♢
(なんでなの?)
なんで、私がティターニア様を探さなくちゃいけないの? 私が第三王女だから?
王位継承権の可能性が低いから?
そう思いながらも、結局はお父様の頼みを断ることが出来ずに古代文字があるとされている場所を探し始めた。
そこから一ヶ月ほどが経ったある日、やっとお父様が教えてくれたダンジョンにたどり着いた。
(本当に古代文字なんてあるのかしら?)
そう思いながら、ダンジョンに入ろうとした時、一人の男性と目があった。私は、ビクッと少し驚きながらチラチラと視線を送ると、男性は一礼をしてくれた後、ダンジョンの中に入って行った。
(あの人も古代文字を探しているのかしら?)
それにしてもあの人の眼、すごかったな。初めて見たオッドアイ。こんな人が人族にいるなんて思いもしなかった。
そして、もう一つ思ったことは、あの人が私を見てもあまり動揺していなかったこと。普通、私達エルフや人外の種族を見たら、人族は不気味がる人が多い。それなのにあの人は平然とお辞儀してくれた。
(珍しい人もいるのね)
そこから少し時間をおいてから、私もダンジョンの中に入って行った。中で少し歩いたところで先程見た男性とまた遭遇してしまった。
(ど、どうしよう......)
不気味がられたらどうしよう? 襲われたら......。すると、男性の方から話しかけてきた。
「あなたもダンジョン探索ですか?」
ダンジョン探索か......。まあ私が今やっていることって、ダンジョン探索だもんね。だから、その問いに頷きながら答えた。
そこで、少し疑問に思ったことを質問してしまう。オッドアイってことは、魔眼なのかどうか。私の友人で魔眼持ちの人がいる。その人も眼の色が違うため、そうだと思ってしまった。でもこの人は、魔眼って意味を分かっていなさそうであった。
だから、眼に魔力を込めてみたらと言ってみると、その人はしゃがみ込んでしまった。
(え? どうしたの?)
驚きながらも男性に尋ねると、未来が見えたと言った。
(そんなことあり得るの?)
そう思いながらも、男性の言われた場所を探し始めると、地下通路につながる場所にたどり着いた。
(本当に未来が見えているんだ)
地下に行くと、古代文字がズラリと書かれていた。
(お父様が行っていたことは本当だったんだ)
すると、男性は誰かと話しているようにぶつぶつとしゃべりだした。そして、あたり一面に風が起きて、小さな精霊が現れた。
「初めまして! リアムと契約したシルフだよ。よろしくね」
(本当に精霊様は実在したんだ......)
ってことは、この人はもしかして。そう思うに他ならなかった。そこからリアムと一緒に冒険を始めると、リアムにも様々な支障があることが分かった。
(本当に可哀想な人)
兄に死ねと言われ、家族から命を狙われる立場......。
(本当に人族って惨め)
こんな才能に溢れている人なのに、家族が殺そうとするなんて本当に惨め。リアムは今後、必ず何かしらで世界に名を連ねる人だと思った。
だからこそ、私がやらなければいけないことを放棄してでもこの人を支えたいと思った。少しドジだけど、私のために怒ってくれる人。そして、自分の命より他人の命をすぐさま考えてしまうほどお人好し。
でも、リアムの実力はお世辞にも強いとは言えない。だけど、リアムは精霊と契約できると言っていた。だったら、それを手伝ってあげたい。でも正面から手伝うと言ってもリアムは断ってしまうだろう。
だから、私の役目を理由付けた。リアムが精霊と契約して強くなったら、選択の幅が広がる。そして、家族を見返せるほどの実力をつけてほしい。そして縛れずに人生を送ってほしい。その時、私がリアムの隣にいなくてもいいから。
★
ある日、リアムは私のことを考えてパーティを解散しようとしていた。だから私がやらなければいけないことを説明した。これで、リアムも罪悪感が少しは減ってくれればいい。
(本当にお人好しな人)
お互いの利害が一致していれば気を使われないと思った。そして願わくば、リアムには自由に生きてほしい。
「それにしても、最近リアムのことばかり考えている......」
昔の私なら考えられなかった。でも、しょうがないじゃない! 冒険者に襲われたとき、リアムの戦っている姿を見てかっこいいと思ったんだもん!
