「たくさんあるから、一杯食べてね☆」
「ああ……」
いや、たくさんってレベルじゃねーから。
サンドイッチ、ポテトサラダ、タコさんウインナー、エビフライ、ハンバーグ、フルーツの盛り合わせ。
これ、全部俺とアンナで食うの?
まあ若いから食えるけどさ。
「デザートもあるからね☆」
ニッコリと微笑むアンナさん。
訳すと「お残しは許しませんで!」だろうな。
頑張って食べ切ろう。
「いただきます」
「どうぞ☆」
俺はまずサンドイッチから手をつけた。
いくつか種類があって、卵サンド、ツナサンド、レタスサンド。
どれにするか迷っていると、アンナが弁当箱から三つとも取り出して、皿に移す。
皿を俺に渡すと、次に水筒から何かをコップに注ぐ。
「ん? 飲み物まで用意していたのか?」
「うん☆」
渡されたコップの中は冷たいアイスコーヒーだった。
「まさか俺のために?」
だってブラックだし。
「タッくん、いつもブラックコーヒーばかり飲むから☆」
正直、驚いた。
あのヤンキーがここまで俺に気を使えるなんて……。
「あ、ありがとう」
なんかこっぱずかしい気持ちで卵サンドにかぶりつく。
味は少しコショウがきいていて、マスタードの酸味が旨味を引き出している。
「うまい……」
「良かったぁ☆」
俺は卵サンドを二口で食べ終えると、残りのサンドイッチもペロッと平らげてしまう。
「アンナがこんなに料理が上手かったなんてな」
「そ、そう? サンドイッチなんて誰でも出来るよ~」
頬を赤くして、もじもじする。
「ところでアンナは食べないのか?」
コーヒーにシロップとミルクをたっぷり入れていたが、取り皿に何ものせてない。
「あ、いや別にお腹空いてないとかじゃなくて……タッくんに初めて食べてもらうから緊張しちゃって。アンナ、料理あんまり上手くないし」
いいえ、すぐにお嫁に行けるレベルです。
「俺は一般的な料理の上手い下手なんて知らない。ただ、俺から言わせてもらえれば、このサンドイッチはうまい。シンプルに上手い。俺は嘘をつけないから、正直に言うぞ。めっちゃ上手い。お店出してもいいぐらいだな」
あー、俺って『食いログ』のレビュアーになれるんじゃね?
「う、嬉しい……」
驚いたことにアンナは涙を流していた。
すかさず、ハンカチを渡す。
男の子が人前でなくもんじゃ、ありません!
「アンナ、人に料理なんて食べてもらうの初めてだから、自信なくて怖くて……」
そこまで謙虚だと嫌味に聞こえるわ。
俺なんて卵焼きしか作れないし、イン●タにでも上げたら料理下手な女性からネットリンチにあいそう。
「俺は正直な感想しか言わんぞ。こんな上手いサンドイッチ食べたの初めてだ」
また褒め殺してしまった。
涙が止まらないアンナ。
さらに泣かしてどうすんだ、俺氏。
「良かったぁ」
涙は止まらないが、口元はずっと優しく緩んでいる。
そんなに嬉しいのか。
「なあ、次はハンバーグもらっていいか?」
しれっと話題を変えて、彼女の気分を変えられるように試みる。
「あ、うん。アンナが取るから任せて☆」
俺の目論見通り、微笑みを取り戻すことに成功した。
弁当箱からハンバーグを箸で取り、取り皿にのせる。
渡されてただのハンバーグでないことに気がついた。
デミグラスソースがたっぷりかかった分厚いハンバーグ。
しかも、ハートの形。
ラブが注入されてて草。
味を確かめると、中にはコリコリした感触が……。
「ん? なんだこの固いものは?」
するとアンナが人差し指を立てて、説明する。
「ゴボウだよ☆」
「ほう」
「ゴボウを入れると風味も良くなるし、食感もいいじゃない?」
知らんがな。初めて食ったんだもの。
「それをグツグツと長時間煮込んでみました☆」
お母さんかよ!
この弁当箱、よく見たらクオリティ高すぎだろ。
徹夜して作ってんじゃねーのか?
