マリアとのラブホテル密会が報道されて、数日が経った。
正直、ミハイルにいつバレるか、ずっと不安で生きた心地がしない。
あとで知ったことだが、色んなニュースサイトに取り上げられているほど、マリアは有名人だった。
一部のテレビ局でも、今回の報道が流れているらしく。
DO・助兵衛という作家は、ラノベ業界に限らず、一般人の間でも話題にあがっているそうだ。
編集部の白金が、興奮気味に電話で教えてくれた。
もう俺には、後がない。
ここは潔く彼に謝罪すべきだろう……と腹を括った。
あいつに会ったら、すぐに頭を下げよう。
下手な嘘は使わず……正直に起きた出来事を説明すれば、きっと今まで通り許してくれる。
だって、俺たちはマブダチだし。
1年間も一緒に同じ高校へ通っている仲だ。
俺のために女装までしてくれる……ミハイルなら、きっと。
朝食を済ませると、リュックサックを背負って、地元の真島駅へと向かう。
いつも通り、小倉行きの列車に乗り込んで、彼を待つことにした。
二駅進んだ先の、席内駅に着く。
自動ドアがプシューッと音を立てて開く。
「タクト~☆ おっはよ~☆」
といつもなら、元気よく笑顔のミハイルが現れるのだが。
一向に姿を見せない。
俺が席を立ち、キョロキョロと辺りを見渡すが、誰も乗ってこない。
遅刻したのだろうか?
いや、ミハイルはアホだが、根は真面目だ。
特に俺と一緒に、行動することにこだわる人間。
ありえない。
※
目的地の赤井駅について、しばらくホームで次の列車を待っても、やはり彼は来ない。
心配になった俺は、スマホを取り出し、電話をかけてみることにした。
『おかけになった電話は現在、繋がらない状態か、電源を入っていないため……』
何度かけても、同じ答えだった。
一体どうしたと言うんだ?
やっぱり、あの記事を知ったから、落ちこんでしまったのか。
それなら俺が謝らないと……。
不安で仕方なかった俺は、彼の実家へ電話することにした。
以前、姉のヴィッキーちゃんが、外泊した時にかけてきたから、アドレス帳へ登録しておいたのだ。
『ご連絡いただき、誠にありがとうございます♪ パティスリーKOGAです♪』
ビジネスモードのヴィッキーちゃんが出た。
「あ、俺です。ミハイルの同級生の新宮です」
そう言うと、態度を一変させるねーちゃん。
『チッ! 坊主か……なんだ?』
「あの……ミハイルは、まだ家にいるんですか?」
恐る恐る聞いてみたが、意外な答えが返ってきた。
『は? ミーシャなら、朝早くに学校へ行ったぞ? 会ってないのか?』
「はい……。会えなかったので、身体でも壊したかと」
『あはは! 全然、あいつならピンピンしてるよ。早く学校で会ってやれ。きっと喜ぶから』
ヴィッキーちゃんにそう言われて、やっと安心できた。
「ありがとうございます。じゃあまた……」
『おう! またな』
おかしい……。
そんなに朝早く家を出たのなら、俺と一緒の電車に乗ってもいいじゃないか。
※
とりあえず、一ツ橋高校へ向かうことにした。
ヴィッキーちゃんの言うことが本当なら、彼は校舎にいるはずだ。
ひとりで、心臓破りの長い坂道を登っていく。
いつもなら、二人で仲良く駄弁りながら、歩いているから、こんなにキツいと思わなかった……。
武道館が見えてきたころ、一人の女性が校門の前で、仁王立ちしていた。
真っ赤なチャイナドレスを着た淫乱おばさん。
ものすごいミニ丈だから、下から見上げる俺は、パンツが丸見えだ。吐きそう。
頭には、シニヨンキャップを左右につけて、お団子にしている。
「あちょ~! 新宮、新年から気合が入っているな! ほあっちゃ~!」
と叫びながら、構えをとる宗像先生。
格闘ゲームの新作が発売されたから、その影響か?
アホ丸出しだな。
「おはようございます……先生」
「なんだ。元気ないな?」
「その……ミハイル。古賀は、もう来ていますか?」
「ん? お前ら一緒に来てないのか? 仲が良いお前らだから、新年も二人で来ていると思ってたけど」
きょとんとした顔で、宗像先生は俺を見つめる。
この感じ、嘘は言っていない。
ということは……ミハイルが、ヴィッキーちゃんに嘘をついたんだ。
真実を知った俺は、うなだれてしまう。
「そうですか……じゃあ帰ります……」
あいつがいないなら、意味がない。
そう思ったら、自然と身体が元の道へと向きを変える。
それを見た宗像先生が慌てて、止めに入る。
「っておい! なにも古賀が来てないからって、お前まで帰らんでいいだろ! それに今日は試験だ。単位がかかっているぞ? 第一、あとで古賀が来るかもしれんだろ!」
「はぁ……」
ミハイルの性格上、ありえない。
「新宮。お前、何かしたのか? ケンカしたなら、ちゃんと古賀に謝れよ?」
「わかってます……」
俺だって、謝れるもんなら、さっさとしたいよ。
ミハイル……今、どこにいるんだ。