お祈りも済んだことだし、あとは絵馬とか、おみくじをするぐらいだ。
 しかし、どこも人が多く……。
 1つのことをやるために、数十分も消費するのは、ちょっと面倒。
 だから本殿から出て、出店を回ることにした。
 ちょうど、腹も減ってきたし。

 その提案に、アンナは手を叩いて喜ぶ。

「お正月の屋台って食べたことないの~ 楽しみぃ~☆」
「そうか。まあお正月だからって、特別じゃないぞ? 夏祭りと変わらないんじゃないか?」
 俺がそう言うと、アンナは俯いてしまう。
「アンナ……あんまりお祭りとか行ったことないから……毎年、ミーシャちゃんと一緒にお店の手伝いしていたから」
 いかん、墓穴を掘ってしまったようだ。
「そ、そうか。まあ、俺もここ10年以上は経験してないから、安心しろ。ほれ、あのデカい綿あめが見えるか?」

 と1つの屋台を指差してみる。
 子供向けに販売している、綿あめ屋。
 今、放送している幼児向けのアニメや特撮のキャラが、ビニールにプリントされた大きな綿あめ。
 その中には、アンナが大好きなボリキュアもいた。

「あ、ボリキュアだぁ!」
「そうだ。こういうのは、昔からあってだな……」

 言いかけて、俺は思い出してしまった。
 忘れていた……辛い過去の記憶を。

『おかあたん。綿あめが欲しい~』
『タクくん。あれより、もっと良い綿あめをお母さんが作ってあげるわよ』
『ホント!? わぁい~!』

 そして、帰宅後。
 母さんが持ってきたのは、巨大な綿あめだったが……。
 裸体のリーマンが、びしょ濡れにされていた卑猥なもの。
 しかし、無知だった俺は「おいしい」と喜び。
 母さんに「嬉しい! おかあたん、大好き!」と抱きついていた。


「はぁはぁ……なにが『大好きだ』……我が子を洗脳しやがって」
 激しいフラッシュバックで、我を忘れ、拳に力が入る。
「タッくん? どうしたの? なにか綿あめで、嫌な思い出でもあったの?」

 心配して俺に身を寄せるアンナ。
 振り袖姿の彼女を目にしたことで、理性を戻せた。
 過去におきた出来事へ、怒りを向けることなど、ナンセンスだ。
 今を楽しもう。

「す、すまんな。俺も正月なんて随分、楽しめていなかったからさ」
「そうなんだ……じゃあ、今年からアンナとお正月を楽しもうね☆」
 ニコッと微笑み、緑の瞳を輝かせる。
 彼女さえ、俺の隣りにいてくれるなら、汚れた過去など乗り越えて見せるぜ。

  ※

 早速、綿あめ屋さんで、ボリキュアをゲットしたアンナは、嬉しそうに笑う。
「大きい~ 白い~☆」
 人目など気にせず、その場でビニール袋から、綿あめを手で掴み。食べ始める。
「あま~い☆ あ、タッくんも食べる?」
「いや……俺は」
 
 気を使ってくれているのは、わかるのだが。
 素手で食べているから、彼女の手や口元は、汚れていた。
 後々が面倒だからと断ろうとしたら、怒られてしまう。

「ダメだよ! ちゃんとお正月らしいことをしようよ!」
「悪い……じゃあ、頂くよ」
「はい☆ 半分こね☆」

 アンナは手を袋に入れると、しっかり半分になるよう、綿あめを分けてくれた。
 こんなに食えないよ。
「ありがとな……」
 胃が痛くなりそう。

  ※

 その後、アンナと色んな屋台を回った。

 じゃがバターに大きなイカ焼き。
 焼きそばに、たこ焼き。
 フランクフルト。回転焼きなど……。

 彼女の腹を満たすまで、1時間以上かかった。

「あ~ 美味しかった☆ デザートが無くて寂しいけど……」
 
 えぇ……。綿あめと回転焼きはデザートとして、カウントされないの?
 相変わらずの暴食ぶりにドン引きしていたら、アンナの身体に異変が起きた。

「へっちゅん!」

 随分と控えめで、可愛いくしゃみだと思った。

「どうした? 風邪でも引いたのか?」
「ううん……きっと、外でずっと立ち食いしちゃったからだと思う。身体が冷えちゃって」
 言いながら、自身の肩をさするアンナ。
 これは見ていて、さすがにかわいそうだと思ったので。
 俺は着ていた羽織を脱ぎ、彼女の肩に着せてあげる。

「え、タッくんが寒いでしょ? いいよ、気にしなくて」
 断ろうとするアンナを、俺はきつく注意する。
「ダメだ。ちゃんと着ておけ。俺なら大丈夫だ。この着物はウール製だから、そんなに寒くない」
「そ、そっか……なら甘えちゃおうかな」

 頬を赤くし、俺の着ていた羽織りを大事そうに両手で抑える。

「タッくんの匂いがする。暖かい☆」
 え? そんなに臭かったかな?
「嫌じゃないのか」
「うん☆ タッくんのお家って感じがする☆」
「……」

 なんか、それ。
 うちがBLまみれで臭そうって、思われているような。

 だが、俺はこの時。大事なことを忘れていた。
 すれ違う人々の声で、それに気がつく。

「おい。あれってさ。BLだろ?」
「なんで、男が背中にイッてるイラストをのっけているんだよ……キモすぎ」
「あの子。なんなのよ! めっちゃ神がかっているじゃん! どこで売っているのあれ?」

 最後、ただの腐女子じゃねーか。
 それから、俺はずっと我慢するのみであった。
 可愛いアンナを暖めるため、自分の羞恥心など無視しなければ。

 お正月から、最悪な展開だよ!
 やっぱうちの環境だと、こういうのからは、逃れられないのかな……。