ケーキを食べ終える頃、俺はリュックサックから小さな箱を取り出す。
 以前、カナルシティのアクセサリーショップで購入したピアスが、中には入っている。
 
 アンナのために、誕生石を加工して作ってもらった特別なプレゼント。
 ただプレゼントを渡すだけなのに、緊張する。
 口の中が渇いて、上手く話すことができない。

「あ、アンナ……。これ、誕生日のプレゼントなんだ。受け取ってくれないか?」

 なんて格好の悪い渡し方だと思った。
 しかし、渡された本人は、緑の瞳をキラキラと輝かせる。

「え!? アンナにくれるの!? 嬉しい! タッくん、ありがとう☆」

 プレゼントを大事そうに受け取り、早速「開けていい?」と俺に尋ねる。
 もちろんだと、俺が頷くと、丁寧に包装紙を開いていく。
 結んでいた紐でさえ、折り畳み、持って帰るようだ。

 ギフトボックスをゆっくり開く。
 そこには、透き通るような綺麗なブルー。
 タンザナイトのピアスが2つ、並んでいた。

 開けた瞬間、アンナはその輝きに驚く。

「きれい~ これ、タッくん。高かったんじゃないの?」
 喜ぶよりも先に、金額を心配されてしまった。
「ま、まあ……アンナには色々と世話になったしな。取材もいっぱいしてくれただろ? 印税とか入れば、訳ないさ」
 半分は合っているが、本当は違う。
 純粋にあげたかった……。

「そっかぁ……ごめんね。気を使ってもらって」
 ついには顔を曇らせてしまう。
「気は使ってない。俺が祝いたいと思ったから、やったまでだ。アンナにつけて欲しいって……」
 言いながら、「これ告ってない?」と自分にツッコミを入れたくなった。
「アンナにつけて欲しいの?」
「ああ。お前の耳に似合いそうだ」
 
 無言でお互いの瞳を見つめあうこと、数秒間。
 アンナは黙って、ギフトボックスからピアスを手に取った。
 首を左側に向けて、うなじを俺に見せる。
 どうやら、今からピアスをつけてくれるようだ。

 おそらく手術後にずっとつけていた簡素なファーストピアスを外し、俺が用意したタンザナイトを差し込む。

 まだ彼女の穴は小さいようで、なかなか新しいピアスが入らない。
 時折、「痛っ」と顔をしかめる。
 しかしアンナも諦めたくないようで、頑張って最後まで差し込んだ。

 ようやく、両方の耳にピアスが入ったところで、お披露目タイム。
「似合う……かな?」
 頬を赤くして、耳たぶに手を当てている。
 きっと、ピアスが目立つように、やってくれているんだ。
「可愛い……」
 自然と、俺の口からはその言葉が漏れていた。
「あ、ありがとう……タッくん、大事にするね☆」
「ああ。たくさん使ってもらえると、俺も嬉しいよ」

  ※
 
 気がつけば、窓の外は夕陽から星空へと変わっていた。
 冬だから、暗くなるのも早い。

 スマホの時刻を確認すれば、『19:03』だ。

 中身は男とはいえ、一応女の子だ。
 早めに帰さないとな……。

「アンナ、夜になったし。そろそろ帰ろう」
 俺がそう言うと、彼女は唇を尖がらせる。
「うん……もう夜だもんね……」
 名残惜しいが、ちゃんと帰さないとな。
 このまま、ドーム近くのホテルへ連れ込む。っていう強引な手もあるが。
 それは俺の紳士道に反する。
 大人しく、帰ろう。
 

 レストランを出て、エレベーターに乗り込む。
 あんなに高かった展望部だが、降りるのは一瞬だ。
 博多タワーを出ると、相変わらず外は強風で吹き飛ばされそう。

 再度バスを使って、博多駅へと向かおうとしたその時だった。
 タワーの前に人だかりが出来ていた。

「えぇ~ 本日は本当に寒い1日ですね。私もコートの中に、カイロを何個も入れています」
 マイクを片手に話しているのは、綺麗な格好をした女子アナ。
 そのアナウンサーを囲むように、テレビスタッフが何人も並んで立っている。

「しまった……忘れていた」

 気がついた時には、もう遅かった。
 カメラはこちらをしっかりと捉えている。
 博多タワーの目の前には、テレビ局があったんだ。
 福岡ローカルのテレビ局だが。

 ちょうど、この時間はタワーを目の前に、天気予報をやっている。
 夕方のニュースだと思うが、俺とアンナが福岡中に配信されてしまう。

 何も知らないアンナが、女子アナの隣りに立っていた着ぐるみへ手を振った。

「あはは。かわいい☆」

 それに気がついた着ぐるみも、アンナに向かって、大きく手を振る。

「ん、どうしたのかな? タマタマくん?」

 着ぐるみが生放送中に、カメラへお尻を向けたため、女子アナが声をかける。
 すると、タマタマくんは身振り手振りで、俺たちのことを説明し出した。
 いらんことすな!

「ほうほう。あそこにいるのは、カップルさんですね! では、せっかくなので一緒にお天気を予想してもらおっか♪ タマタマくん」
 ファッ!?
 俺がその場から逃げようとした時には、もう遅かった。
 タマタマくんが、のしのしと音を立てて、こちらへ向かってくる。

 もう覚悟を決めるしかなかった。
「可愛い☆ タマタマくんっていうんだ~」
 気がつけば、隣りにいたアンナが、謎の着ぐるみと抱きしめ合っていた。
 クソが!
 中身、男だったらブチ殺してやりたい。
 人の女を勝手に触りやがって……。