「頭が下がるな……俺だったらそんな面倒くさい料理作らんし、作りたいとも思わん」
「アンナも一人だったらこんなに時間かかる料理作らないよ☆」
「というと?」
「だって食べてくれる人のことを思って作るから料理は楽しいんだよ……」
そう呟くと頬を赤くして下に目をやる。
あ、なるほど、俺のことを想って徹夜で料理してくれたわけね。
重い、シンプルに重いよ!
「タッくんがたくさん食べてくれる姿、見ているだけでお腹いっぱいになりそう☆」
いや、食えよ。
「アンナ、いいか。料理ってのは一人で食うより、誰かと一緒に食うほうが旨いんだぞ?」
俺がそう言うとアンナは目を丸くしていた。
「そ、そうだよね☆ アンナもミーシャちゃんと食べてるとき美味しいもん☆」
ちょっと待て、それってもう一人の人格と食べているだけであって決して二人で食べてないよね?
ぼっち飯じゃん。
「アンナもタッくんといっぱい食べちゃお☆」
そして、彼女の胃袋にエンジンがかかる。
後はためらいもなく、二人して弁当を貪るように食い尽くした。
周りで食べていた家族連れからヒソヒソ声が聞こえてきた。
主にお母さん。
「ねぇ、あの子細いのによく食べるよね」
「若いからよ、私たちの年になればメタボよ」
「ブヒー! わだぢも煮込みハンバーグ食べたいブヒー!」
なんか最後、人外のものがいたような。
ていうか、ほぼおばさんのひがみじゃん。
俺らこう見えて10代の男の子なんで。
アンナちゃんは可愛いけど、中身は女子じゃないんで。
比較しないでください。
全て平らげると、アンナは「美味しかった~」と満面の笑み。
思い出したかのようにピクニックバスケットから保冷バッグを取り出す。
そのバスケット、四次元になってません?
保冷バッグの中からは保冷剤がたくさん出てきた。
「ん? なんだそれ?」
「これはね、デザート☆」
そういえば、さっき言ってたよな。
バッグの底から出てきたのは可愛らしいクマさんがデザインされた紙箱。
よく見ると『パティスリー KOGA』のロゴが。
アンナがケーキ箱を開けると中には新鮮なイチゴがふんだんに使われたショートケーキが二個。
「ケーキを買ってきたのか?」
「え? 違うよ、アンナが作ったけど」
マジかよ!?
「でも、その箱。ミハイルん家の店のだろう?」
「だってねーちゃんのみせ……」
と言いかけたところで、アンナは顔が真っ青になる。
手で口を隠すが、時すでに遅し。
ボロが出たな。
「ねーちゃん? アンナは独り身だろ?」
設定を保つため、修正してやる。
「そ、そうだよ!」
慌てふためく。ちょっとキレ気味だし。
「ミーシャちゃんのお姉ちゃんってこと!」
「ほう」
ヤベ、ちょっとおもしろくなってきた。
「ヴィッキーちゃんの店のキッチンを借りただけなんだからね!」
なんでツンデレモード入ってんの?
自分で墓穴掘ったくせに。
「さ、さあいいから食べましょ!」
アンナはケーキを突き出す。
早くこの話題を変えたいらしい。
「ふむ、頂くとしよう」
「うん☆ アンナも☆」
フォークを渡されて、すくうようにケーキを一口食べる。
「うまい……」
これを素人のアンナ……じゃなかったミハイルが作ったというのか?
いくら姉がパティシエとはいえ、プロレベルだ。
「美味しい~☆」
頬に手をやり、悦に入るアンナ。
「なあ本当に一人で作ったのか? ヴィッキーちゃんに手伝ってもらってないか?」
俺がそう言うとアンナはむぅっと頬を膨らます。
「一人で作ったもん! アンナ、ケーキは小さい頃から作ってたもん!」
鋭い眼つきで俺を睨む。
こういう時、野郎臭いんだよな。
「疑って悪かった。いや……あまりにもレベルの高いケーキに驚いてな」
「え……」
「つまり料理に続いてプロレベルと言いたいんだよ」
「タッくん」
言葉を失うアンナ。
「もう、タッくんたら☆ アンナのこと褒めすぎ!」
と言って人の肩を全力でバシバシ叩くのやめてくれます?