(誰だってあんな姿を見たらかっこいいと思うに決まっているよぉ)
もし、エルフの国できちんとした功績を上げたら、お父様もリアムのことを認めてくれると思う。そしたら......!
♢
ミシェルの話では、エルフの国まで一ヶ月ほどかかるらしい。
(近いのか遠いのかわからないな)
そう思いながらも、クエストでもらった報酬で馬車を借りて、エルフの国へ向かい始めていた。道中、ゴブリンやコボルトなど、様々なモンスターと出くわしたが、難なく倒すことが出来た。
そんな時、フードのかぶった一人の女性と出くわした。俺とミシェルは顔を見合わせながらもその人の元まで向かって話しかけた。
「どうかしましたか?」
すると、俺の顔を見てすぐさま俯きつつ答えた。
「あ、いえ。大丈夫です」
「でも......」
大丈夫だと言われても、ここら辺に街や集落なんて見当たらない。そんな状況で見捨てるわけにもいかないだろ......。
(やりたくないけど、やるか......)
そう思い、右眼に魔力を込め始める。すると頭の中で、話しかけている女性の頭上に、角が備わっている光景が浮かび上がってきた。
そして案の定、頭痛が走る。それを見たミシェルとフードを被った女性が驚きながら話しかけてくる。
「リアム大丈夫!?」
「だ、大丈夫ですか?」
「はい......。大丈夫です」
頭痛が収まるのを待ち、一呼吸を入れてからミシェルに言う。
「この人、魔族だと思う」
「え? どう言うこと?」
「魔眼を使ったら、この人の頭上に角がついていることが分かった」
それを聞くや否や、ミシェルの顔を険しくなっていくのが分かる。
(やっぱり魔族って危ない存在なのかな?)
本とかで魔族が危険な存在とは記されていたが、今まで出くわしたことすらなかったので、判断しづらかった。それに、何事にも実際に感じてみなくちゃ分からない。
「まあ一旦話してみましょ」
「そうだね」
二人の会話が終わったところで、女性に話しかけた。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「はい。それにあまり私には話しかけない方がいいかと思います」
(それってやっぱり、魔族だからか?)
俺は少し疑問に思った。本当に危ない存在なら、こんなことを言うとは思えない。だったら、何かしらの理由があってここにいて、俺たちに対して害をもたらす存在ではないのかもしれないと。
それは、ミシェルも同様に感じていたようで、ミシェルが言った。
「私はエルフよ。あなたも人族じゃなくても大丈夫だから言ってみたら? リアムは種族で差別をするような存在じゃないから」
「......。本当にいいのですか?」
「あぁ」
すると、目の前の女性がフードを外した。案の定、頭上には角が付いていた。
(それにしても、ミシェルと違う美人な人だな)
「え? 驚かないのですか?」
目の前の女性が驚きながら尋ねてきた。まあ、予知を使ったんだから、どんな存在かわかっていたし驚いたりしない。それに、驚いたりしたら、この人に対して失礼だと思うし。
「まあ、知っていましたしね」
「え?」
「俺の眼、左右の色が違いますよね? 魔眼なんですよね。だからそれで......」
俺がそう言うのに対して、納得した雰囲気を出した。
「そうなんですね。鬼人族って分かりますか?」
鬼人族と聞いてもわからなかったので、ミシェルの方を向くと、驚いた表情をしていたのが分かった。
「あの鬼人ですか」
「はい......」
すると、ミシェルが俺に対して説明を始めてくれた。
「鬼人って言うのは、元魔族のことだよ」
「え? 元魔族ってどう言うこと?」
(魔族って一つじゃないの?)
「まあ簡単に言えば、魔族に追放された種族ってこと」
「......」
種族を追放ってどう言うことだよ......。そんなことあり得るのか? いや、実際に言っているのだからあり得るんだろう。それにしてもそんなことあんまりだろ......。
「ミシェル様がおっしゃった通り、私たちの種族は追放された身です。あ、自己紹介が遅れていましたね。アメリア・ゴメスです」
それを聞くとミシェルは驚いた表情をしながら言った。
「ゴメスって......」
「はい。想像されている通り、私は鬼人族の王族です。実際には、鬼人族は存在しな
いんですけどね」
「存在しないってどう言うこと?」
それを言って、少し後悔をした。聞いちゃいけない内容だと思った。
(それにしても存在しないってどう言うことだ?)
