「お前なんて産まなければよかった」

 突然、父親であるシャック・ロードリックに言い渡された。

「え......?」
「なんだその顔は! お前みたいな忌み子なんて産まなければよかったと言ったのが聞こえなかったのか!」
「......」

 父さんから言われたことで、頭の中が真っ白になっていた。俺を産まなければよかった......? 

(なんで、なんでそんなこと言うのですか......)

 親や兄に嫌われていたことはわかっていた。だからこそ、貴族であるロードリック家に迷惑をかけないように努力してきたつもりだったのに......。

「その眼はなんだ! 右目は青色で左眼は赤色! そんな人間見たことが無い! お前は魔族の蘇りに決まっている」
「で、ですが街の人たちは何も言ってきません!」

 俺が異常なのはわかっている。普通の眼は、左右同一色であるのに対して、俺はオッドアイであるのだから。だけど父さんはこう言ってきたが、街の人は何一つ俺に対して奇妙の目で見てこなかった。

「それはお前のことを、子供のころから知っている住民が多いからだ。住民たちは慣れてしまっているだけ。だからお前は兄であるザイトみたいに他国には連れて行かなかったんだ!」

 俺が黙りこんでいると父さんが続いて言ってくる。

「確かリアムは冒険者に登録しているよな? その時、冒険者たちはどんな風にお前を見ていた? 奇妙な目で見ていなかったか?」
「......」

 言われてみればそうだ。住民の人たちは俺の事を奇妙な目で見てこなかったが、初めて会った冒険者たちは俺の事を異様な存在として見てきていた。

 その時、部屋にザイト兄さんが入ってきた。

「リアム、お前も十五歳になったんだ! 父さんの言う通り、汚点であるお前を育てる理由は無いんだ。とっとと出て行け」
「ザイト兄さん......」

 ザイト兄さんが言った後、父さんと兄さんの二人は、軽蔑する目でこちらを見てくる。

「わかっただろうリアム。お前はこの家の汚点。早く出て行ってくれないか?」
「......。分かりました」

 何も反論することができないまま、俺はこの家を追放された。

(俺はこの家にとって、存在してはいけなかったんだな......)



 実家を追放された後、何も考えられずに街中を歩いていた。

(なんでこんな眼なんだ!)

 俺がこんな眼さえしていなければ、実家を追放されることなんてなかった。もっと平穏な生活が遅れていたかもしれない。

 この眼に何かしらの意味があればよかった。だけどこの十五年間、この眼の実力が発揮されたことなんて無かった。

(はぁ~)

 自分自身を恨んだ。こんな人生を送るんだったら父さんに言われた通り、産まれてこなければよかった。

 だけど結局は後の祭り。もう戻ることのできない。

「生きて行くためには冒険者として仕事をするしかないよな......」

 不幸中の幸いで、実家に暮らしていた時から冒険者として少し活動していたため、クエストを受けることはできる。

 足取りが重くなりながらも、冒険者ギルドに向かった。中に入ると真っ先にクエストボードを確認する。

・ゴブリン退治
・コボルト退治
・商人の護衛
・ダンジョン探索
・薬草採取

 現状受けられるクエストを一通り見た後、ダンジョン探索の紙を手に取り、受付嬢に渡した。すると、先程まで気だるそうにしていた顔が一変、満面の笑みに変わった。

「リアムさん、本日はダンジョン探索ですか」
「はい」
「ですが、リアムさんはパーティを組んでいないので、ダンジョン探索は危険ですよ?」
「わかっています。でもお願いします」

 昔の俺なら受けることは無かっただろう。なんせ、お金に困っているわけではなかったし、冒険者としても楽しくやれればいいと考えていたから。

 だけど、何も無くなってしまった俺に選ぶ選択肢なんて無い。選べるクエストの中で一番報酬が高いクエストを受けるしかないんだ。

「わかりました。お気を付けくださいね」
「はい。ありがとうございます」

 受付嬢にクエストを受理してもらって、俺はダンジョンに向かった。



 街から数日が経ち、やっとダンジョンを見つけることができた。

(見た目通りダンジョンって感じなんだな)

 昔作られた建設物が崩壊して、地下につながる階段が見えていた。俺は、あたり一面を見ながら驚いていると、一人の女性と目が合う。

(きれいだ......)

 耳が長いってことは、エルフなんだろうか? 実際にエルフなんて見たことがなかったが、それでも噂通りの美少女であった。

すると、その女性は驚いた顔で俺を見て来ていた。

(??) 

