* * *
「もしかして」
しばらくの沈黙の後、シランがつぶやいた。
「ちょっと聞きたいんだけど……転生の前、あのクソ女神なにか言ってなかった?」
女神にクソを付けるなんて、とは思うけどしかたない。オレたちはずさんな転生のせいで苦労を強いられている。
「何かって?」
「なんでウチらをこの世界に送ったか」
――実はね、いつもならこのまま天国か地獄へ送る手続きに入るんだけど、あいにくどちらも今、定員オーバー気味でさぁ……
「言ってた……」
オレはあの真っ白い何もない空間で起きたことを思い返した。
「定員オーバーだって! 確か……そうだ、何か理由があって、死後の世界が定員オーバーだって」
「思い出した!! 私も聞いた。どこかの世界で最終戦争があったって言ってた!」
「そこそこ! もしかしたらウチらは臨時のヘルプでさ、本当はちゃんとした人が呼び出されるんじゃない? 死後の世界からさ」
確かにそう考えるとスジが通る。死後の世界からの呼び出しなら、戦国時代だろうが魏志倭人伝だろうが、どの時代の人間でも呼び出し放題。けど今は転生システムは臨時のものだから、別の世界で死んだ人間をそのまま連れてきている。
「それなら僕たちみたいな無名の人間ばかり送られてるのも納得できます」
「いやダメだ」
マコトが首を振る。
「それだけなら逆に、俺たちしか来てないのがおかしいだろ。1日に死ぬ人間なんて何千人も……いや、地球全体で見たら何万人もいるじゃないか? それが全員、こっちの世界に来てるとは思えねえ」
「それについては思い当たることがあるぞ」
今度はアキラ兄さんが口を開く。
「俺は足場職人だったんだけどよ。あの日、後輩が足を滑らせたのを助けて、自分がバランス崩して落下しちまったんだ。お前らも似たようなことやってないか?」
やってる。俺は横断歩道で男の子をかばってクルマに……。
「子猫が木から下りれなくなってて、それを助けようと木に登ったら頭から落ちちゃって……」
「俺は爺さんだ。台風が来ててさ……腰が悪いのに田んぼ見に行くって聞かねえから代わりに行って……」
「アタシ、チカン捕まえたんだよね。クラスのツレが困ってたから。駅で逆ギレされて突き飛ばされちゃったけど」
皆、何かしら立派な行いをしていた。それが英雄の資質ありとみなされて、この世界に派遣される理由となったのか。もしそういう事をしていなかったら、ひょっとしたら全然違う世界に送られたのかもしれない。
「え、ちょっと待って? え? ええ!?」
シランが腕組みをしながら、何やら考え始める。
「みんなリスペクトに値すんのは分かったけどさ。てことはウチら追放したり、聖石サギったりして連中もそんな感じだったったワケ??」
「う……」
オクトたちの顔が脳裏に浮かび上がる。あの卑劣漢たちが? 馬鹿な。
「いや、そういうもんだよ人間なんて」
皆がざわつく中、アキラ兄さんが言った。
「よく、根がいい人、根が悪い人なんて言うけどさ。そんなもの無いって。いい事しようが悪い事しようが、どちらも人の本性だ。そのときそのときでブレるのが人間」
兄さんの口調は落ち着き払っていた。
「兄さん……」
「なんか、人生の達人ぽい」
「さすがオレたちの最長老」
「よせやい、俺だって一応まだ30代だかんな!?」
最年長の転生者は苦笑する。
「ま、俺たちだって、たまたま苦労したからこの図書館にいるんだ。言葉に不自由せず、魔王討伐の期待をかけられていたら、聖石強盗に走っていた可能性だってある」
ゴクリと生唾を飲み込んだ。そんなはずないと反論したかったけど、言い切れる自信はなかった。
オレはなまじ強力なSSRスキルを持っている。もしあのとき普通に言葉が通じて、『1頭』と『頭1つ』の違いに疑問を抱かなかったら……。オレもオクトについていったかもしれない。「やむを得ない犠牲」と割り切ってしまったかもしれない。
オレは背筋が寒くなるのを感じた。
