が来る前に早く出よう)

 街を歩いていると、案の定俺たちの噂でもちきりであった。

「まず、アメリアの冒険者登録と、パーティに入れよっか」

 そう言って、冒険者ギルドへ向かい始めた。


 ギルド内に入ると、今まで感じなかった異様な空気間を感じた。

(??)

 何が起きているんだ? 入った瞬間、先程まで冒険者たちが騒いでいたのに、一瞬にして静まってしまった。

「え?」
「やっぱりミシェルもそう思ったよな」
「ど、どう言うことですか?」

 俺とミシェルはギルドの空気間がおかしなことに気付いたが、アメリアはギルド自体初めてだったのでその空気間を理解することが出来ないでいた。

「何かがおかしい」
「そうね」

 あたり一面を観察しながら受付嬢のところに向かったところで、ギルドマスターが出てきてくれた。

「よかった......。リアムたち、こっちに来てくれ」
「え? あ、はい」

 ギルドマスターに言われるがまま、来賓室に入った。すると、ギルドマスターの顔が少し怖い雰囲気が感じ取れた。

「どうなっているんですか?」
「感じたか。単刀直入に言う。早くこの街から出て行った方がいい」
「え?」

 そう言われて、前回の刺客を思い出させる発言をされた。でも、普通に考えて、俺たちがこの街に入ったのは今日なのに刺客を出むかせれるはずがない。

 それはミシェルもわかっていたようで、立ち上がって何かを言おうとした。その時、ギルドマスターが真剣な顔で言う。

「まあ話を聞け」
「はい」

 ミシェルを座ったのを確認してから話の続きが始まる。
 
「この前、お前たちが古代文字のありかを発見しただろ? それが今回の要因だ」
「要因って......?」
「簡単に言えば、ロードリック家が動いた」
「......」

(実家が動いた?)

 なんで......。古代文字がこの街から発見しされたら逆に喜ばしいことだろ。それなのになんで動き始めるんだ?

「普通なら古代文字を発見されたら喜ぶはずだ。だがな、お前たちが。いや、お前が見つけたのが悪かった」
「俺が悪い?」
「あぁ。俺も軽率であったが、古代文字を発見した人物としてお前たちの名前を挙げた。そしたらどうなると思う?」

 どうなるって言われても、そんなのわからないだろ。

「結論から言えば、実家を追放した奴が世間で有名になったってことだ。そして何んで、そんな優秀な奴を追放したんだってロードリック家が叩かれ始めた」
「......」

(そう言うことか)

「それで、この街に一つ、噂が流れた。リアムとその仲間たちを暗殺したら報奨金が流れると。それに加えてロードリック家の後ろ盾もつくとな」
「そんなのおかしいじゃない!」
「そうですよ! 私たちは何も悪いことをしていないのに!」

 そうだ。俺たちは何一つ悪いことをしていない。結局は実家を追放されたのは父さんが決めたことであり、俺のせいにはならない。そして、追放するときにはすでに俺が冒険者としてやっていることも知っていながら辞めろとは言われなかった。

 結果として、古代文字を発見したわけだが、それも世界から見たらいい方向に進んでいる。何一つとして俺たちが悪いことをしたわけじゃない。

 でも、真実は時に悪くもなる。それが今回だ。だからこそ、俺たちを殺そうとしているんだろう。

「あぁ。俺もわかっている。でもな、ロードリック家が動き出した以上、俺一人では庇いきれない。だからお前たちはいち早くこの街から出て行ってほしい。だから、これが俺ができる最大限のことだ。お前たちには死んでほしくないからな」
「......。分かりました。ですが、アメリアを俺たちのパーティ登録だけしておいてもらえませんか?」

 今後のことを考えたら、絶対にアメリアは冒険者になっておいた方がいい。身分証明書にもなるし、パーティのランクが上がるにつ入れて、今なっていなかったら俺たちと差が開いてしまうから。

