カナルシティに着いて、すぐに映画館へ向かおうとしたが。
エスカレーターの前でマリアが俺の手を掴む。
「ちょっと待って……」
振り返ると頬を赤らめていた。
「どうした? トイレか?」
「違うわよ! お腹、空いたの……」
それを聞いた俺は鼻で笑う。
「相変わらずだな。食い意地がはってる」
案の定、マリアは顔を真っ赤にして、怒り出す。
「な、なによ! 小説に夢中だったから、朝食を取る暇がなかっただけよ!」
「構わんさ……ところで、食べる所はどうする?」
俺がそう問いかけると、彼女は再度、頬を赤らめて恥ずかしそうにこう答える。
「タ、タクトさえ、よければ……“キャンディーズバーガー”が良いわ」
「了解」
※
俺とマリアは地下一階に向かい、噴水広場の前にあるファーストフード店。
キャンディーズバーガーへと入る。
かなり腹が減っていたようで、店に入るや否や。
躊躇いもなく、メニューも見ずに店員へ注文するマリア。
「BBQバーガーを単品で30個下さい。あとポテトも10個。飲み物はアイスティーのLサイズを1つ」
その量を聞いて、驚く俺と店員のお姉さん。
「えっと……BBQバーガーを単品で30個に、ポテトを10個。お飲み物はアイスティーのLでよろしかったでしょうか?」
お姉さんが注文を繰り返すと、マリアは苛立ちを隠せず、舌打ちしてみせる。
「ええ。そうです。あまり待たせないでくれますか? お腹空いていると、あまり余裕がないのだけど」
そう言って、カウンター越しに睨みをきかせるマリア。
相手は5才ぐらい年上の女性に見えるが、その迫力に思わず後じさりするほどだ。
「も、申し訳ございません! すぐに調理いたしますので、少々お待ちください!」
自分が頼み終えると、振り返って、涼し気な顔でこう言う。
「タクトはどうするの?」
「あぁ……」
正直、朝ご飯を食べて間もないし、こんなにヘビーなものをすぐには食べたくない。
「俺はアイスコーヒーのブラックで……サイズはSでお願いします……」
男である俺の方が小食に見えてしまった。
※
二人掛けの小さなテーブルの上に、並べられた大量のハンバーガー。
それをひとつ1つ、包み紙を開いて、嬉しそうに頬ばる華奢な女の子。
「やっぱり、ここのハンバーガーが一番だわ。アメリカのよりも日本の……いえ、福岡のが一番♪」
なんて絶賛している。
俺はと言えば、その食いっぷりに絶句していた。
この小さな身体のどこに入っていくんだ?
過食症じゃないよね、マリアって。
スナック感覚で、ポイポイと口に入れていくので、俺は心配になり。
彼女へその疑問をぶつけてみた。
「なぁ……別に人様の食べ方に文句を言うつもりはないが。ハンバーガーを30個も注文するなんて、異常じゃないか? マリア、お前なんかストレスでも抱えてないか?」
俺がそう言うと、彼女は眉をしかめる。
「失礼ね。私は至って健康よ。それに言ったじゃない? 朝を抜いてきたって」
「いや……朝食を抜いたからって、ここまで食うか……」
既にハンバーガーは全て食べ終え、あとはポテトが3個のみだ。
「タクト。きっとあなたは10年前の私と比較しているのよ」
「比較?」
「ええ。あの頃は私も小学生だったもの……。でも、今は第二次性徴を迎えた女よ。食べる量も自ずと増えるってこと。オトナの女って感じかしら♪」
「……」
こんなにバカ食いする大人の女性は、あまり見ませんね。
唯一、僕が知っている女の子……いや、男の娘なら一人いるのですが。
ルックス以外で、似ている所を見つけたな。