 それにしてもこの人は何をしに来たんだろう? 俺と一緒で、ダンジョン探索なのかな? 俺はエルフらしき女性に一礼した後、ダンジョンの中に入って行った。


 ダンジョンの内装は、思っていたよりも綺麗であった。壁や床が崩壊寸前であるのをイメージしていた。だがこのダンジョンは、手入れでもされていると思わせる壁に、奇妙な模様をしている床。

(これがダンジョンなのか?)

 少し疑問に感じた。本などで読むダンジョンにはモンスターが出てくると記されていた。だけど今のところ、モンスターの居る気配はしない。

 あたり一面を見ながらダンジョン探索をしていると、あっという間に行き止まりになってしまった。

(え?)

 まだ歩いて十分も経っていない。それなのに、もう終わりなのか? そこでやっと理解した。このダンジョンがなんで、低ランク冒険者が受けられるクエストなのかが。

 普通ダンジョン探索とは、高ランクの冒険者が受けるクエストであった。なのにこのクエストだけは俺みたいな低ランク冒険者でも受けることができた。

 多分だけど、前は高ランク冒険者たちにクエスト依頼が行っていたが、何も収穫が無く、モンスターも出てこない結果に終わったため、低ランク冒険者でも受けられるクエストまで降格したのだろう。

(高ランク冒険者が見つけられないのに、俺なんかが見つけられるわけないじゃんか......)

 そうは思いながらも、来たからには最低限ダンジョン探索しなければならないという使命感から、ダンジョン内を見回し始めた。

 そこから数十分経った時、ダンジョン入り口で見かけたエルフらしき女性と再会した。お互いハッとした顔で目が合う。そしてつい、話かけてしまった。

「あなたもダンジョン探索ですか?」

 すると、女性は話しかけられたのに驚きながらも頷きながら、返事をしてくれた。

「そう言うってことはあなたもですよね?」
「はい。このダンジョン何もないですね」
「そうですね」
「......」

 ここで話が終わってしまい、お互いの空気が悪くなったところで女性が話しかけてきた。

「左右の眼の色が違いますけど、何か意味はあるのですか?」
「いえ、特に何もないですよ」

 この人が言う通り、何か意味のある眼であったらよかったのにな......。すると、疑う雰囲気を出しながら俺に近寄ってきて眼を見てきた。
 
「本当ですか?」
「そ、そうですけど」
「へ~。じゃあ眼に魔力を込めてみてください」
「え?」

 魔力を眼に込める? なんでそんなことをしなければいけないんだ?

「私の知り合いで、眼に魔力を込めたら力が発揮されるというの現象が起きたことがあったのですよ」
「......」

 俺は、この女性に言われた通り両目に魔力を込めた。すると頭の中で、俺とこの女性が壁に手を当てている光景が見えた。

(え?)

 どう言うことだ? そう思った瞬間、頭に激痛が走り、しゃがみこんでしまう。

「だ、大丈夫ですか?」
「はい......」

 そこから数分経って、やっと激痛が無くなった。

(それにしてもあれは何だったんだ?)

 あんな光景、今まで見たことなかった。俺は、先程見た景色を説明した。

「やっぱり魔眼ってことですよね?」
「ま、魔眼?」

(なんだそれは?)

「はい、人族にはあまり知られていませんが、ごく一部の人は、眼にある一定の力を持っていることです」
「......」

 それを聞いて俺は驚いた。そして、驚いたのと同時に悔やんだ。もっと早く気づいていれば、実家を追放されなくて済んだと思ったから。

「じゃあその光景のところを探しましょうか」
「はい」

 俺の記憶をたどりながら二人で、ダンジョン内にある壁を探索し始めた。どれぐらいの時間がたっただろうか。そう思うほど夢中になりながら壁と睨めっこをしていた。そしてやっとあの景色の壁を発見した。

 一見、普通の壁だけど、床の模様があたり一面と少しばかし変わっていたのが見て分かった。

「ここですね」

 俺が女性に言うと、先程までの絶望した雰囲気から一変、ワクワクしているような雰囲気に変わったことが分かった。

 そして、俺とエルフの女性で壁一面を触り始めると、一カ所だけ、空洞になっている場所を見つけた。

(幻影魔法か?)