「わかった。今日中にでも頼むぞ。俺も冒険者や他の奴らを止められて一日だ」
「ありがとうございます」

 俺たちはギルドマスターに言われた通りに竜人族(ドラゴニュート)の国にすぐさま向かおうとした。

その時、ザイト兄さんが俺たちの目の前に現れた。

「よぉリアム」
「ザイト兄さん......」

 ギルドマスターから聞いていた通りなら、兄さんは俺の事を恨んでいるはず。それなのに、今目の前にいる姿にそんな面影は一ミリも感じられなかった。

「まず、古代文字の発見おめでとう」
「あ、ありがとう」

 すると、先程の雰囲気とは一変して、横にある壁を殴りつけた。

「お前が古代文字を見つけたせいで俺たちがどうなっているか知っているか?」
「そんなの私たちには関係ないじゃない! あなたたちがリアムを追放したのが悪いじゃない!」
「まああんたが言うのも一理ある。だからよ、リアム。実家に戻ってこないか?」
「え?」

(実家に戻って来いだって?)

 今更言われてももう遅いよ。もっと......。もっと早くその言葉が聞きたかった。もう俺はやるべきことを見つけたのだから。

「俺が親父には進言してやる。だから戻って来い。まだ間に合う」
「そ、それは無理だよ。俺にはやるべきことがあるから」
「あぁ? 本当にいいのか? お前たちの今の立場、わかっているよな?」
「......。それでもごめん」

 今どういう立場に置かれているかなんてわかっている。それでも、もう戻るつもりなんて無い。

「そうか。この選択を後悔するなよ。次会う時は......」

 俺を睨みながらザイト兄さんはそう言ってこの場を去っていった。
 


 この時、ザイト兄さんが禁術に手をかけようとしていたのをまだ俺たちは気づきもしなかった。そして、父さんがこれから何をしようとしているのかも。


 兄さんと話した後、すぐさま街を出ようとしたが、後ろから数人がつけてきているのを感じた。

(クソ!)

 兄さんと会ったからとは思っていたが、もう、俺たちがいることをわかっている奴はいるってことか......。

 俺は頭痛を顧みずに魔眼を使い、未来を見る。そして一つだけ安全に通れる道を見つけて、その道を通って行った。

(本当にギルドマスターには感謝しても仕切れないな)

 こうして、故郷である街を後にした。

(やっとか撒いたか......)

 魔眼を使って未来を見ることは、精々少し先の未来。だから、予知で見た中で一番安全なルートを通ってきても、それが確実に安全なルートとは限らなかった。今回もどれぐらい追いかけられたかわからなかったが、やっと刺客の気配が消えた気がした。

「本当にリアムの家族って......」
「あぁ。本当に悪い」
「リアムは悪くないよ。逆にリアムは......」
「......」

 ミシェルはそう言いかけながら、哀れみな目でこちらを見てきた。

(まあそう感じるよな)

 普通、家族に殺されそうになることなんてありえないことだ。

「それで、結局、これからどうするの?」
「そうですね。まずは竜人族(ドラゴニュート)の国に向かった方がいいんじゃないですか?」
「あぁ。古代文字の解読が最優先だろうな」

 逃げることに専念しすぎて、本来の目的があいまいになって来ていたので、全員でもう一度確認をした。

「古代文字を解読した後は?」
「......」

 はっきり言って竜人族(ドラゴニュート)の国に言った後のことなんて考えていなかった。いや、考えられなかった。なんせ、本当はもう少し母国にいる予定だった。

 それに、もうあの街には戻ることが出来ない。俺たちにとって最も危険な場所になってしまったのだから。

(本当にごめん)

 二人には、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。今回の騒動の原因は、俺である。俺さえいなければもっと安全に進めていたのは確かだ。

 俺が俯きながら考えていると、アメリアが肩を軽く叩きながら言った。

「今後のことはその時、考えよ?」
「アメリアの言う通り、その時になったら考えればいいね! その場で決める冒険もいいしね」
「あ、あぁ」

 二人の言う通り、その場で考える冒険もいいかもしれないな。



 数日が経ち、竜人族(ドラゴニュート)の国へ向かっている途中で、一匹の大きなドラゴンを目撃した。

「「「!?!?」」」

 馬車を止めて、ドラゴンの様子を見る。

(あれがドラゴン......)