あーたの力、人並みじゃないから、プロレスラー並みだから。
「ああ……」
いや、たくさんってレベルじゃねーから。
サンドイッチ、ポテトサラダ、タコさんウインナー、エビフライ、ハンバーグ、フルーツの盛り合わせ。
これ、全部俺とアンナで食うの?
まあ若いから食えるけどさ。
「デザートもあるからね☆」
ニッコリと微笑むアンナさん。
訳すと「お残しは許しませんで!」だろうな。
頑張って食べ切ろう。
「いただきます」
「どうぞ☆」
俺はまずサンドイッチから手をつけた。
いくつか種類があって、卵サンド、ツナサンド、レタスサンド。
どれにするか迷っていると、アンナが弁当箱から三つとも取り出して、皿に移す。
皿を俺に渡すと、次に水筒から何かをコップに注ぐ。
「ん? 飲み物まで用意していたのか?」
「うん☆」
渡されたコップの中は冷たいアイスコーヒーだった。
「まさか俺のために?」
だってブラックだし。
「タッくん、いつもブラックコーヒーばかり飲むから☆」
正直、驚いた。
あのヤンキーがここまで俺に気を使えるなんて……。
「あ、ありがとう」
なんかこっぱずかしい気持ちで卵サンドにかぶりつく。
味は少しコショウがきいていて、マスタードの酸味が旨味を引き出している。
「うまい……」
「良かったぁ☆」
俺は卵サンドを二口で食べ終えると、残りのサンドイッチもペロッと平らげてしまう。
「アンナがこんなに料理が上手かったなんてな」
「そ、そう? サンドイッチなんて誰でも出来るよ~」
頬を赤くして、もじもじする。
「ところでアンナは食べないのか?」
コーヒーにシロップとミルクをたっぷり入れていたが、取り皿に何ものせてない。
「あ、いや別にお腹空いてないとかじゃなくて……タッくんに初めて食べてもらうから緊張しちゃって。アンナ、料理あんまり上手くないし」
いいえ、すぐにお嫁に行けるレベルです。
「俺は一般的な料理の上手い下手なんて知らない。ただ、俺から言わせてもらえれば、このサンドイッチはうまい。シンプルに上手い。俺は嘘をつけないから、正直に言うぞ。めっちゃ上手い。お店出してもいいぐらいだな」
あー、俺って『食いログ』のレビュアーになれるんじゃね?
「う、嬉しい……」
驚いたことにアンナは涙を流していた。
すかさず、ハンカチを渡す。
男の子が人前でなくもんじゃ、ありません!
「アンナ、人に料理なんて食べてもらうの初めてだから、自信なくて怖くて……」
そこまで謙虚だと嫌味に聞こえるわ。
俺なんて卵焼きしか作れないし、イン●タにでも上げたら料理下手な女性からネットリンチにあいそう。
「俺は正直な感想しか言わんぞ。こんな上手いサンドイッチ食べたの初めてだ」
また褒め殺してしまった。
涙が止まらないアンナ。
さらに泣かしてどうすんだ、俺氏。
「良かったぁ」
涙は止まらないが、口元はずっと優しく緩んでいる。
そんなに嬉しいのか。
「なあ、次はハンバーグもらっていいか?」
しれっと話題を変えて、彼女の気分を変えられるように試みる。
「あ、うん。アンナが取るから任せて☆」
俺の目論見通り、微笑みを取り戻すことに成功した。
弁当箱からハンバーグを箸で取り、取り皿にのせる。
渡されてただのハンバーグでないことに気がついた。
デミグラスソースがたっぷりかかった分厚いハンバーグ。
しかも、ハートの形。
ラブが注入されてて草。
味を確かめると、中にはコリコリした感触が……。
「ん? なんだこの固いものは?」
するとアンナが人差し指を立てて、説明する。
「ゴボウだよ☆」
「ほう」
「ゴボウを入れると風味も良くなるし、食感もいいじゃない?」
知らんがな。初めて食ったんだもの。
「それをグツグツと長時間煮込んでみました☆」
お母さんかよ!
この弁当箱、よく見たらクオリティ高すぎだろ。
徹夜して作ってんじゃねーのか?