 触って見なくちゃ分からない程、正確な魔法であった。空洞に手を突っ込むと、小さなボタンがあり、それを押す。すると、床が変形して行って、階段が出来上がった。

「「!!」」

 お互い目を見開きながら驚いた。階段を下りてみるとよくわからない文字が書かれていた。その時、この女性が言った。

「やっと見つけた!」
「え?」
「そうね。あなたには説明するわ。目の前にあるのは、古代文字なの。だけど、私には解読できないわ。でもやっと、やっと前に進めるようになったわ」

(古代文字!?)

 そんなのが存在するなんて......。驚きを隠せなかった。最後の言葉が引っ掛かり、ふと質問してしまう。

「なんで探しているの?」
「それは、言えないわ。あなたが私に力を貸してくれるなら話は変わるけど。でもありがとう」
「あ、うん」

 先ほどは右目で予知ができた。だったら左眼なら違うことが起きるかもと思い、もう一度、眼に魔力を込めた。すると、古代文字の内容が頭の中に入ってきた。

【風の精霊、シルフの住処】

(え?)

 シルフの住処? そう思った瞬間、あたり一面に風が吹き始め、目の前に片腕サイズの小さな精霊が現れた。驚きながらも目の前にいる精霊を見つめると、話しかけられた。

{君が僕を呼んだの?}
「え?」
{だから君が僕を呼んだの?}

 俺が目の前にいる精霊を呼んだ? いや、そんなことあり得ない。だって、魔眼を使ってみただけなんだから。それに呼ぶってあれだろ? 召喚魔法とかだろ? 俺、召喚魔法を使うことができないし......。

「いや、呼んでいないと思いますよ」
{この文字読める?}

 そう言われて、先程見ていなかった文字を見る。

【文字を解読したら精霊が現れる】

(え?)

 すると、首を傾げながら尋ねてきた。

{読めた?}
「あ、はい」
{だったら君が呼んだってことだね}
「......」

(精霊に言われて、最悪な事態が頭によぎった)

 もし、解読してはいけない精霊であったら? もし、俺に害がある精霊だったら? 
そうだった場合、俺やここにいるエルフらしき女性は......。

{それにしても人間がこの文字を読めるなんて珍しいね}
「......」

 先ほどからほんわかとした雰囲気でしゃべってくれてはいる。だけど、先程頭によぎったを考えてしまい、少し恐怖すら感じていた。

 その時、エルフらしき女性が話しかけてきた。

「ねぇ、さっきから誰と話しているの?」
「え? 見えないの?」

 すると首を傾げながら尋ねてくる。

「何か?」
「......」

 それを聞いて俺は、シルフの方を向く。

{文字を解読した人にしか僕は見えないよ。まあ他の方法で見ることはできるけどね}
「......」

 するとなぜか頷きながら言った。

{......。そう言うことね。隣にいるエルフ。この子がいるってことは君も......。ねぇ、僕と契約しない?}
「え? 契約?」
{うん! 僕と契約しようよ}
{契約してお互いなんのメリットがあるの?}

 契約と聞いてすぐさまそう思った。契約して、俺に害が及ぶなら契約なんてしなくていい。でも、もし......。

{そりゃあ僕の力を君が使えるようになるんだよ!}
「じゃあシフルは?」
{僕は、まあ暇つぶしかな}

(暇つぶしね......)

「へ~。俺に害とか無いの?」
{無いよ。それに君は僕たちと契約する運命だと思うけどな}

 僕たちと? シルフ以外にも居るのか? ふとそう思ったが、今そんなことを考えている余裕はなかった。

「そう......。じゃあお願いしようかな」

 シルフの力が使えるようになって、尚且つ俺に害が無いなら契約したほうがいいよな。

{よかった! じゃあ始めるよ!}
 
 シルフがそう言うと、あたり一面に大きな風が起こった。

「え、え? 何が起きているの?」

 エルフの女性がそう言うが、俺もわからず返答ができなかった。そして風が収まると、手の甲に魔方陣ができていた。すると耳元に囁かれる。

{これで契約完了だよ! 今日から宜しくねリアム}
{え? 俺の名前教えたっけ?}
{契約したら契約者の情報が分かるからね。まあ僕の過去はまだ見れないと思うけど}

 それって、俺にとってデメリットじゃないか! 実家を追放されたことなんか、一番知られたくないのに!

