「ハァハァ……マリアたん。早く絡めたいわ……」
鼻息を荒くして、自前の制服。白いブラウスは、血で赤く染まる。
ただし、ケガによるものではなく、彼女が興奮しているからだ。
対戦相手のマリアは、試合が開始したにも関わらず、硬直していた。
きっと、どう接していいか、分からないのだろう……キモすぎて。
「あ、あの……ほのかさんだったかしら? もう始めてもいいの?」
「もちろんよ! まずはそっくりなミハイルくんを女体化させて……それから、マリアちゃんとベッドインさせましょ!」
「え……?」
ほのかの脳内は、既に自身の創作でいっぱいのようだ。
アームレスリングなど、どうでも良いのだろう。
目の前にいる金髪ハーフの美少女を、如何にして、作品で絡めるか……そればかり考えている。
全く持って、迷惑な生き物だ。
マリアは困惑した様子で、ずっとほのかを見つめている。
「私、海外にいたから、そういう恋愛感情とか差別する気はないのだけど……。でも試合だから、倒すわね?」
なんか、幼児に話しかける保育士さんみたいだ。
「うひょお~ 女体化したミハイルくんをベッドに押し倒すですって!? マリアちゃんは、攻めだったのねぇ!」
暴走するほのかを見て、悲鳴をあげるマリア。
「ひぃっ! ごめんなさい!」
そう言うと瞼を閉じて、ほのかの腕を倒した。
しかし、負けた彼女は嘆くことなどない。
眼鏡を光らせて、怪しく微笑んでいる……むしろ嬉しそう。
「うへぇ~、そのブルーサファイア。キレイだわぁ。ペロペロしたい♪」
「あ、あの……試合は終わったのだけど?」
ほのかは倒されても、マリアの手をずっと離さなかった。
白く透明感のある美しい肌を、スリスリと撫で回す腐女子。
確かに、無知なマリアじゃなくても、恐怖を覚える。
そこへ、宗像先生が間に入ってきて、ほのかの手を引き離す。
「勝者! 冷泉 マリア!」
宗像先生はマリアの腕を上げて、笑っていたが。
肝心のマリアは、全然喜んでいない。
真っ青な顔で俯いている。
なにやら、一人でブツブツと呟く。
「試合は勝ったのに……なぜか、あの子に負けた気がするのだけど」
そりゃ、あの変態女先生に勝てる人間なんていないだろ。
創作においてだが……。
いや違うな。正しくは人間を辞めているから。
※
女子部門の2回戦は、宗像先生とミハイルだ。
腐女子が多いとはいえ、みんな根はまじめ……というか、基本陰キャばかりだ。
だから、こういう時。自ら挙手するような女の子は少ない。
仕方なく、ミハイルの相手は、宗像先生がすることに。
ミニスカのサンタコスをしていると言うのに、机に肘をつくとガニ股になる宗像先生。
試合を観戦している俺からすると、紫のレースパンティが丸見えだ。
汚いので、早く股を閉じて欲しいものだ。
「よいしょっと☆」
その汚物を隠してくれたのは、俺の嫁……じゃなかったダチのミハイル。
レザーのショートパンツが、イスの隙間からはみ出る。
ぷにんとして、柔らかそうだ。
何かまた怒りが込み上げてきた……“あれ”が触れなかったことを。
宗像先生が自身の口から試合の始まりを告げる。
「いくぞ、古賀!」
「オレ、負けたくない! 絶対に!」
~10分後~
「クッソ~! 強いよぉ~ 宗像センセー!」
「あ、あああ」
お互い、プロレスラー並みの馬鹿力を所持しているため、なかなか試合が決まらない。
五分五分と言ったところか。
だが、宗像先生の様子が少しおかしい。
唇をかみしめて、何かを我慢しているように見える。
「あああ……ヤバいぃ! 漏れるぅ!」
これには、周りにいた生徒たちみんな、一斉に声を揃えた。
「「「え!?」」」
「だはぁ! ハイボールを飲み過ぎたぁ! もうダメ! おしっこが漏れちゃうよぉ!」
アラサー教師がお漏らし発言とか……、しんど。
結局、宗像先生がトイレに行かないと、自習室の床がびしょ濡れになる恐れがあったので、ミハイルの勝利となった。
自ずと女子部門の決勝戦は、マリア対ミハイルに。
両者、向かい合うと、お互いを睨みつける。
双子ってぐらいそっくりの2人だが、やはりこうして並んでみると、違和感を感じる。
ファッションの好みに、違いもあるのだろうが……。
一番はその美しい瞳だ。
特にマリアのブルーサファイアからは、持ち前の性格が現れている。
決して目つきが悪いとかではなく、瞳が大きいので、目力がある。
それに「この勝負に勝ちたい」という気持ちが強いからだろう。
机の上に肘を載せて、ミハイルを待つ。
「さぁ、早く始めましょう?」
と怪しく微笑む。
余裕すら感じるマリアに、ミハイルは動揺していた。
「わかってるよ! おまえなんか、すぐに倒しちゃうゾ!」
「フフフ……面白いわ。あなたを見ていると、あのブリブリ女を思い出すの。男の子なんだから、全力でいいわよね?」
マリアのやつ。アンナのことで、ミハイルに八つ当たりしているな。
ていうか、張本人だから別にいいか。
ミハイルは顔を真っ赤にして、安い挑発にのってしまう。
「アンナのことをバカにするな! タクトの大事なカノジョ候補なんだ!」
「フン。あんな地雷系の痛い女が? 笑わせるわね……」
腕相撲の前に、取っ組み合いの喧嘩が始まらないか、ヒヤヒヤしていたが。
おしっこから戻ってきた……宗像先生が2人の元へ近寄り、試合開始を告げた。
「女子の決勝戦! 始めぃ!」
自習室は独特の緊張感が漂っていた。
みんな、2人のピリッとした空気にやられているようで、静まり返る。
俺もこの試合で、クリスマスイブが決まる……かもしれないので、一応気にはなる。
ていうか、俺にイブの選択肢はないんですか?