「頭が下がるな……俺だったらそんな面倒くさい料理作らんし、作りたいとも思わん」
「アンナも一人だったらこんなに時間かかる料理作らないよ☆」
「というと?」
「だって食べてくれる人のことを思って作るから料理は楽しいんだよ……」
そう呟くと頬を赤くして下に目をやる。
あ、なるほど、俺のことを想って徹夜で料理してくれたわけね。
重い、シンプルに重いよ!
「タッくんがたくさん食べてくれる姿、見ているだけでお腹いっぱいになりそう☆」
いや、食えよ。
「アンナ、いいか。料理ってのは一人で食うより、誰かと一緒に食うほうが旨いんだぞ?」
俺がそう言うとアンナは目を丸くしていた。
「そ、そうだよね☆ アンナもミーシャちゃんと食べてるとき美味しいもん☆」
ちょっと待て、それってもう一人の人格と食べているだけであって決して二人で食べてないよね?
ぼっち飯じゃん。
「アンナもタッくんといっぱい食べちゃお☆」
そして、彼女の胃袋にエンジンがかかる。
後はためらいもなく、二人して弁当を貪るように食い尽くした。
周りで食べていた家族連れからヒソヒソ声が聞こえてきた。
主にお母さん。
「ねぇ、あの子細いのによく食べるよね」
「若いからよ、私たちの年になればメタボよ」
「ブヒー! わだぢも煮込みハンバーグ食べたいブヒー!」
なんか最後、人外のものがいたような。
ていうか、ほぼおばさんのひがみじゃん。
俺らこう見えて10代の男の子なんで。
アンナちゃんは可愛いけど、中身は女子じゃないんで。
比較しないでください。
全て平らげると、アンナは「美味しかった~」と満面の笑み。
思い出したかのようにピクニックバスケットから保冷バッグを取り出す。
そのバスケット、四次元になってません?
保冷バッグの中からは保冷剤がたくさん出てきた。
「ん? なんだそれ?」
「これはね、デザート☆」
そういえば、さっき言ってたよな。
バッグの底から出てきたのは可愛らしいクマさんがデザインされた紙箱。
よく見ると『パティスリー KOGA』のロゴが。
アンナがケーキ箱を開けると中には新鮮なイチゴがふんだんに使われたショートケーキが二個。
「ケーキを買ってきたのか?」
「え? 違うよ、アンナが作ったけど」
マジかよ!?
「でも、その箱。ミハイルん家の店のだろう?」
「だってねーちゃんのみせ……」
と言いかけたところで、アンナは顔が真っ青になる。
手で口を隠すが、時すでに遅し。
ボロが出たな。
「ねーちゃん? アンナは独り身だろ?」
設定を保つため、修正してやる。
「そ、そうだよ!」
慌てふためく。ちょっとキレ気味だし。
「ミーシャちゃんのお姉ちゃんってこと!」
「ほう」
ヤベ、ちょっとおもしろくなってきた。
「ヴィッキーちゃんの店のキッチンを借りただけなんだからね!」
なんでツンデレモード入ってんの?
自分で墓穴掘ったくせに。
「さ、さあいいから食べましょ!」
アンナはケーキを突き出す。
早くこの話題を変えたいらしい。
「ふむ、頂くとしよう」
「うん☆ アンナも☆」
フォークを渡されて、すくうようにケーキを一口食べる。
「うまい……」
これを素人のアンナ……じゃなかったミハイルが作ったというのか?
いくら姉がパティシエとはいえ、プロレベルだ。
「美味しい~☆」
頬に手をやり、悦に入るアンナ。
「なあ本当に一人で作ったのか? ヴィッキーちゃんに手伝ってもらってないか?」
俺がそう言うとアンナはむぅっと頬を膨らます。
「一人で作ったもん! アンナ、ケーキは小さい頃から作ってたもん!」
鋭い眼つきで俺を睨む。
こういう時、野郎臭いんだよな。
「疑って悪かった。いや……あまりにもレベルの高いケーキに驚いてな」
「え……」
「つまり料理に続いてプロレベルと言いたいんだよ」
「タッくん」
言葉を失うアンナ。
「もう、タッくんたら☆ アンナのこと褒めすぎ!」
と言って人の肩を全力でバシバシ叩くのやめてくれます?
あーたの力、人並みじゃないから、プロレスラー並みだから。