{シフル、俺の過去は誰にも言わないでくれ}
{うん。わかってるよ。それよりも、この子にも僕の姿を見せてあげる?}

 シルフに言われて、俺が隣を見ると、何が起きているかわかっていない様子であったので、頷いた。

(それに、ここにこれたのはこの人のおかげでもあるからな)

 すると、シルフが先程の大きさで目の前に現れた。シルフを見たエルフの女性は驚きながら言った。

「え?」
「初めまして! リアムと契約したシルフだよ。よろしくね!」
「シ、シルフ!?」

 そう言った途端、驚きながら後ずさっていった。

「うん! 信じられない?」
「いえ、それよりも私も自己紹介していませんでしたね。お初にお目にかかります。エルフ第三王女、ミシェル・スチュアートです。よろしくお願いいたします」
「よろしくね」

(え? 第三王女!?)

 名前聞いていなかったことより、王族だってことに驚く。なんで王族がこんな場所に居るんだよ! 俺が驚きながらミシェルを見ていると、視線に気づいたのか、こちらを見てきながら言ってきた。

「ま、まさかあなたが......」
「??」

 何を言っているんだ? その時、シルフがこの場から消えた。

(薄情者!)

「宜しくね。リアム」
「え、あ、うん。それよりも自己紹介しましたか?」
「シルフ様がさっき言ってたよ?」
「あ!」

 そう言えば、ミシェル様が言う通りさっき言っていたな。

「後、さっきみたいに敬語じゃなくていいよ」
「で、でも......」

 流石にそう言われても、「はい、分かりました」なんて言えないよ。

「じゃあ命令! 敬語禁止ね!」
「あ、うん」
「リアムは冒険者としてここに来たんだよね?」
「うん。ミシェルは違うの?」

 こんな場所、冒険者以外に来る人なんていないと思うんだけどな。

「私は違うよ。それは後で話すね。まずは、リアムが受けた冒険者ギルドに向かおっか!」
「うん」

 その後、軽くミシェルと雑談をした後、二人で街へ戻っていった。

 ミシェルとギルドに入った途端、冒険者たちが俺たちのことを異様な目で見てきているのが分かった。

(??)

 今まで、俺の眼を見て不気味がる雰囲気を出す人たちはいたが、ここまで大勢の人たちが一斉にそんな目で見てくることは無かった。

 横を向いてミシェル方を見ると、なぜかミシェルは平常心を保っていた。そしてボソッと言った。

「はぁ~。またか......」
「え?」

 ミシェルが言った言葉に、尋ねられずにはいられなかった。またかって、ミシェルは何か原因でも知っているのか? するとミシェルは耳元で言ってくる。

「私ってエルフじゃない? 大抵の人族は、私達みたいな人以外の種族を見たらいい雰囲気を出さないのよ」
「......」
「逆にリアムは異常なのよ。私を見ても驚かなかったじゃない!」
「あ~」

 ミシェルに言われるまで俺たち人族が差別的思考を持っているなんて知らなかった。

「後は、まあリアムもそう言う目で見られているんだと思うけどね」
「......。まあそうだね」

 そこで父さんに言われた言葉{「奇妙な目で見ていなかったか?」}が頭によぎった。

「まあ、慣れたから良いけどさ。それよりも早く報告しましょ」
「あぁ」

 受付嬢のところに行き、ダンジョン探索のことを報告する。すると、驚いた顔でこちらを見てきた。

「え!? あのダンジョンにそんなことが......」
「はい。後で見てもらえるとわかると思います」
「あ、ありがとうございます! ギルドマスターにも報告しておきますね」

 報告が終わり、報酬ももらったのでギルドを出ようとしたところでミシェルが裾を掴んできた。

(え?)

 俺は、ミシェルの方を向くと、上目遣いでこちらを見てきながら言った。

「私と一緒にパーティを組みましょ」
「......」

 ミシェルが言った言葉が衝撃的過ぎて呆然としてしまった。なんせ、まだ会ったばかりであるのに仲間になろうなんて言われると思いもしなかった。すると、不安そうな顔でこちらを見てきながら言われた。

「嫌?」
「い、嫌じゃないよ。こちらこそ一緒に組も!」
「うん!」

 受付嬢にパーティ申請をしようとした時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「よぉ、リアム」
「ザイト兄さん......」
「お前みたいなやつと一緒にパーティを組みたいという奴がいると思えば、人外かよ!」

 ザイト兄さんはそう言いながら大声で笑った。それに対して、俺は無性に苛立ちを感じた。

「別に誰だっていいじゃないか!」
「は! まあいいけどよ。後、もうお前の兄じゃないんだからザイト様って呼べよ」
「......」
「返事もできないのかよ! 流石は忌み子だな! 早く死ねよ」

 すると隣にいるミシェルが机と叩きながら怒鳴った。

「兄であるあなたがそんなこと言っていいの!」
「は? 言いに決まってるだろ! もうこいつの兄じゃないんだからよ。それに人外は黙ってろよ」
「種族関係ないじゃない!」
「あるに決まっているだろ! まあリアムに関しては、本当に人間なのかすらわからないけどな!」

(......)
 