「鬼人族が住む場所は現在、存在しないんですよ。鬼人族の人たちは全員が、まばらになって各々暮らしている感じです」
「あぁ......」
「それで、アメリアさんはどうしてこんな場所にいたの?」
ミシェルの問いを聞くと、アメリアさんの表情が一瞬険しくなったが、すぐにいつも通りの表情になって言った。
「父を助けるためです」
「父を助ける?」
「はい。魔族に父を封印されてしまいましたので」
「それって古代文字で?」
俺が言ったことに対して、驚きながら頷いた。そして、俺とミシェルは互いに見合わせながら言う。
「じゃあ、私たちと目的は同じね。この際だから、一緒に行動しない?」
「え? でもいいのですか? 私、元魔族ですし......」
「そんなの関係ないじゃない! お互い困っている時は助け合うべきよ。ね?」
「そうだな」
流石に助ける方法が違かったら即答できなかったが、今回俺たちとやることは一致しているので、助けてあげられるなら助けてあげたい。
「あ、ありがとうございます。ですがお父さんの居場所がまだわからないんですよ」
「それは、今後考えて行きましょ。まずは、エルフの国に言って情報収集をする予定だけど良い?」
「はい! よろしくお願いいたします」
こうして、新たな仲間が一人増えた。
(それにしても、このパーティ、俺以外王族じゃないか?)
アメリアさんが仲間になって、パーティ内も賑やかになった。最初こそ、アメリアさんが俺たちに対して気を使ってきていたけど、それも時間が過ぎる事に打ち解けていけた。
「それにしてもリアムくんも大変だったね」
「はい。規模は違いますけど、お互い追放された身ですからね」
二人で話ながらしんみりとしたところでミシェルが大声で話しかけてきた。
「見えてきたよ。あれがエルフの国!」
「「あれが......」」
イメージしていた通りの雰囲気であった。それにしても、ミシェルが居なければエルフの国にたどり着くことが出来なかった。
奥が見えないほどの森林に加えて、森の中は霧で分かりづらくなっている。そしてエルフの国に近づくと幻影魔法が使われているのが分かった。
馬車がエルフの国の関所にたどり着いたところで、二人の男性が俺たちを見るや、一礼をしてきた。
「「おかえりなさいませミルシェ様」」
「うん! この二人は私の客人だから粗相のないように伝えておいて。私はお父様のところに向かうから」
「「はい。分かりました」」
馬車を走らせながら街並みを見て、どれだけ人族と違う生活をしているのかが実感できた。すべてが木造の家で、大樹の上や、自然豊かな場所に家が建っていたりしていた。
「それにしても、ミシェルって本当に王族なんだね」
「え? 信じてなかったの?」
「違うよ! 門番の人たちの反応を見て、より実感したって言うかね」
「あ~」
あの光景を見るまで、王族だと頭の中ではわかっていても、理解をしていなかった。でも、馬車を走らせている最中、ミシェルを見るや住民たち全員が一礼をしていたので、本当に王族だと実感した。
そこから、数分走らせたところで、馬車が止まった。目の前にある家を見て圧巻する。
(これが、ミシェルの家......)
山脈に滝が流れているところに大きな建築物。
「す、すごいね」
「そう? 別に普通だと思うけど」
(いやいや、普通じゃないから!)
