*  *  *

「フンガー! フンガー!!」
「ギャハハハハ!」

 オレが奇声を発しながら右手を何度も振り下ろすようなジェスチャーをすると、子供達が笑う。やるときは出来るだけオーバーアクションで、表情筋もフル活用して顔芸をするとなお良い。

「ゲン なに それ!?」
「だから オレが それを きいてるんだ」
「アハハハハ!!」

 村の子供達はゲラゲラ笑っている。生前にオレがテレビを見ながら馬鹿笑いしていた芸人の一発ギャグ。ノリはアレに近い。両手を軽く握り、それを真横にスライドさせて「棒」のジェスチャーをする。さらにそれを掴んで衝くような仕草。そして再度「フンガーフンガー」と腕を振り下ろす。子どもたちはもう大爆笑だ。

「あ ゲン それ」

 ひとりの子が何かに気付く。

「やり つくる ひと?」
それ(タヌー)!!」

 オレは"YES"と同じ意味の異世界語を叫びながら、彼女を指差す。知りたかったのは鍛冶屋の存在だ。キンダーたち門番は槍を持っているし、村人の中にはモンスターに備えて剣を所持している人もいる。鍬などの農器具も鉄製だ。けど鍛冶屋らしき人は村にはいない。

「やり タラッシュ つくる」
「けん や くわ も?」
うん(タヌー)!」

 なるほど、"鍛冶屋"は『タラッシュ』か。オレはペンを取り出し、メモする。

「タラッシュ かー おれは サスルポ おもった」
「サスルポ? なんだ それ?」
「やまの かいぶつ ゴラブ なぐって ころす」

 なるほど、そういうモンスターが山にいるのか。『ゴラブ』は俺たちの世界でいうところの熊によく似た獣だ。それを殴り殺すヤバい奴となると気をつけないとな。これは思わぬ収穫だ。
 すでにオレたちは「やり を つくるひと は なんて いいますか?」くらいの言葉は話せるようになっている。けど、こうやってジェスチャークイズを出す方が子どもたちからは色々引き出せるのだ。

「せいせき さがすとき サスルポ きをつけろ ゲン」

 センディが言った。

「むらおさの はなし きいてたのか」
「せいせきどう しのびこんだ」

 この少年は、オレに完全になついていて、村に行くとずっとオレのあとを付いてくる。さっき聖石堂に行ったときもそんな感じだった。この子の叔父にあたるキンダーはいい顔をしていないけど、本人はお構いなしだ。

「むらの まわり きけん おおい マナの ばしょ さがす たいへん」
「わかってる けど オレ やらなきゃ いけない」
「おれも てつだう!!」
「えっ? いや いいよ やめろ」

 オレは慌てて首を振る。

「なんで? おれ ゲンより このあたりのこと くわしい おとなは はたけ ある てつだえない けど おれなら!」

 センディはすこし前のめりになりながらオレに自分を売り込んできた。

「おまえ まだ ちいさい アニーラ キンダー しんぱいする」

 特にアニーラは夫を亡くしてから、センディを溺愛している。この子を危険に晒すわけには絶対にいかない。それに……

「センディ せいせきさがし おれの しごと おれ このむらの せいせきに……」

 「責任がある」と続けたかったけど、それに相当する異世界語が出てこない。まだ知らない言葉だった。

「どうした ゲン?」
「いや とにかく せいせきは おれ さがす」

 こればかりは絶対に他人に任せるわけにいかない。リョウやアツシにも背負わせたくない。ましてや、この村の住人に……それも子供にさせてはいけないんだ。