プリクラ撮影が終わったことで、ようやく映画館へと向かうことになった。
 待ちに待ったタケちゃんの新作だ。
 長いエスカレーターを上っているだけで、興奮してくる。
 今か今かと胸が高鳴り、自ずと身体が前のめりになってしまう。

 マリアがスタッフの人にチケットを渡し、売店でポップコーンと飲み物を買ったら、スクリーンへ直行。
 
 ブーッ! という音と共に、スクリーンの幕が左右に開く。

 前作『ヤクザレイジ』にて、子分に裏切られた初老の親分、大林(おおばやし)
 エンディングで敵対する組織に刺されて、死んでしまったと思っていたが……。

 刑務所の休憩室にて、対峙する2人の男。
 1人は金髪の受刑者。もう1人はスーツを着た薄毛の男。
 

『先輩、今の“創作会(そうさくかい)”デカくなり過ぎましたよ……。政界とも繋がっていて、平気でAIにエチエチなイラストを描かせて販売……先代だったら、こんなこと許されなかったのに』
 それを聞いた金髪の男、大林が鼻で笑う。
『俺になんの関係があるんだよ。あれから何年経ったと思ってんだ。誰も俺のことなんて、覚えちゃいねぇよ……』
『そんな事言わないでくださいよ。先輩だって今も書いているんでしょ? なら、もう一度書籍化して、心が折れて垢を消した底辺作家たちの夢を叶えてくださいよ』
『お前、俺いくつだと思ってんだ? もう、いいよ』
 大林の答えを聞いて、啖呵をきる薄毛の男。

『まだ、もうろくする年じゃないでしょ! しっかり書籍化して、ケジメつけてくださいよ! それが作家ってもんでしょうが!』
『なんだ、てめぇ……読み専が書き専を焚きつけんのか!? コノヤロー!』


 久しぶりのタケちゃんに、俺は心を躍らせていた。
 両手はギュッと拳を作り、次の展開を予想する。

「おお! 前作が静寂なる暴力ならば、今作は言葉の暴力か! さすがタケちゃん!」
 なんて絶賛していると、隣りの席が妙に静かなことに気がつく。
 マリアだ。
 まさかと思いながら、隣りを見てみると……。
「スゥスゥ……」
 こいつ、自分から誘っておきながら、“また”寝てやがる。
 10年前と同じじゃねーか!

 これじゃ、取材にならないと、俺は彼女の肩を揺さぶる。
「おい。マリア、起きろよ。今日は取材じゃないのか?」
「あ……ごめんなさい。昨晩、一睡もしてなくて、あまりの退屈ぶりに寝ちゃったわ」
 サラッとタケちゃんをディスるな!
「お前なぁ……」
「本当に悪気はないの。ちょっとお手洗いに行って、顔を洗ってくるわ。私も10年前とは違って、成長したつもりよ」
「そ、そうか」

 なんだか、強気なマリアが丸くなったようで、調子が狂うな。