 ザイト兄さんは俺の事を人間とも思ってくれていないのか。そう思った瞬間、無性に悲しくなった。

 そして、ザイト兄さんが一組のパーティに話しかけた後、ギルドから出て行った。その後は、先程とは違う異様な空気がまとっていた。

(俺って本当に嫌われていたんだな......)

 ミシェルとのパーティ申請をした後、ゴブリン退治を依頼してギルドを後にした。

 その夜、宿屋でミシェルがベットを叩きながら言った。

「リアムのお兄さんなんなの!」
「えっと。ごめんね」
「リアムが謝ることないじゃない! それにしても本当にムカつく!」
「まあ、そうだね......」

 ミシェルが言う通り、流石にザイト兄さんに苛立ちを覚えた。

(でもなんでだろう?)

 今までは、悲しいとしか感じなかったのに今日に限っては、ザイト兄さん似たシチエ怒りすら感じた。



 翌日、昨日受けたクエストを受けに近隣の森林へ向かった。あたり一面を歩いていると、ちらほらとモンスターを発見した。そして、ゴブリンを発見したところで、ミシェルが話しかけてきた。

「どうする?」
「ミシェルは前衛と後衛、どっちが得意?」
「えっと、後衛かな?」

 後衛ってことは、魔法を使うことが得意ってことだよね。まあ俺は、魔法が得意ってよりかは、前衛で戦う方が得意だからよかった。

(それにまだ、シルフの力も使ったことがなかったしね)

「じゃあ、俺が戦闘を仕掛けるよ」
「わ、分かったわ」

 手の甲に魔力を注ぐと、シルフが出てきてくれた。

{力、貸す?}
{お願い}
{わかった!}

 ミシェルとアイコンタクトをして、お互い仕掛けられる体勢を確認して、俺がゴブリンに攻撃を仕掛けた。

(あれ?)

 いつもより、体が軽い......。そして一体目のゴブリンに斬りかかる。すると一瞬にして真っ二つにすることができた。

 それを見た近くに居たゴブリンが、俺に攻撃を仕掛けようとした時、瞬時に九十度回転することができて、そのゴブリンも倒す。

(これがシルフの力?)

 戦う前から体が軽かったし、剣もスムーズに振り下ろす事ができた。そして一番驚いたことは、二体目ゴブリンを倒すとき、スムーズに九十度回転することができた。

 普通なら、一体倒したら、最初より体が重くなってあんなスムーズに動くことなん手出来ない。俺が驚いているところで、ミシェルがこちらに寄ってきた。

「リアムすごいじゃない!」
「あはは......」

 すると、シルフが笑顔で話しかけてきた。

{どうだった?}
{すごかったよ}
{よかった、よかった!!}

 その後もゴブリンを倒して行ったところで、男性三人組のパーティと出くわした。

「やっと見つけたよ」
「え?」

 俺が驚きながらそのパーティを見ていると、パーティの一人が火玉(ファイアーボール)を放ってきた。

呆然としているところで、ミシェルが風切(エア・カッター)を使って火玉(ファイアーボール)を無効化してくれた。

「リアム! きちんとして」
「え? あ、うん」

 そこでやっと今置かれている状況を理解した。

(それにしてもなんで......)

 冒険者同士で戦うのは、ご法度のはずなのに攻撃を仕掛けてくるなんてどう言うことだよ! すると一人の男性が話しかけてきた。

「へ~。今のを避けるってことは最低限実力はあるってことだよな」
「......。なんで攻撃を仕掛けて来たんだよ!」
「まあ、ある人からの頼みってやつだな。お前らみたいなやつらは、いてはいけない存在ってことだよ」

(俺たちが居てはいけない存在だって?)