そう思いながら、アメリアの方を向くと、驚きはしていたが俺とは違い
、平然としていた。
「じゃあ中に入ろっか!」
ミシェルに言われるがまま中に入ると、数人の使用人が驚いた顔をしながら道案内をしてくれた。その際、俺とアメリアのことを少しばかり異様な目で見られた気がした。
そして、大きな部屋に入ると、ミシェルと顔がそっくりな男性と女性が座っていた。そして、女性の方が話し始める。
「おかえりミーちゃん」
「ただいまお母さま、お父さま」
「あぁ。それで後ろにいる二人は誰だ?」
ミシェルのお父さんが、俺の事を少し睨みつけながら言った。
「この二人は、今一緒にパーティを組んでいる人なの! 人族の男性がリアムで、木人族の女性がアメリア」
「今の人族は眼の色が違うのか」
「それは違うよ。リアムが魔眼持ちなだけ」
二人は俺の事を驚いた表情をしながらじろじろと見てきた。そして、ミシェルのお父さんが咳ばらいを挟んで言う。
「それで、鬼人族の子がいるって言うけど、この子の立場がわかっているのか?」
「うん。でも私となすべきことが一緒だったからパーティを組んだんだ」
「そうか。ならいいが、きちんと結果を出さなくちゃ国民たちは認めてくれないぞ。それは人族であるリアムくんも一緒だ」
すると、ミシェルは少し笑みを浮かべながら俺を一瞬見て、二人に言った。
「リアムは古代文字を解読したよ」
「「え?」」
「まあ、驚くよね」
ミシェルのお父さんがこちらに寄ってきて肩を持たれる。
「本当か!?」
「あ、はい。一応は解読しました」
「それで結果は何だった?」
「リアム、見せてあげれば?」
ミシェルに言われるがまま、手の甲に魔力を込める。
{あまり人に見られたくないから、最低限の人にしてね}
{わかった}
「ミシェルのお父さんとお母さん以外はこの場から出て行ってもらえませんか? そうでなければお見せすることはできません」
「......。わかった。全員下がれ」
ミシェルのお父さんの命令で全員が下がったところで、シルフを見せた。
「「!!」」
「リアム~。何をすればいいの?」
「う~ん。わからないけど、何もしなくていいんじゃないかな?」
すると、二人が驚きながらも言った。
「「精霊様......」」
「うん! よろしくね?」
そこから、ミシェルのお父さんに質問攻めを受けた後、部屋に案内された。そして夕食を取っている時、ミシェルとはどのような関係なのか。それ以外にも様々な質問をされた。昼とは違う圧がすごかったけど、ミシェルがカバーを入れて一息付けた。
(ナイス!)
最後にエルフの国のどこに古代文字があるのかを聞く。
「どこに古代文字があるのですか?」
「ここから数キロ離れた湖の近くにある祠にある。ミシェルが場所を知っているから、明日にでも行ってみると良い」
「ありがとうございます」
夕食も終わり、部屋に戻り一息ついている時、部屋にノックされた。
「リアムいる?」
「ミシェル?」
「うん。今話せる?」
「あぁ」
俺はミシェルを部屋の中にいれた。
(か、可愛すぎるだろ......)
いつもと違う服装で、少しドキッとしてしまった。いや、違う。多分、お風呂上りであり、いつもより色気があったからだろう。
「あ、あんまりじろじろ見られると恥ずかしんだけど......」
「ごめん。つい可愛くて」
「あ、ありがとぅ......」
お互い、何とも言えない空気になってしまった。そして、ミシェルが手で顔を仰ぎながら言った。
「今日はごめんね? パパとママがいろいろと質問しちゃって」
「いいよ。本当に大切にされているんだね」
(いいな......)
質問してくるってことは、それだけ家族がミシェルのことを大切に思っているってこと。それと同時に、ものすごく羨ましいと思ってしまった。俺は家族に愛されたことがなかったのだから。
「あ、ごめん」
「違う違う! もう吹っ切れているから気にしないで!」
本当は吹っ切れているわけじゃない。吹っ切れるはずがない。俺だって家族に愛される生活を一度でも送って見たかった。でも、今言った発言は、そう言う意味を込めて言ったわけじゃない。だからわざと嘘をついた。
「ならよかった」
「それでどうしたの?」
お互い気まずい状況になって、空気が悪くなっていたので話題を変えた。ミシェルの実家とは言え、男の部屋に来るということは、それなりに重要な話があるのだと思う。すると、ミシェルが少し不安そうな顔をしながら言われた。
「もしかしてだけど、魔眼を使った時、何かしらの代償ってあったりする?」
「......」
無いとは言い切れなかった。予知を使った際、頭痛が起こること。今はこれしかないけど、もしかしたら他にも代償というものがあるのかもしれない。
「正直に言って」
「まあ、軽い頭痛だけだよ」
心配な点はあるけど、あくまでそれは予想であって、実際に怒っているわけではない。その予想を言って、明日支障を起こすわけにはいかない。
「嘘だよね?」
「え?」
ミシェルにそう言われて少しビクッとしてしまった。
(もしかしてバレてる?)
