今年、最後のスクリーングがやってきた。
まだ12月に入って、一週間ぐらいだが……。
どうやら、校舎である全日制コースの三ツ橋高校が色々とイベントが多く。
年末は、スクリーングに教室を使うことが出来ないらしい。
ま、俺からしたら、やっと終わってくれて、ホッとするけどな。
そんなことを考えながら、地元の真島駅に向かう。
今日のミハイルはどんな格好をしているんだろう……なんて、妄想しているとスマホから、着信音が。
「もしもし?」
『あ、タクト☆ 悪いんだけど……今日、オレ一緒の電車には乗れないんだ』
「え……」
驚きのあまり、その場で立ち止まってしまう。
バカだけど、いつも一緒に登校しているミハイルが、自らの意思で欠席だなんて。
『ごめんね……タクト。で、でもね! 学校はちゃんと行くから!』
「つまり、遅刻か?」
そう問いかけたが、受話器の向こう側が何やら騒がしい。
『おい! 古賀! 早くしない……間に合わな……』
なんか、途切れ途切れに聞こえてくる。聞き覚えのある女の声だ。
『ごめん。タクト、またあとでね!』
「お、おい! 待てよ、ミハイル」
『ツーツー……』
一体、なんだったんだ?
※
学校に着いて、1階の玄関で上靴に履き替える。
すると、2階から旨そうな香りが漂ってきた。
階段を登ったすぐ先、右側のボロいドアから、トントンと一定のリズムで何かを叩く音が聞こえてくる。
この音は包丁か? ズボラな宗像先生じゃ出来ない業だろう……まさか。
俺はドアノブを回し、中に入る。
一ツ橋高校の事務所だ。
いつもなら、宗像先生が賞味期限の切れたインスタントコーヒーを飲んでいるはずなのだが。
今日は、なんて煌びやかな空間なんだ!
受付にアロマが置かれているし、あんなに汚かった事務所が綺麗に片づけられている。
普段、宗像先生が着用しているキャバ嬢の服は洗濯され、ベランダに干されていた。
そして、左奥に可愛らしいネッキーのエプロンを着た金髪の美少女が立っていた。
シンクの上で鼻歌交じりに、ニンジンを切っている。
ポニーテールを左右に揺らせて……。
「ミハイル……」
その姿を見た時、自然と口から漏れていた。
きっと、嬉しかったのだと思う。
すぐに会えないと思っていたから……。
俺に気がついたミハイルは、包丁をまな板の上に置き、こちらへと向かってくる。
受付のカウンター越しに、彼はニッコリと笑って見せる。
「おはよ☆ タクト」
「おお……おはよう」
会えないと思っていたから、その笑顔に見惚れてしまう。
相変わらず、2つのエメラルドグリーンがキラキラと輝いて、眩しい。
吸い込まれそうだ。
今日は学校だから、アンナの時ほど、可愛くないけど。
白のパーカーに、フェイクレザーのショートパンツ。
なんか、彼女の家に遊び行った時。
ルームウェアを着ている姿を見ているような感覚に陥るな……。
そして、フェイクレザーだから、いつもよりヒップの形が目立ってしまう。
目のやり場に困るな。
「ごめんね。今日、実は宗像先生に頼まれて、料理を作ってんの☆」
「は? なんで、生徒のお前が料理を作るんだ?」
あのバカ教師。人の女……じゃなかったダチに、何させてんだ。
「放課後にね、クリスマス会やるじゃん? それで、料理とかスイーツを作って欲しいんだってさ☆」
「クリスマス会っ!?」
あまりの幼稚なイベントに、アホな声が出てしまう。
だが、ミハイルはキョトンとした顔で、頷く。
「うん。聞いてなかったの?」
「ああ……」
なんで、高校生がクリスマス会なんて、やるんだよ。
小学生じゃないんだぞ。まあ、サンタさんは信じているけど……。
「だから、オレは2時間目ぐらいまで、お料理するから、待っていてね☆」
「分かった……。ところで、お前。いつから、事務所で料理しているんだ?」
「オレ? 朝の5時ぐらいからだよ」
「そんな早くからか?」
「だって、仕込みに時間かかるもん。別に好きでやっているから、気にしないで☆」
そう言うと、背中を向けて事務所の奥へと去っていく。
小さな尻をプルプルと振るわせて。
俺は憤りを隠せずにいた。
クソ教師めが。
人の大事な女を、家政婦扱いしやがって……。
一緒に電車に乗れたら、レザーヒップを触れたかもしれないんだぞっ!