「お前は殺すとして、そこの女は俺たちが楽しんだ後、殺すとするか」

 そう言うと、ミシェルのことをいやらしい目で見ていた。

(ゲスが)

 俺は、ミシェルの耳元で言う。

「ゴブリンと戦ったとき同様、俺が前衛で戦うからミシェルはカバーを頼む」
「わ、分かったわ」

 話が終わって、戦闘態勢に入ったところで、男性二人が左右に分かれて攻撃を仕掛けて来た。

{シルフ、頼む}
{うん!}

 すると、先程同様に体が軽くなった。まず左から斬りかかってくる奴の攻撃をかわし、足を引っかけて転ばす。

 その時、右から来る奴が斬りかかってきた。それは、剣で受けてつば迫り合いになる。だが、剣が軽くなったため、剣をうまく受け流して相手の剣が土についた。その瞬間を見逃さず、両足に剣を突き刺した。

「あ、あぁぁぁぁ!」

 その叫び声と同時に、後ろにいる奴が火玉(ファイアーボール)を放ってきたが、それをミシェルがレジストした。

 そして、もう一人が立ち上がって攻撃を仕掛けてこようとした時、シルフが言った。

{もうちょっと力貸す?}
{頼む}
{わかった!}

 すると、剣の周りに風が起き始めた。そして攻撃を仕掛けて来た剣とぶつかった瞬間、剣が斬り落とされた。

(え? どう言うこと!?)

 それを見た男性は、座り込んでしまった。

「わ、悪かった。だから助けてくれ」
「......」

 そこで一瞬迷ってしまった。その瞬間、男性が殴りかかろうとしてきた。それをミシェルの魔法、風竜(ハリケーン)で飛ばした。

「リアム! あなた、この状況で何しているの!」
「あ......」

 ミシェルが言う通りだ。俺は何をしていたんだ。向こうは命を狙ってきていたのに俺は、俺は......。

 その時、魔法を使ってきていた男性が逃亡しようとしていた。

(もう迷わない)

 その男性の方に走り始めた。

(え?)

 どうなっているんだ? 早い。あっという間に男性の背後まで取ることができたので、両手両足を刺して、動けないようにした。男性を担いで、ミシェルと合流する。

「さっきはありがとう」
「うん。でもきちんとしてよね」
「あぁ」

 その後、三人を縄で縛って尋問をする。

「誰に雇われた?」
「わ、わからないんだ」
「は?」

 わからないなんて無いだろ! 依頼されたんだから依頼主ぐらいわかるはずだろ!

「前払いで報酬が払われて、顔写真とかが入っていたんだ。信じてくれ!」
「前払いなら受けなくてもよかっただろ」
「脅されて......」

 その後、黙々と状況を説明し始めた。家族の情報、そして何時何分にどの行動をしていたかなどの書類も入っていたこと。

「......。でもギルドには報告させてもらうぞ」

 俺がそう言うと、ミシェルは驚きながら言った。

「いいの!? こいつらは私たちの命を狙ったのよ?」
「だからって俺たちが殺す意味はないじゃないか! 殺してしまったら俺たちもこの人たちと一緒の土俵に立ってしまう」
「......。そうね。ごめんなさい。頭に血が上っていたわ」
「うん。わかっているよ」

 ミシェルが言っていることもわかる。命を狙ってきたってことは、殺されても文句は言えない。戦っていて、殺意は感じたし、俺たちだって少しはもっただろう。そんな状況で、冷静な判断をするのは非常に難しいと思う。

「じゃあ行こうか」

 三人を連れて、街へ戻り、
 ギルドに入ると、冒険者たちが驚いた表情でこちらを見てきた。それに乗じるように受付嬢がこちらに駆け寄ってきた。

「リアムさんにミシェルさん、どうなされました!?」
「この三人が俺たちの命を狙ってきました」

 すると、一瞬にして先程までの騒ぎが無くなり、ギルドに居る全員が驚いた表情をしていた。

「奥にある来賓室まで来ていただくことは可能でしょうか?」
「はい」

 俺たちは受付嬢の指示に従い、来賓室の中に入った。中で十分程度待ったところで、ギルドマスターが来賓室に入ってきて、早々に言われる。

「今回は、誠に申し訳ない」
「はい」
「それでだが、今回の一件は、俺たち冒険者ギルドに任せてくれないか?」
「わかりました」

 元々、俺たちが手に負える内容ではなかったので、ギルドに任せる予定ではあったから、ギルドマスターがこう言ってくれて助かった。

 すると、先程とは雰囲気が変わり、優しい感じになりながらギルドマスターが言った。

「別件だが、この前のダンジョン探索は、これから全ギルドが総出で調べるつもりだ。今回は本当に助かった」
「いえいえ」
「それで、古代文字が書かれている場所を見つけてくれたお礼として、冒険者ランクをEランクからCランクまで引き上げるのと、報奨金を渡すことになった」
「え? いいのですか!」