 こんな場所に存在しているのか。そう思いながら、ドラゴンが上空から消え去っていくまで目を話すことが出来なかった。

(よかった......)

 はっきり言って、ドラゴンがこちらに攻撃を仕掛けて来た時点で、俺たちはひとたまりも無く死ぬだろう。それにしても、本当に竜人族(ドラゴニュート)の国に近づいているんだな。

 安直ではあるけど、ドラゴンが生息しているってことは、竜人族(ドラゴニュート)の国へ近づいているって証拠だと思う。その時、ミシェルが肩を叩いてきた。

「さっきのがドラゴンなんだよね」
「そうだと思う。俺も初めて見たけど」
「もう、ドラゴンなんて見たくないな」
「あぁ」

 もう一度見て、今みたいに見逃してくれるとも限らない。

 そこから、馬車を少し走らせた時、ドラゴンらしき存在をまた見つけてしまった。

(またかよ......)

 そう思いながら、良く見つめると先程のドラゴンと比べてものすごく小さいのが分かった。

(ワイバーンか?)

 ドラゴンの中で一番弱いとされているワイバーン。だけど、弱いと言ってもドラゴンの中での話であり、冒険者ギルドではBランクモンスターに指定されている。

 すると、こちらに気付いて攻撃を仕掛けてきた。

「ミシェル! アメリア!」
「「わかっている」」

 俺たちはすぐさま戦闘態勢に入って、ワイバーン討伐を始めた。

 いつも通り、俺が前衛、ミシェルが中衛、アメリアが後衛、の構成で戦い始める。

 シルフの力を借りて、体を軽くしてもらいつつ剣に風魔法を付与してワイバーンに斬りかかる。だが、それを見切っていたかのようにワイバーンは上空に逃げ去っていった。

(クソ!)

 そして、ワイバーンが俺の方へ向かってきた時、アメリアが守護(プロテクト)を張ってくれてワイバーンの攻撃を防ぐことが出来た。

(流石だな)

 ワイバーンが怯んでいるのを見逃さずにミシェルが風切(エア・カッター)を使ってワイバーンの翼の一部を斬り落とす。

「グギャァァァァァァ」

 ワイバーンが地上に落ちてきたとき、俺は、風魔法を付与している剣でワイバーンの首に目掛けて斬りかかる。すると、あっさりと斬り落とすことが出来た。

「はぁ、はぁ......」
「やったんだよね?」
「そうだと思いますよ」

 もう一度、ワイバーンが死んでいることを確認して、一息つく。

(やっぱりすごいな)

 シルフの力がすごいことはわかっていた。だけど、ワイバーンの首すらすんなりと斬れるとは思ってもいなかった。

(この力があって、尚魔族に勝てなかったってことだよな)

 ここまで強力な魔法があるのに、魔族に封印されてしまったってこと。そう思うと、今後のことが不安で仕方がなかった。

 そして俺たちは、あたり一面で少し休憩を取ろうとした時、大人と子供の竜人族(ドラゴニュート)と遭遇する。

「え? あ、大丈夫ですか?」
「あ、は「おい! 何をやっている!」」

 突然聞こえた声のする方向を向くと、竜人族(ドラゴニュート)の精鋭たちが、血相を変えてこちらに向かってきていた。


 近寄ってきた竜人族(ドラゴニュート)に俺たち三人は、戦闘態勢を取られてしまった。

「え?」

 俺たち全員が呆然としながら、戦闘態勢を取っている竜人族(ドラゴニュート)の方を見ていると、奥の方から重装備をしている男性が現れて、話しかけられた。

「お前たち、今何をしていた?」
「ワイバーンを倒していましたけど」
「そうか。じゃあそこにいる同種をどう説明する?」
「あの人たちとは、偶然出くわしたまでで」

 嘘偽りなく答えるが、竜人族(ドラゴニュート)人たち全員が信用した表情は見せず、ずっと睨みつけて来ていた。

(はぁ~。俺たちが何をしたって言うんだ)