「軽い頭痛なはずないもん。何度か見たけど、いつも顔が真っ青になっていたし」
「あ~。まあそうだね。軽くはないね」
「それって、どっち? 未来を見る方?」
「まあそうだね」
流石と言うべきか、どちらの魔眼を使ったら頭痛が起きるのか、把握されていた。
「じゃあ未来を見る魔眼は使わなくていいよ。普通に探そう」
「でも......」
シルフを見つけた際だって、予知を使わなければ見つけることが出来なかっただろう。そう思うと、使わないって選択を決断することが出来なかった。
「でもじゃないよ。それにリアムはもっと自分を大切にして! 私たちができることで探せばいいじゃない!」
「そ、そうだね」
ミシェルの迫力に押されてしまった。こんなに怒ったミシェルを見たのは、多分初めてだと思う。だけど、それ以上に俺のために怒ってくれるミシェルに対して、ものすごく嬉しくも感じた。
「約束だからね! もし使ったら......。わかってるよね?」
「はい」
「このことは、アメリアにも伝えておくからね! おやすみ!」
そう言って、俺の部屋を出て行ってしまった。
「おやすみ、ミシェル。後、ありがとな」
本当にこんな俺のために怒ってくれてありがとう。俺を救ってくれてありがとう。ミシェルが居なかったら俺はどうなっていたかわからない。路頭に迷っていたかもしれない。もしかしたら、すでに死んでいたかもしれない。
だからこそ、ミシェルには感謝しても仕切れない。
(俺は、ミシェルのために頑張らなくちゃ)
そう決意した。一度は絶望の果てまで落ちた人生。それを救ってくれた人が目の前にいて、困っているなら助けてあげたい。
(本当に俺は恵まれているな)
そう思いながら就寝をした。
翌朝、ミシェルとアメリアと共に古代文字があるとされている祠に向かい始めた。なぜかミシェルは笑顔になりながら歩いていたので、つい質問してしまう。
「なんでそんなに楽しそうなの?」
「だって三人で初めてこなすクエストだよ! それも私の知っている場所で! 楽しみに決まっているじゃない!」
「そ、そっか」
俺にはよくわからないけど、そう言うもんなのかな? まあ、三人でこなす初めてのクエストって言うのは少し嬉しいけどさ。
「リアムさんって、どんな風に古代文字が解読されているのですか?」
「え? どんな風って言われてもね......。ただ魔眼を使っているとしか」
「そうではなくて、どのような感じに見えるのかなって思いまして」
「あ~。なんか魔眼を使ったら、文字が化けて読めるようになるんだ」
そう、魔眼を使ってない状況だと、みんなが見えている古代文字そのままだけど、魔眼を使うと古代文字がなぜか読めるようになっていた。
「そうなんですね。魔眼を持っていない私からしたら、想像できませんけどすごいですね」
「あはは。まあ俺の実力ってわけじゃないけどね」
「「それは違(うよ、いますよ)!!」」
「え?」
だって、俺が今まで努力をして身に付けたわけじゃないから、実力とは言えないんじゃないか?
「リアムが使えるってことは、実力ってことだと思うよ」
「そうですよ!」
「あ~。そうなのかな」
まあ二人が、そう言うならそうなのかもしれない。でも、俺の中での実力って言うのは、死に物狂いで努力してやっと身に付けた技などを実力って認識していたから。
「まあ、いいや。それよりも、見えてきたよ。あそこが湖だよ!」
「「きれい......」」
まず、頭に浮かび上がってきたのは、率直にきれいだった。俺が住んでいた街の近くにあった湖は、汚染されていたりして透明とはいいがたい湖だった。まあ、少し離れた場所にはきれいな湖もあった。
だけど、目の前で見ている湖はそう言う次元のレベルではなかった。浸透している水。そして奥の方には木などが生えていたが、それをもきれいと思わせるほどの美しさ。
「でしょ~。私も子供の頃はよくここに来たんだ!」
「え? 祠の近くに? 危なくないの?」
「祠って言っても、モンスターが出るわけじゃないから、危なくないよ」
「そうなんだ......」
それを聞いて少し安心した。モンスターが出たら、どうやって戦うかなども考えていたから。
もう少し湖を眺めていると、少し眼が熱くなった。
「うぅ」
「?? リアム、もしかして」
「つ、使ってないよ!?」
「そう、ならいいけど」
ミシェルがジト目でこちらを見てきたから、瞬時に言い訳をしてしまった。
(それにしても今のは何だったんだ?)