 まず、冒険者ランクが上がるには、それなりのクエストをこなさなくてはいけない。だけど、俺たちがこなしたのはダンジョン探索とゴブリン退治のみ。ミシェルに関してはゴブリン退治のみだ。

 それなのにランクを二つも上げてくれるなんて思ってもいなかった。そして、報酬の件もだ。きちんと報酬の依頼料はもらっているのだから、もらえるとは思ってもいなかった。

「あぁ。本当ならDランクのはずだったんだが、今回の一件もあるし、二人はCランクまで上げることにした。お前たちが倒したのはCランクパーティだしな」
「あ、ありがとうございます!」

 それにしても、あいつらCランクパーティだったんだ。そこまで強いと感じなかったけど......。

 ふとミシェルの方を向くと、俺と同様驚いていたが、それよりも嬉しそうな雰囲気を出していた。そして目が合うと、お互いが笑い出した。

「じゃあ、今後とも頼む」
「「はい!!」」

 俺たちは、ギルドを後にして宿屋に戻ろうとした時、ザイト兄さんと出会ってしまった。

(......)

 すると、なぜか驚いた表情をしながらこちらを見た後、俺たちに話しかけずにこの場を去って行った。

(??)

 いつもなら、何かしら話しかけてくるはずなのにどうしたんだろう?

 そう思いながらも、宿屋に戻った。夕食を済ませて、ミシェルと雑談しているところで、ミシェルが一つ疑問そうに尋ねてきた。

「結局誰が依頼主だったんだろうね?」
「あぁ。本当にわかんないな。でもあいつらは捕まったし今後は無いと信じたい」
「そうね」

 そう。今回の一件で、こういうことが減ってくれればいいけどな。すると、ミシェルが真剣そうな雰囲気を出して言ってくる。

「ねぇ、リアム」
「ん?」
「私と一緒にエルフの国に来てくれない?」
「え?」

(エルフの国に行く?)

 率直になんで? と思ってしまった。なんせエルフの国に行くメリットが分からない。まだ、ミシェルとパーティを組んだばかりである以上、エルフの国に行って俺を紹介する意味も無いと思う。

(ミシェルが王族だからかな?)

 でも貴族と王族では考え方はまるっきし違うから、何らかの理由があるのかもしれないと思った。

「あのね。私にはやらなければいけないことがあるの」
「......。それに俺は関係している?」
「うん。だから来てほしい。この場で説明するより、実際に来てもらった方が分かってもらえると思うから」
「わかった」

 なぜか、すんなりと了承することができた。それほどに、俺はミシェルのことを信用しているのかもしれない。なんせ今まで、すんなりと答えることなんてできなかったのだから。

「よかった」
「だけど、それって早くいかなくちゃいけないこと? できたらもう少しここで実績を積んでから言った方がいいかなって思うんだけど」

 そう、現状の俺たちが言ったところで何かできるとは限らない。もし道中で強敵と出くわしたらどうなる? シルフと契約したとは言え、まだ使いこなせているわけではない。だったら、経験を積んでから言った方が得策だと思った。

「できればすぐがいいかな」
「そっか......。じゃあ一ヶ月後とかはどう? まだ俺たちの連携とかもわからない以上、道中で戦闘が起きて対処できない可能性もあるしさ」
「そ、そうだよね」
「じゃあ、一ヶ月後ってことで」

 そう言って、就寝した。



 数日が経った日、ギルドから一通の手紙が送られて来た。

【犯行に及んだ三人は一ヶ月の謹慎処分とする】

(は? どう言うことだよ!)

 あまりにも刑が優しすぎる内容の文章であった。


 ミシェルがこちらに来て、先程ギルドから送られて来た文面を見せると、怒りを顕わにしていた。

「なんなの!? この軽い刑!」
「あぁ。どうなっているんだ?」

 そう、普通は人を殺そうとしたレベルなら最低ギルドから追放、最悪国につかまるくらいであるはずなのに、一ヶ月の謹慎処分って......。

「ギルドに言いに行こ!」
「そうだな」

 流石に、今回の件に関しては、許容できる範疇を超えていた。

 二人でギルド内に入り、ミシェルが低い声で受付嬢に言う。

「ギルドマスターを呼んでください」
「あ、はい。では来賓室でお待ちください」

 そう言われて、俺たちは来賓室の中に入ってギルドマスターを待った。そこから数分経ってギルドマスターが来賓室に入ってきて言われる。

「今回の件、本当に済まない」

 するとミシェルは机を叩きながら言った。

「済まないってレベルの話じゃないでしょ!」
「あぁ。本当にそうだ。言い訳になってしまうが、上の方針で何もできなかった」
「は?」

 上の方針ってなんだよ! 