「嘘をつくな! 怯えているじゃないか!」

 そう言われたため、子供の方を向くと、少し怯えた風に俺たちのことを見ていた。そしてまた何かを言おうとした時、大人の女性である竜人族(ドラゴニュート)が話し始めてくれた。

「この人たちが言うことは本当です。私たちのことを助けてくれました」

 この人の発言を聞いて、竜人族(ドラゴニュート)の人たち全員が驚いた顔をして俺たちのことを見てきた。そして、武装を解き始めてくれて、先程まで話していた男性が頭を下げて言った。

「ほ、本当に申し訳ない」
「あ、はい」

 すると、ミシェルとアメリアもホッとした表情になりながら、俺の方を見てきた。

「まずは、私たちの国に案内しよう。そこでもう一度謝罪をさせてほしい」
「わかりました」

 男性に言われるがまま、竜人族(ドラゴニュート)の国に向かった。

★ 

 中に入ると、国名が記載されていた。竜人国(ドラゴノウス)へようこそ。

(なんやかんやで国内に入れたな)

 そう思いながらあたり一面を見つつ国内を歩いていると、竜人族(ドラゴニュート)の人たちが俺たちのことを異様な目で見てきた。

(またか......)

 どの国に言っても、入った時は全員が異様な目で見てくる。

(まあわかるけどさ)

 俺は人族だけど、オッドアイの魔眼持ちであって普通とは違う。そしてミシェルはエルフ、アメリアは鬼人族である。種族間がバラバラな人が国内に入ってきたら誰だって異様な目で見てくるに決まっている。

 それに加えて、今回は竜人族(ドラゴニュート)に国内を案内されている立場。いつも以上に注目されるのもわかる。

 そして、一軒の大きな家に入ると、先程の人が頭を下げて謝罪してきた。

「先ほどは本当に申し訳ない」
「もう謝らないでください」

 さっき謝ってもらったんだ。危害を加えられたわけじゃない。だから俺もミシェルもアメリアも今回のことは許している。

「そう言ってもらえると助かる。俺は、竜人族(ドラゴニュート)の宮廷騎士団の隊長を務めているラルク・シャーヘンだ」

 その後、俺たちも挨拶をしたところで、先程言われたことを思い出す。

「え? 宮廷騎士の隊長!?」

 偉い人だとはわかっていたけど、ここまで偉い人だとは思ってもいなかった。

「今回は、王子を助けてくれてありがとう」
「え? 王子?」
「あぁ。さっきは国外であったから、言えなかったが、お前たちが助けてくれた人は、竜人国(ドラゴノウス)の第四王子であるモールト・サリケルト様だ」
「......」

(あの子が王族とか......)

 そこでまたかと思ってしまった。なんで俺と出会う人全員が王族なんだ。ミシェルはエルフの国の第三王女であるし、アメリアも鬼人族の第一王女。そして今回は竜人族(ドラゴニュート)の第四王子だ。

 それに比べて俺は追放された貴族。

(はぁ~。俺も王族だったらな)

「それでだが、お前たちは、なんでこの国に来たんだ? できるだけ私たちが願いを叶えたいと思っている。これぐらいはさせてほしい」
「では一つだけお願いをしてもいいですか?」
「あぁ。なんだ?」
「古代文字がある場所を教えてもらえませんか?」

 俺がそう言うと、ラルクさんの表情が一変して、険しい表情になった。そして、睨まれながら問われる。

「お前、どこでそれを聞いた?」


「え?」
「だからどこで聞いたんだ? 古代文字がここにあると」

 その時、ミシェルが言った。

「私のお父様よ」

 すると、なぜかわかったかのような顔をしていった。

「......。そう言うことか」
「??」

(何がそう言うことなんだ?)

