「さっきから二人とも、なんで黙っているのよ! 本当にラブホテルへ行く関係だとでも言いたいわけ? 聞いているの、タクト!」
アンナが黙っているせいで、怒りの矛先が俺に向けられた。
「いや……本当にそういう関係じゃないんだ。俺とアンナは小説のために、取材をするだけの仲であって……。つまり、ラブホテルは取材目的で行ったに過ぎない」
間違いは言ってない。
少しでも嘘を付けば、勘の良いマリアにはバレてしまうからな。
「ラブホテルに取材? それ、必要なことなの……。じゃあ、若い男女がそういうホテルへ入ったのに、何にもしなかったとでも言いたいの!?」
それに対して、俺は即答する。真顔で。
「ああ。そういうことだ」
「なっ!?」
俺の回答に驚きを隠せないマリア。
「信じてもらえないかもしれないが……。俺たちはホテルへ行ったが、何もしてない。これだけはハッキリ言わせてもらう」
「そ、そんな……健全な男女がラブホテルに入って、何もしない事なんてあるの!? あそこには大人の関係になりたくて、入る以外……使用する意味あるの!?」
「いや、それは一概には言えないんじゃないか、多分……」
だって、ピンク系のサービスを受ける殿方もいるだろうし。
経験が無いから知らんけど……。
「タクト! あなたはさっきから、そう言うけどね! この前は『ラブホテルへ行ったことない』って私にウソをついて……。それにあなたはなんで、ずっと股間が……え、エレクトしているのよ!」
「へ……?」
マリアに指摘されて、俺は恐る恐る視線を股間に下ろす。
すると、彼女の言うように、ガチンゴチンに硬くなってしまった息子くんが目に入る。
膨らみ過ぎて、チャックが僅かに開いてしまうほど、元気になっていた……。
そうか、マリアだと思っていた相手が、アンナだと知ったことにより、無意識のうちに興奮してしまったんだ。
正面から、両手でパイ揉みをしたし、この前、ミハイルとはいえ、ファーストキスを交わした……。
つまり、恋愛における『AからB』を一気に経験してしまったのか。
大人の階段、昇っちゃったの? 男で……ないだろ。
だが、身体はしっかりと反応している。
全身の血流が全て、一か所に集い、パンパンに膨れ上がる。
股間が沈静化することは、難しい。
「ま、マリア……これは、違くて……」
「ナニが違うのよ! 最低っ、そんなに私とデートをしたくなかったの? こんな屈辱は初めてよ……どうせ、今からそのアンナとキスでもして、この川を越えるつもりだったんでしょ!?」
涙目で怒るマリア。
ていうか、よくそこまで想像できたな……。
誤解だって言うのに。
「ちょっと待ってくれ! そんな気はなくて……。おい、アンナもなにか言ってやってくれよ」
隣りにいたアンナへ助けを求めるが、未だに彼女は黙りこくっていた。
頬を赤くして、チラチラとある所を見つめる……。
俺の股間だ。
「……」
黙るなよ、否定してくれ。
しかも、その反応。更に誤解を生むんじゃうよ。
「もう、いいわ! あなた達、本当に最低で卑猥よ! 不快で仕方ないのだけど!」
ヤバい、更に火をつけちゃった……。
「マリア……本当に違うんだ、これは……」
そう言って、彼女の元へ数歩を脚を進めると、「近寄らないで!」と怒鳴られた。
「さっきからエレクトしっぱなしのタクトに触られたくない!」
あ、忘れていた。
常時、卍解している俺の股間を。
顔をぐしゃぐしゃに歪ませ、碧い瞳は涙でいっぱい。
冷静沈着な彼女が、こんなに感情的になるのは初めてだ。
よっぽど、屈辱的な出来事だったらしい。
「も、もう……いい。私、今日は帰るっ!」
そう言うと、マリアは俺たちに背を向けて、カナルシティの方向へと走り去ってしまう。
良かったのだろうか、これで。
実質、初めてのデートだったろうに。