「今回の一件、俺ではなく、決めたのはロードリック家だ」
「え......」

 その言葉を聞いて、驚きを隠せなかった。

(なんで俺の実家が口を挟んでくるんだ......)

 そこでふとわかってしまった。俺とミルシェを狙ってきたわけではなく、俺個人を狙ってきたこと。そして、ザイト兄さんがなぜあの時、俺たちを見ても話しかけてこなかったかが。

(クソ! 結局俺がじゃまってことかよ)

「リアムの素性も俺たちギルドはわかっている。だからこそ言わせてもらう。この街から出て行った方がいいと思う」
「......」

 ギルドマスターが言う通りだ。この街に居たら今後も刺客は送られてくるに決まっている。今回みたいに運よく返り討ちに出来たところで、結局は今回みたいに軽い刑で終わらせられるに決まっている。

 その後、ミシェルと一緒に来賓室を出て宿屋に戻った。

(もう何も考えられない)

 実家を追放されたのは、百歩譲ってわかる。俺が忌み子であるから。だけど、実の子を殺しにかかるなんて思いもしなかった。

 そしてもう一つ、頭によぎる。

(今後ミシェルと一緒に居ていいのか)

 このままミシェルといたら、今回みたいに俺だけでなく、ミシェルにだって危険な状況が陥る可能性がある。だったら、一緒に居ない方がいいのかもしれない。

「なぁ、ミシェル。一つ相談なんだけどさ」
「なに? パーティ解散なんて冗談はダメだよ?」
「え?」

 俺の思考を考えていたかのような回答が来て、驚いてしまう。

「こう考えているんでしょ? 私も危険な目に合うかもしれないと」
「......」
「なんでわかるのって顔してるね。私がリアムの立場だったらそう考えるから」
「でも!」

 ミシェルは王族であり、命を狙われてはいけない存在。ミシェルが死んだらエルフの国はどうなるのか想像がついてしまう。

「でもじゃない! それに、私にはリアムが必要なの!」
「必要って......。命が狙われるほどか?」
「うん。今更だから言うけど、私は古代文字解読をしなければいけないの」
「なんで? それが命を懸けてまでやること?」

 そう、古代文字解読なんて命をはたいてまでやる必要があるのか? ましてや王族だ。そんな人が命を軽く考えるほどなのかと思った。

「今回リアムが解いた古代文字にはシルフ様が居たじゃない。そして、古代文字の中には、私たちの先祖、ティターニア様もいるの」
「え?」

 流石に驚いた。古代文字の中に妖精の女王がいるって......。シルフは精霊だけど、妖精がいるなんて聞いたことが無い。まあ、古代文字を解読して精霊が出てくる事態つい最近まで知らなかったんだけどね。

「誰にも言わないでほしんだけど、私達の先祖は、魔族に封印されてしまったの。その封印が古代文字であって、私が解読しなければいけないこと」
「......。そっか」

 それを聞いて少し納得してしまった。普通のエルフなら、解読なんてしなくてもいいかもしれない。だけどミシェルは王族であって、今後の秩序も考えなければならない。だからこそ解読して、ティターニアを開放しなければいけないってことか。

「だからパーティの解散なんて絶対に認めない!」
「そ、そうだな」
「それで、今の話を聞いてリアムは私に力を貸してくれる?」
「あぁ。ここまで聞いたんだ。力は貸すよ。解読できる確証はないけどね」

 そう、今回運よく解読できただけかもしれない。だけど、ここまで重要な情報を教えてくれたんだ。なら助けたいと思うのは当然じゃないか。

(それに、俺を少しは信用してくれているってことだもんな)

「なら、明日にでもエルフの国に行きましょ」
「そうだな。ここにいても危険であることは変わらないしな」
「うん! 改めて、今日から宜しくね! リアム」
「あぁ、よろしくなミシェル!」

 そして翌日、俺たちはエルフの国に向かい始めた。