今までこんなこと起きたことがなかった。それこそ、眼に魔力を込めた時でさえ、こんな現象が起きたことがなかった。
「まあ、祠に入ろっか」
「「うん、はい」」
ミシェルに続くように祠の中に入って行った。
(イメージとは違うな)
シルフが居た時のダンジョンは、外装は汚かったが、内装は綺麗であった。それに比べて、今来ている祠は、外装は綺麗であったけど、内装はお世辞にも綺麗とは言えなかった。
そう思いながらも徐々に進んでいくと、一つの銅像を見つけた。その銅像には、ツルなどが付いていて、何とも言えなかったが、銅像自体は美しいと感じた。
「この像がティターニア様だよ」
「「え?」」
ミシェルに言われたのを、アメリアと二人で驚く。
(これがティターニア様?)
だったら、なんで手入れなどをしていないんだろう? 流石にエルフの国の近くにあるんだから、誰かしらが手入れをしていてもおかしくはないはずなのに。
「まあ驚くのも無理ないよね。外は手入れしてあったのに中は誰も手入れしていないんだもんね」
「そうですね」
やっぱり外装は手入れがしてあったからあんなに綺麗であったのか。
「この場所ってね、神聖な場所になっているから内部に入れる人って限られている。だから内部を手入れする人が居ないんだ。あまり中に入っちゃいけないことになっているしね」
「俺たちが入ってもよかったのか?」
「それは大丈夫。私がその役目の人であるから」
「......。そうなんだ」
役目って言うのは、前に言っていた古代文字の解読ってやつだよな。
その後も、三人で内部を探索しながら全員でおかしな点などが無いかを確認し始めた。すると、ミシェルが険しい顔をしながら言った。
「ここって誰か触った?」
「俺は触ってないけど」
「私もです」
「......」
ミシェルが指さしたところを見ると、誰かが触った痕跡が残っていた。
(誰なんだろう?)
その後も、何カ所か誰かしらに触られた痕跡が残っていたのを確認できた。そして、徐々に奥へ進むにつれてその痕跡が大きくなっていったのが分かった。そして、誰かしらに話しかけられた。
「あれ? こんな場所に入る人が居るなんて珍しいですね」
「「「え?」」」
三人で目の前を凝視すると、一体の魔族が出てきた。
「エルフに鬼人族ですか。あ! 劣等種の人間もいますね」
「......」
話半分に聞きながら、俺たち全員が戦闘態勢に入った。
「まあそう身構えないでくださいよ」
「あなたは誰?」
「誰っていわれましてもね~」
「なんでここにいるの?」
ミシェルは魔族を睨みながら質問していた。
「もう少しで終わるところでしたけど、まあいいでしょう」
「質問に答えなさい!」
「はいはい。ミシェル様」
「!?」
え? なんでミルシェの名前を知っているんだ? ここにいる全員がそう思った。
「まあ簡単に言えば、封印が施されているかの確認ですよ。それと封印の強化ですかね」
「......。なんでそんなことするの」
「そんなのティターニアが怖いからに決まってるじゃないですか!」
「怖いね......。魔族も怖い存在はいるんだな」
つい言ってしまった。
「劣等種と話すつもりはありませんけど? まあいいでしょう。どの種族にだって怖いものはあるでしょう。種族間に序列があるのだから」
「??」
序列トップに君臨している魔族に怖いものなんてあるのか?
