第二回目のスクリーングも無事に? 終わりを迎えようとしていた。

 生徒全員の顔が明るくなる。
 理由はただ一つ。帰れるからな。
 って、それは非リア充グループやぼっち共たちの定番。

 逆にリア充のやつらは『このあとめちゃくちゃゲーセンとかで遊んだ!』とほざくのだろう。
 雑談で各々が盛り上がる。

「なあ、タクト☆ 今日はオレん家来いよ」
「は?」
 エメラルドグリーンの瞳を輝かす少年、ミハイル。
「だって『やくそく』したろ?」
「ああ、ミハイルの姉さんに挨拶する……んだったか?」
 そーいや、この前、ミハイルが家に遊びに来た時、うちのブッ飛び~な母さんが提案してきたな。

「ねーちゃんと遊ぶんじゃなくて、オレと遊ぶんだろ!」
 なーに顔を真っ赤にさせとるんじゃ、ボケ。
「まあ構わんが……」

 ピシャーン! と豪快に教室の扉が開く。

 皆が一斉に視線を向けるが、期待した人物ではなかった。

 小学生が好んで着るような、可愛らしいさくらんぼ柄のワンピース。
 ツインテールで胸はぺったんこ。
 身長は120センチほどか。

「あんのバカ……」
 俺がそう呟くと、その気持ちの悪い生き物は、教壇の前に立つと息を大きく吸った。

「センセーーー!」

 キンキン声で窓が揺れる。
 俺もミハイルも耳を塞ぐ。
 もちろん、他のみんなも同様の対応。

「やかましい!」
 思わず反応してしまった。
 無視したかったのに。

「あ♪ DO(ドゥ)センセイ! ここにいましたか」
 そう言うと、低身長のロリババアは、他の生徒など気にせず、俺の席まで足を進める。
「おい、お前。何しにきた?」
「へ? プロットの打ち合わせでしょ」
 首をかしげているので、そのままへし折ってやりたい。

「白金……わざわざ学校まで来なくていいだろ」
「ダメです! さっさとプロットぐらい書き上げないと。DOセンセイは我が博多社から追い出されますよ? 実際に編集部の会議でも『あのオワコン作家に払う経費はない』って言われているんですから」
 それ、みんなの前で言う?

「タ、タクト! 誰だよ、この子!?」
 気がつけば、拳を作るミハイルさん。
 顔がこえーよ。
「ああ、えっとだな……こいつは」

「私、博多社の白金 日葵(しろがね ひまり)と申します♪」
 頭を垂れる社会人。
 律儀に名刺も差し出している。

「え? 大人なの……この子?」
 おバカさんのミハイルでは、脳内が大パニックだ。
 受け取った名刺と、白金の顔を交互に見て、真っ青になっている。

「一体、誰なんだよ?」
 思わずログインしてしまうハゲのおっさんこと千鳥。
「あーしも気になるぅ」
 歩くパンチラこと花鶴もか。
「あ、あの、私も気になるかも」
 腐女子の北神まで。

 気がつけば、俺と白金の周辺にはギャラリーが円陣を組んでいた。

「えっへん、生徒諸君! 私は白金 日葵ちゃんですよ? 一ツ橋高校の卒業生ですから、みなさんのちょっと先輩ですね♪」
 ちょっとじゃねぇ、一回りぐらい違うだろ。

「おお~」と歓声があがる。

「それでタクオとはどんな関係なんすか? 先輩」
 よく素直に受け入れられたたな、千鳥。
 このキモいロリババアを。
「私とDOセンセイは、担当編集と作家様の関係です」
「ドゥ? それがタクオのペンネームか?」
「ノンノン、後輩くん♪ DOセンセイのフルネームは……」
 そう言いかけた瞬間、俺は白金の気持ち悪い小さな唇を塞ぐ。

「なにするんだよ、タクオ? 邪魔すんなよ」
 少し不機嫌そうな千鳥。
「あーしも続きが気になる。どんな漫画家なん?」
 マンガとは言ってねーよ、花鶴。

「オ、オレも知らないよ……」
 なぜか寂しげに肩を落とすのはミハイル。
 少し涙目だ。

「それはな……俺のペンネームはだな……」
 あれぇ? なんか春だというのに暖房入ってません?
 汗が滝のように流れる。

「タクオ、あくしろよ!」
 早くって言い直せよ。
「オタッキー、ダチじゃん?」
 あなたみたいな、どビッチとは友達じゃありません。
「オレも聞きたい……よ?」
 だから、なぜ涙目で上目遣い? ミハイルさん。

DO(ドゥ)助兵衛(スケベ)!」

 その名を叫んだのは一人の少女だった。

 俺は一瞬にして汗が止まり、今度は悪寒を覚える。

「こんなところにいたなんて! 新宮くんがあの『DO(ドゥ)助兵衛(スケベ)』先生なんて……ハァハァ」
 なぜか息が荒い眼鏡少女、北神 ほのか。

「ドゥ・スケベェ……?」
 驚愕の顔でかたまる千鳥。
「スケベって、アッハッハッハ!」
 床に笑い転げる花鶴。パンツ丸見えだから男子諸君は良かったら、どうぞ。

「す、すけべ?」
 ミハイルは『この人可哀そう……』みたいな顔して、俺を見つめている。

「そうですよ、皆さん! 新宮くんこと、BLライトノベル作家のDO・助兵衛先生ですよ」
 ファッ!

「「「……」」」

 一瞬にして男子生徒たちは、俺から逃げていった。
 
「ち、違う! 俺はただのライトノベル作家だ! 北神、いい加減にしろ!」
「サインください!」
 俺の発言は無視し、自身の鞄から単行本を取り出してきた北神ほのか。

 タイトル『ヤクザの華』。

 表紙はガチムチマッチョなおっさんが、上半身裸体で拳銃を構えている。
 イラストからして、確かにBL向けにも見える。

「タクオ! お前ソッチだったのかよ!?」
 突っ込む前に、なぜそんなに離れているんだよ、千鳥。
 もうちょっとこっちに近寄れ! 辛いだろ!
「お前は何かを勘違いしているぞ、千鳥!」
「否定しねーから、余計に怖いんだよ!」

「なつかしー、しかも、これ初版本ですね♪」
 言い争う俺たちを無視して、白金が北神の単行本を眺める。
「そうなんです♪ 幻の初版本です♪ これで絡めるのがたまらないんです」
「なるほどぉ……DOセンセイにはBLの需要があるのですね。一考してみます」
 白金のやつ、冷静に俺の作品を分析しやがって。
 BLなんて母さんの同人だけでお腹いっぱいなんだよ!

「タ、タクト……オレはタクトの書いた本なら読んでみたいな☆」
 その笑顔守りたい!
 ミハイルがこの日ばかりは女神さまに見えた。
「スケベっていう、ペンネームもいい…名前だな」
 口がひくひくしていますよ? ミハイルさん。

 なんだろ、涙が……。