「もしかして」
しばらくの沈黙の後、シランがつぶやいた。
「ちょっと聞きたいんだけど……転生の前、あのクソ女神なにか言ってなかった?」
女神にクソを付けるなんて、とは思うけどしかたない。オレたちはずさんな転生のせいで苦労を強いられている。
「何かって?」
「なんでウチらをこの世界に送ったか」
――実はね、いつもならこのまま天国か地獄へ送る手続きに入るんだけど、あいにくどちらも今、定員オーバー気味でさぁ……
「言ってた……」
オレはあの真っ白い何もない空間で起きたことを思い返した。
「定員オーバーだって! 確か……そうだ、何か理由があって、死後の世界が定員オーバーだって」
「思い出した!! 私も聞いた。どこかの世界で最終戦争があったって言ってた!」
「そこそこ! もしかしたらウチらは臨時のヘルプでさ、本当はちゃんとした人が呼び出されるんじゃない? 死後の世界からさ」
確かにそう考えるとスジが通る。死後の世界からの呼び出しなら、戦国時代だろうが魏志倭人伝だろうが、どの時代の人間でも呼び出し放題。けど今は転生システムは臨時のものだから、別の世界で死んだ人間をそのまま連れてきている。
「それなら僕たちみたいな無名の人間ばかり送られてるのも納得できます」
「いやダメだ」
マコトが首を振る。
「それだけなら逆に、俺たちしか来てないのがおかしいだろ。1日に死ぬ人間なんて何千人も……いや、地球全体で見たら何万人もいるじゃないか? それが全員、こっちの世界に来てるとは思えねえ」
「それについては思い当たることがあるぞ」
今度はアキラ兄さんが口を開く。
「俺は足場職人だったんだけどよ。あの日、後輩が足を滑らせたのを助けて、自分がバランス崩して落下しちまったんだ。お前らも似たようなことやってないか?」
やってる。俺は横断歩道で男の子をかばってクルマに……。
「子猫が木から下りれなくなってて、それを助けようと木に登ったら頭から落ちちゃって……」
「俺は爺さんだ。台風が来ててさ……腰が悪いのに田んぼ見に行くって聞かねえから代わりに行って……」
「アタシ、チカン捕まえたんだよね。クラスのツレが困ってたから。駅で逆ギレされて突き飛ばされちゃったけど」
皆、何かしら立派な行いをしていた。それが英雄の資質ありとみなされて、この世界に派遣される理由となったのか。もしそういう事をしていなかったら、ひょっとしたら全然違う世界に送られたのかもしれない。
「え、ちょっと待って? え? ええ!?」
シランが腕組みをしながら、何やら考え始める。
「みんなリスペクトに値すんのは分かったけどさ。てことはウチら追放したり、聖石サギったりして連中もそんな感じだったったワケ??」
「う……」
オクトたちの顔が脳裏に浮かび上がる。あの卑劣漢たちが? 馬鹿な。
「いや、そういうもんだよ人間なんて」
皆がざわつく中、アキラ兄さんが言った。
「よく、根がいい人、根が悪い人なんて言うけどさ。そんなもの無いって。いい事しようが悪い事しようが、どちらも人の本性だ。そのときそのときでブレるのが人間」
兄さんの口調は落ち着き払っていた。
「兄さん……」
「なんか、人生の達人ぽい」
「さすがオレたちの最長老」
「よせやい、俺だって一応まだ30代だかんな!?」
最年長の転生者は苦笑する。
「ま、俺たちだって、たまたま苦労したからこの図書館にいるんだ。言葉に不自由せず、魔王討伐の期待をかけられていたら、聖石強盗に走っていた可能性だってある」
ゴクリと生唾を飲み込んだ。そんなはずないと反論したかったけど、言い切れる自信はなかった。
オレはなまじ強力なSSRスキルを持っている。もしあのとき普通に言葉が通じて、『1頭』と『頭1つ』の違いに疑問を抱かなかったら……。オレもオクトについていったかもしれない。「やむを得ない犠牲」と割り切ってしまったかもしれない。
オレは背筋が寒くなるのを感じた。