 今、ミシェルが言ったことで情報がどこから入手したのかもわかったのか? 多分、ラルクさんはそう言うことが知りたいのだと思うから。

「ミシェルさん。あなた王族ですよね?」
「そうですけど?」
「やっぱり。エルフとは、王族であろうと公の場に出ることは滅多にない。だから気付きはしませんでしたけど、今の情報で納得しましたよ」
「なんでそれで分かるのですか?」

 俺が疑問に思って質問をしてしまった。

「古代文字とは、世界に存在している場所を知っているものはそこまでいない。それこそ王族とかそう言うレベルじゃなくちゃな」
「そ、そうなんですね」

 まあ、俺たちが古代文字を発見した時だって、ギルドマスターが驚いていたもんな。それに今だって、俺が見つけたことによって、実家はより一層俺を殺そうとしている。

「あぁ。だからだ。それにしてもリアムたちは古代文字を見て何をしたいんだ? 何もできないだろ?」
「それがリアムはできるのよ! 噂ぐらい聞かない? 古代文字を解読した人が現れたと」
「!! それがこの少年だと?」
「うん」

 すると、ここにいる人たち全員が俺を見てきた。

(やっぱり驚くよな)

 今までなら「なんで驚くんだ?」と思っていたが、エルフの国や母国を通して、古代文字がどれだけすごいことなのかを実感した。だからこそ、こんなふうにみられるのも頷けるって言えば頷ける。

「どうやって解読をしたんだ?」
「え~と」

 本当のことを言っていいのか迷った。なんせ、ティターニアを助けた時、俺は魔族に眼をくりぬかれそうになったんだから。だからこそ、このような重要な情報を言っていいのかわからなかった。

 そう思っていた時、モールト王子がこの部屋に入ってきて言った。

「先ほどは助けていただきありがとうございました」
「あ、はい。こちらこそ無事でよかったです」

 モールト王子は笑顔になりながらこちらを見てきながら、周りにいる竜人族《ドラゴニュート》に言った。

「ラルクを除く全員はこの場から出て行ってほしい。お願い」
「ですか!」

 一人の竜人族(ドラゴニュート)がそう言った。だが、モールト王子はその言葉に引かず、言う。

「今回は王族命令だよ」
「......」

 すると、ラルクさん以外全員がこの部屋から出て行った。そして、モールト王子が俺に向かって言う。

「これできちんとお話ができますね。英雄さん」

 俺は誰のことを言っているのかわからず、後ろを振り向く。だが、そこには誰もいなかったので、俺は自分に指を指しながら尋ねた。

「俺の事ですか?」
「うん、そうだよ」
「英雄って。俺はそんな大層な存在じゃないですよ?」

 そう、英雄とは世界の全てを知ってその理を正す存在のこと。俺は、世界の理なんてまだすべて知ってはいないし、それを正す能力だって持っていない。

「いや、あっているよ。リアムさんは英雄だよ」
「どこら辺がですか?」

 俺が古代文字を解読したということを説明したとき、モールト王子はこの部屋にはいなかった。だから俺が古代文字を解読したということをまだ知らない。それなのに、なんでこんなことを言えるんだ?

 その時、ラルクさんは俺とモールト王子を交互に見ながら言った。

「モールト様、それは本当ですか?」
「うん」

 それを聞いている俺たち三人は何を言われているのかわからない状況であった。

「あ、説明しますね」

 そう言って、説明しようとした時、モールト王子がラルクさんを止めて言った。

「僕が説明するよ。僕はね、未来が見えるんだ」
「え?」
「だから未来が見えるんだ。それも近い未来じゃなくて、遠い未来がね」

 それを聞いて俺たち全員が驚いた。


「遠い未来って......。それはつまり数年先とかってことですか?」

(俺のとは違うってことだよな?)

