マリアが俺にかけた手錠だが、どうやら前のお客さんが忘れていった物らしい。
 ハードなプレイがお好みのカップル……。置いていくなよ。
 おかげで、ドМプレイを体験してしまった。
 仕方ないから、俺がフロントに電話して、手錠のことを伝える。
 
「ごめんなさい……タクト。どうしても、あなたが遠くに行ってしまいそうで。怖かったの……」
 かなり罪悪感を、感じているようだ。
 しゅんとしているマリアは、なんだか愛らしい。
「気にするな。別にケガをしたわけじゃないからな」
 それよりも、寝相の悪さをどうにかして欲しい。
「あ、ありがと……タクト。優しいのね。大好き♪」
 
 好きなら、もうちょっと優しくしてね……。

  ※
 
 別に悪いことはしていないが、俺とマリアは身なりを整えると。
 急いで、ラブホテルから出ることにした。
 早朝の方が、近隣を歩く人が少ないと思ったからだ。


 ホテルから出たその時だった。
 近くの電柱から、人影を感じる。
 視線はずっとこちらに向けられている……気がした。

 ラブホテルから、出てきた俺たちだ。
 自意識過剰だとは、思うが……。
 しかし、突き刺すような視線だと感じてしまう。

 ひょっとして、アンナかと思ったが。
 違う。
 間違いない。
 女装したり、色々と器用な彼だが、体型までは変えられない。
 
 相手は40代ぐらいの中年男性。
 ぽっちゃりしたおじさん。
 サングラスに、白いマスクをつけている。
 明らかに不審な男。

 もしかして、以前カナルシティで出会った痴漢か?
 アンナやマリアに、固執していた変態だもんな。
 ここは、俺が注意すべきだろうか。

 ふと目と目が合う。
「ひっ!?」
 相手は俺の顔を見て、怯んでしまい、慌てて逃げ去ってしまう。
「なんだ、あいつ……」

 俺がその場に立ち尽くしていると、マリアが袖を引っ張る。

「タクト。早くここから離れましょうよ! やっぱり……恥ずかしいわ」
 頬を赤くして、俯くマリア。
 可愛らしいところもあるんだと思った。
「そうだな……」


 3回目のラブホテルへ行ったわけだが、今回も何事もなく終わってしまう。
 ただ、今回の宿泊代は、マリアが払ってくれた。
 彼女の個人的な理由で、利用したから……だそうだ。
 せめて半分ぐらい支払わせて欲しいと言ってみたが、彼女は頑なに断った。

 たぶん俺を無理やり連れて行った割には、何も出来なかったことが悔しいのだろう。
 どうでもいいけど、何もしないのにラブホテルをご利用って、金がもったないよね?

 ~それから1週間後~

 今回のラブホテルで起きた出来事は、ネタとしては使わないと考えていた。
 経費で落ちていないし。
 なんかマリアのことが、かわいそうで……。


 特に何もない日常を送っていると。
 今年、初めてのスクーリングが近づいてきた。
 ただの授業じゃない。期末試験だ。
 それが連続で、2回も行われる。

 アホなミハイルからしたら、苦行だろう。
 今もきっと自宅で、試験勉強をしているに違いない。
 去年も俺と進級したいがために、必死に頑張っていたものな。

 その点、俺は勉強なんて必要ない。
 前期も何もせず、オール満点だったしな。
 ま、あの学校が幼稚園児レベルだからね……。

 ただ試験当日になるまで、毎日ダラダラ過ごしていれば良いのだ。
 その日も、学習デスクの上に置いてある、PCモニターを眺めていた。
 去年から撮りためていたアンナのパンチラ写真。
 ウインドウを10個も並べて表示させ、アンナを堪能する。

「ふぅ……」

 最近、アンナの新しい写真。特に露出度の高いラッキースケベが起こらないから。
 なかなか新鮮なネタが、手に入らないな……。
 早く次の取材が来ないかな。と思っていた最中。
 机の上に置いてあるスマホが、鳴り始めた。

 彼女だと思い込み、急いでスマホを手に取る。

「もしもし?」
『あ、タクト……もう例の記事を見たかしら?』
 その大人びた話し方で、すぐに相手が彼女じゃないと分かる。
 電話をかけてきたのはマリアだ。
「マリア。記事って……なんのことだ?」
 俺が首を傾げると、マリアは深いため息をつく。
『まだ見ていないのね……本当にごめんなさい。私のミスだわ』
「は?」
『この前、二人でラブホテルへ行ったじゃない? あの時に記者が近くにいて、写真を撮られたのよ……』
「え!? なんで俺たちを撮るんだよ。ただの一般人だろ」
『私がモデルだからよ。こう見えて女性に人気なの。詳しくはインターネットを見ればわかると思うわ……本当にごめんなさい。でも嘘は何も言ってないから』
「マジかよ……」

 それからすぐに電話を切って、俺はウェブブラウザで検索をしてみることに。
 彼女の名前で調べたら、すぐにヒットした。

 見出しはこうだ。
 
『人気モデル、MALIA。帰国してすぐにラブホテルでドッキング!』

「ブフーーッ!!!」

 思わず、大量の唾をモニターへぶっかけてしまった。

『お相手は、2歳年上の自称作家。DO・助兵衛氏、18歳。一般人のため、顔は隠させていただいております』

 と記事には書いてあった。
 肝心の写真は、ラブホテルから出て来たマリアと俺。
 誰にも見られたくない……とキョロキョロしている二人だから、妙に怪しく感じる。
 一応、俺だけ目元を黒塗りにされていた。
 でも俺を知っている人なら、すぐに分かるだろう……。

 ていうか、なんで自称作家になってんだよ! 俺はプロだ!

 記事を読み進めていくと。
 後日、記者がマリアへ直撃インタビューを行ったようで。
 その際の質疑応答が、載っていた。

 記者。
「ラブホテルで一泊を過ごしたということは、DO氏とお付き合いしているのですか?」
 
 マリア氏。
「いいえ。本気で婚約しております。10年前から」
 とカメラに向かって、婚約宣言を発表するマリアさん。

 記者。
「では、結婚を約束しているのなら、ラブホテルでそういう行為をされたと認めるのですね?」

 マリア氏。
「それは断じて認められません。私たちは婚約しておりますが、淫らな行為は何一つしておりません。これだけは言わせてください。一線は越えていません!」
 と言い訳するマリアさん。
 それを聞いていた記者は、信じられないと耳を疑ったそうな……。

 一連の記事を読み終えた俺は、動揺から右手がガタガタ震え出す。
 マウスカーソルがモニターの中で、左右に踊りまくっていた。
 
「な、なんじゃこりゃ!」

 ほぼ認めている回答じゃねーか!?
 クソ……俺と一緒で、マリアも嘘をつくのが苦手だった。
 もうすぐ試験だというのに。

 ミハイルに、この記事を知られたら……。
 俺はどうなるんだ。