「ご縁、か」
 思い出し笑いをする俺に、タクシーの運転手は不思議そうな顔をして質問したげな様子だったが、口から出てきた言葉は別のものだった。
「着きましたよ、お客さん」
「ありがとう」
「奥さまによろしく」
 いたずらっぽく笑う運転手に料金を払って、タクシーを降りる。走り去る車を少し見送ってから俺は歩き出す。
 車のラジオの曲はとっくに違うものに変わっていたけれど、俺の頭の中には相変わらず、懐かしい『サマーアップル サイダーガール』が流れていた。
 後から思えば、レトロなサイダーの瓶をぶら下げて可愛くないことをはっきりきっぱり言う輝子こそ、炭酸はじける『サイダーガール』だったな、と。
 俺は思いついて、自宅のマンションを通り過ぎ、近くの深夜営業のスーパーに足を向ける。確かあの店には売っていたはずだ。
 甘いものは得意じゃないけど、アップルパイとサイダーを買って帰ろう。今度は半分じゃなくて二人分。
『スーパーのアップルパイなんて邪道よ』とまた可愛くないことをうちのサイダーガールは言うだろうけど。