 俺が魔眼を使って見える未来は精々数分先までであり、遠い未来が見えるわけじゃない。だから質問せざる追えなかった。それに未来を見た時の代償とかは無いのか。そう言う点も気になってしまった。

「少し違いますね。明確に何年先というより、近々起こりえる未来が見えるってことです」
「??」

 近々見えるミラって何のことだ? 

「リアムさんの未来を見た時は、数カ月後に私の目の前に現れるって言うものでした」
「......。ではあの時、俺が現れるとわかっていたと?」
「はい」
「では、なぜモールト王子は俺の事を怖がっていたのですか?」

 間違いなくワイバーン戦の時、モールト王子は俺の事を恐れていた目で見ていた。今回の一件とは違うが、俺と出会うことが分かっていたということは、俺の事を恐れる理由が分からない。

「本当に申し訳ないのですが、私は魔眼持ちの人を見たことがなかったので」
「......。そう言うことですか」

 結局は魔眼持ちというだけで恐れられる。そう言うわけってことか。

「はい。ですが、リアムさんが何をするかはもうわかっています。これから私が古代文字の場所に案内いたしますのでついてきていただけますか?」
「よろしくお願いいたします」

 そう言っていただけて、非常に助かった。なんせ、竜人族(ドラゴニュート)は他種族と接点を持とうとしないのを事前に知っていたから、古代文字のある場所までどう入ろうか迷っていたところであったのだから。



 翌日、屋敷から出て三十分程経ったところで、一つの遺跡にたどり着いた。

(ここは、なんというか想像通りって感じだな)

 誰もが一目見たら、遺跡とわかる建築物をしていた。それは、ミシェルとアメリアも思っていたようで、あたり一面を珍しそうに眺めていた。

「こちらが入り口です。どうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」

 モールト王子が進む方に進んでいくと、一枚の石板を見つけた。

【この世界の理を知っているのか】

(え?)

 いつもと違う古代文字で驚いてしまった。

(世界の理を知っているかだって?)

 そりゃあ、魔族が世界征服しようとしていることは知っているけど、それと世界の理じゃ違うよな......。

 ティターニアが言っていた世界征服は、世界の理の一つに過ぎない。それこそ、世界の理とはもっと違う所にあると思う。だが、ティターニアが言っていたように、魔族が世界征服をしようとして、それを止めようとした精霊たち。

 それはが世界の理につながっているのだとは思う。俺が俯きながら考えていると、モールト王子が肩を叩きながら尋ねてきた。

「リアムさん。この文字が読めますか?」
「あ、はい」
「あまり納得した感じではありませんね。もう一カ所にもありますので次に進みましょう。そこで内容を教えていただけたらと思います」
「わかりました」

 モールト王子に言われるがまま、次の古代文字のありかに連れて行ってくれた。

【英雄が現れた時、俺たち精霊は契約をする】

(......)

 また英雄か。ついさっきもモールト王子が英雄と言っていた。それも俺にだ。

(本当に俺が英雄なのか?)

 モールト王子の言う通り、俺が英雄ならここにいる精霊が現れてくれるに決まっている。

 そう思った時、腕の魔方陣が光出した。俺を含め、ミシェルやアメリア、モールト王子にラルクさん全員が驚きながら見ていた。

{リアム、今から出てくる精霊は少し注意が必要だよ}
{え?}
{はっきり言って、僕みたいに暇つぶしという理由で契約してくれるわけじゃないから}

 シルフがそう言った瞬間、あたり一面に熱風が走って、精霊が現れた。

{君が俺を呼んだってことだよな?}