「人族は情報が遅れているから理解できなくてもしょうがないですよね。いや、理解できないか。人族にとって全種族が弱点なんだから」
「!!」
それを言われてやっとわかった。魔族にとって、エルフが弱点である事。そして、その頂点に君臨しているティターニア様が怖いということ。
その時、アメリアが叫んだ。
「なんでお父様を封印したのよ!」
「鬼人族が邪魔だったからに決まっているじゃないですか」
「どこにいるの」
「それを答える義理はありませんね。ここまで情報をしゃべっただけでも感謝してほしいぐらいですよ」
そう言いながら不気味な笑みを浮かべていた。
「それで、ここまで話したんだから見逃してくれますよね?」
すると、ミシェルが睨みながら言った。
「それはできないわ」
「はぁ~。逆に温情ですよ? あなた方三人と戦ったところで私にとっては負担でも何でもないんですよ」
「......」
こいつが言っていることは、一理ある。今の俺たちが戦っても勝てる相手じゃない。それは見ればわかることだ。それでも、ティターニア様を封印した奴を見逃す選択をミシェルができるはずない。
すると、低い声で話し始めた。
「王族であるミシェル様、鬼人族である女を殺すのは惜しい。それに、劣等種であるお前には......」
「......」
「お前は劣等種の中でも特別な存在だったのだろう?」
「それは違う」
大声で否定した。俺が特別な存在だと? そんなことあり得ない。そうであれば、今までの出来事が起こるはずがない。
「違いませんよ。ですが、その眼を見て周りはどのように反応されましたか? 信用されず、追いやられた。そんなことがありませんでしたか?」
「......」
俺は、魔族に言われたことを否定することが出来なかった。
「そうだ! 私と一緒に来ませんか? そうすれば、あなたも楽しい人生が遅れますよ」
「「ダメだよリアム(さん)!!」」
「外野は黙っていてください」
魔族がそう言って、二人に拘束魔法をかけて動けないようにした。そして、俺に近寄ってきて手をさし伸ばされる。
「あなたならわかってもらえるはずです。劣等種に憎しみを持ちましたよね? こちらに来ればそれを実行できますよ」
「......」
「これも運命ですよ。さぁ、私の手を取って」
そこで、ふと頭の中にミシェルが浮かんだ。
【自分をもっと大切にして】
(あぁ。そうだ)
「それはできない」
追放された当時ならこの提案に乗っかっていたかもしれない。こいつが言うことに対して思い当たらないわけでもない。追放され、殺そうとした家族を憎んだ。それに、周りからは異様な目で見られる人生。
でも、ミシェルと出会って俺の人生に光が差した。この人となら一緒に居てもいい。いや、一緒に居たい。そう思える存在と出会えたんだ。だから......。
「そうですか。だったら眼だけでも貰いますね」
俺の眼に向かって指を突っ込もうとした時、あたり一面が光出した。
(え?)
そして、魔族が吹き飛ばされた。すると、魔族は俺の事を異様な目で見てきながら言った。
「もしかして、あなたは......」
「俺はお前にはついて行かない。これが俺の答えだ」
「そうですか。まあいいでしょう。言い情報も入手できましたしね。では」
そう言って、魔族はこの場から消え去っていった。その瞬間、ミシェルたちにかかっていた魔法が解かれてこちらに寄ってきた。
「「大丈夫(ですか)?」」
「あぁ。ありがとな」
「? それよりもあの光......。なんだったの?」
「わからない」
その時、耳元で囁かれた。
{こちらへ来てください}
(誰だ?)
{シルフ?}
{違うよ?}
じゃあ誰なんだ? そう思いながら、囁かれた方向に向かうと、一部だけ古代文字が見えた。そして、魔眼を使って解読する。
【ティタ】
??
あたり一面に古代文字が無いか探し始めるが、ここ以外あたり一面古代文字は見当たらない。
(しょうがない)
俺は、予知を使って未来を見る。すると一部だけ、封印がされていない場所を発見する。そしてそこに向かおうとした。その時、頭痛が走る。
「うぅ......」
「リアム!」
「だ、大丈夫だから」
予知した場所についた時、古代文字を発見する。
【癒しのティターニア】
それを読んだ瞬間、目の前に一人の女性が現れた。
{ありがとうございます}
(え?)
