ミハイルから一通りのストレッチを見せてもらった後。
 流れで、俺も彼から習ったストレッチを挑戦することになった。

 自慢じゃないが、俺の身体は硬い方だから、ミハイルに無理だと断りを入れようとしたが。

「大丈夫☆ オレがちゃんとついているから。出来るようになるよ☆」

 と半ば強制的に、マットへ座らせられる。

 股関節を左右に開こうとするが、ミハイルのようには上手く出来ない。
 それを見た彼は、ニコッと笑ってこう言った。

「仕方ないよ☆ タクトは初めてだもんね。ちょっとオレがほぐしてあげるよ☆」
「え……? ほぐす?」

 嫌な予感しかない。

 ~10分後~

「う~ん……タクトって本当に硬いね。ガチコチだよぉ」

 ミハイルの小さな口から、吐息が漏れた。
 そして、俺の耳元に当たる。
 くすぐったいような、気持ち良いような……。
 
 現在の状態といえば。
 俺の背中を一生懸命ミハイルが小さな手を使い、押してくれている。
 後ろから抱きしめるように……。

 彼が言うには、普段からデスクワークが多いから、俺の腰と股関節も硬いらしく。
 今後の活動のためにも、しっかりと筋肉などを伸ばした方が良いとのこと。

 股関節を奇麗に開脚はできなかったが。
 責めて腰ぐらいは伸ばした方が良い、とミハイルに強く注意を受けた。
 まあ、俺の執筆活動を心配してくれているからだと思うが……。

 大きく息を吐いて、両手をマットの上に乗せて、前へと突き出す。
「ふぅ……」
 俺としては、だいぶ伸ばせたような気がするが、ミハイル先生は納得してくれなかった。
「あ~ ダメダメ。硬すぎるよぉ。タクトってさ。なんで、そんなにカチコチなの? 普段からやらないから、柔らかくなれないんだよ!」
「す、すみません……」
 怒られちゃったよ。
 ていうか、さっきから誤解を生むような表現ばかりしている気がする。
 カチコチとか、硬いとか……。


 見兼ねた彼が再度、補助に入る。
「いい、タクト。力をいれたらダメだよ。オレの呼吸に合わせて、ゆっくり前に腰を入れようね☆」
「お、おう……」

 言われた通り、彼の吐息に合わせて、ゆっくりと身体を前へ突き出す。
 ミハイルは優しく俺の腰を両手で押してくれた。
 超がつくぐらいの密着で。
 背中越しとは言え、彼の心音が伝わってくるほどだ。
 当たり前だが、女装していないので、ノーブラと思うと、興奮してしまう。
 ストレッチに熱中するミハイルは、恥じらいがないように感じた。
 頬と頬がくっついてしまうほどの至近距離で、俺に囁く。

「ほらぁ。ちゃんと入ったよ☆ タクト、すごいね☆」
「あ、ありがとう……」

 どことなく、ミハイルから甘い香りを感じた。
 きっと普段から使っているシャンプーだと思うが、その香りが更に俺をドキドキさせる。
 
 気がつけば、俺の股間もマットレスへ直進してしまった……。
 今の状態を隠したいがために、腰をどんどん前へと突き出す。
 
「すごいすごい☆ ちゃんと、マットに身体をつけられるぐらい、前に腰を入れられたねぇ☆」
「おお……ミハイルのおかげだよ」
 本当は股間が暴走したから、逃げただけなんだけど。
「気持ちいいでしょ? もうちょっと、押してあげたらいいかな☆」
 そう言って、彼は俺の身体に覆いかぶさる。
 もちろん、やましい気持ちなんて、全然ない。
 ただ、俺の身体を柔らかくしてあげたい、という一心で、伸ばしているだけだ。

 しかし、ミハイルの思惑とは裏腹に、傍から見れば、ヤバい男たちに見えるだろう……。

「よいっしょと。これで、う~ん……」
 
 ただ、背中を押しているだけなのだが、ついでに彼のブルマもお尻辺りに擦りつけられる。
 ミハイルが身体を前後に動かす度、俺の尻がペチペチと音を立てる。
 別に痛くはないが、彼の可愛らしい、ふぐりを思い出すと、なんか快感を覚えてしまいそうだ……。

「ふん。よいっしょ☆ どう? タクト☆ 気持ちいい? 痛くない?」
「ああ……すごく腰が楽になれた気がするよ」
「そっか☆ なら、良かった☆」
「……」

 そんな事を二人で仲良くやっていると、離れた場所から熱い視線を感じた。
 眼鏡をキランと光らせた女がこちらを見つめている。
 北神 ほのかだ。

「フッ。落ちたな」

 口角を上げて、そう呟く。

 クソがっ。
 誰も落ちてねーわ!