{あの、ティターニア様ですか?}
{はい}
{......}
実際に見てみると、ミシェルの面影が少しだけ見受けられた。
{子孫も困惑していますし、私と契約してくれますか?}
{分かりました}
二度目であり、ミシェルからの願いでもあるので断る理由がなかったので、すんなりとティターニア様と契約が進んでいった。
そして、あたり一面に緑色の風が起きた瞬間、手の甲が熱くなったのを感じた。
(そう言うことね)
きちんと魔方陣を見てみると、渦巻き状の紋章と、羽の紋章ができていた。
「初めましてリアム、そして私の子孫であるミシェルと鬼人族であるアメリアさんでいいかしら?」
「「!?」」
二人は、驚いた顔でティターニア様のことを見ていた。そして、ミルシェは涙を零しながら言った。
「本当にティターニア様ですか?」
「はい。そうですよ。今はリアムと契約しているので、リアムの精霊ということにもなりますけど」
「え?」
すると、二人は俺の方を見てくる。
(しょうがないじゃん。ティターニア様に頼まれたんだからさ)
「ですがシルフみたいに、リアムと一緒に居る事はできないわ」
「そ、そうなんですか?」
「まず、リアムは敬語じゃなくていいからね? 対等な立場なんだから」
「あ、はい」
ミシェルと同じことを言われてしまって、少し驚いた。
「それで、私は、世界各国に私の一部を封印されています。だから力の一部を貸すことはできても、この場から移動することが出来ないんですよ」
「「「......」」」
「リアムたちが私の封印をすべて解いてくれた時、一緒に行動します。それはお約束しますので、お願いです。私を助けてください」
「もちろんですよ」
そう、もう一部は助けてしまったんだ。だったら全部の封印を解いて自由にしてあげたい。それに、これはミシェルの願いでもあったからな。
「よかった。では、なぜ私が封印されたのか。そして同様に精霊が封印されている理由を説明しますね。言わば、世界の理」
そう言うと、ティターニアは黙々と説明を始めた。
まず、魔族が世界征服しようとしたこと。それを阻止しようとした精霊とティターニア様。それに加えて、世界征服しようとしたことに対して、反対した魔族たちもろとも封印したこと。
この話でやっと今までの意味が分かった。ティターニアやシルフ、そしてアメリアのお父さんが封印されている理由が。
(それにしても、世界を支配するとか......)
はっきり言って、想像できなかった。なんたって俺は一般市民であるのだから。
「ティターニア様は、また魔族たちが世界征服をしようと考えているのですか?」
「そうですね。なんたって、すでに活発的に魔族たちが動き始めていますから」
「そうですか」
魔族たちが活発的に動き始めたか......。
「ですのでリアム、そしてミシェルにアメリアさんは魔族を食い止めてください」
「え? そんなことできませんよ!」
ティターニアに言われたことを否定した。俺にそんなたいそうなことできるわけがない。俺は、たかが古代文字を読めるだけの存在。そんな奴が魔族を食い止めるとかできるわけないじゃないか。
「いえ、これはリアムにしかできないことですよ」
「え?」
「なんで私たちが封印されているか分かりますか? 魔族に負けたからですよ。だけど、リアムは私たちの力を使うことが出来る。この意味が分かりますよね?」
「......」
俺が、精霊たちの力を使って、魔族を倒せってこと? ちょっと待ってよ。精霊たちが負けたのに俺がそんな大役、できるわけ......。すると、ミシェルとアメリアさんが俺の背中を触りながら言った。
「私はリアムについて行くよ? 私はこうなることが分かっていたから」
「私もついて行きます。お父さんを救いたい気持ちもありますが、リアムさんを支えたいとも思っています」
「......」
「それで、リアムはどうするのですか?」
(どうするって......)
「はぁ~。わかったよ。やるよ。ティターニアも力を貸してくれよ」
「わかっています。ですので、まずは、封印されている精霊及び私達、そして魔族たちを開放してあげてください」
「あぁ」
「私と話したければ、ここに来ていただけたら話せますので、いらしてくださいね。 そしてリアム、本当にありがとう」
そう言って、ティターニアはこの場から消え去った。そして、ミシェルとアメリアさんの方を向くと、決心のついたような表情をしてこちらを見ていた。
「これからよろしくね、リアム」
「リアムさん、よろしくお願いいたします」
「あぁ。二人ともこれからよろしくな」
こうして、俺の本当になせば成らないことが決まった。
(それにしても俺は、本当に魔族を倒すことが出来るのだろうか......)
でも、ミシェルとアメリアさんがいれば、できるかもしれないという淡い期待を持ちながら祠を後にした。
★
ティターニアに言われたことが、俺の人生を大きく変えるのは、そう遠い話ではなかった。そして俺の成長が、実家に対してどれだけの圧力をかけているか、まだ知るよしもなかった。