ミハイルはベッドの上で、ずっとうなされていた。
 高熱により、何度も身体を左右に動かしながら……。
 時折、何か言葉を発する。

「タ、タクト……が、がっこう……」

 どうやら、今日のスクリーングのことを未だに悔いているようだ。
 隣りで座っている俺も見ていて、辛かった。
 それだけ彼の中では、スクリーング……いや、俺と一緒に「一ツ橋高校を卒業したい」という想いが強いのだろう。
 まあ、一日ぐらい休んでも単位は貰えるから、心配ないと思うが。
 変な所で意地っ張りというか、頑固なところがあるからな。


 俺がミハイルの部屋にいて、彼の顔をじっと見守っていたところで、容態は何も変わらないのだが……。
 それでも今は近くで、こいつの顔を見ていたかった。
 
  ※

「うう……ああっ!」

 あまりの高い熱に頭をやられたのか、ミハイルは急にベッドから身体を起こす。
 両手で頭を抱え、左右にブンブンと振る。
 顔をしかめて、叫び声をあげた。

「あああ! イヤだぁ!」

 驚いた俺は、すかさず止めに入る。

「ミハイル! どうした、頭が痛むのか!?」
 だが俺の声は、彼の耳に入ることはなく……。
「痛い、痛い! 頭が痛いよぉ!」
 子供のように泣きじゃくる。
 こりゃ、よっぽど重症だな。
 本当に病院へと連れて行かなくてもいいのか?

「おい、危ないから。辛いだろうが、ベッドで横になれ」
「頭が割れそう……あああ!」
 俺の手を振り払い、ベッドから飛び下りる。
 何を思ったのか、床の上に立ち上がって、辺りをボーッと見回す。

「み、ミハイル? 立ったら、危ないぞ。まだ寝てろよ……」
 俺の声にやっと気がついたようで、ゆっくりと振り返るミハイル。
 ベッドから下りて、ようやく今日のファッションに気がつく。

 といっても、あくまでルームウェアだ。
 モコモコ素材の柔らかい生地で、トップスは長袖だがボトムスは何故かショートパンツ。
 もう冬も近いってのに、どこまでもショーパンが好きなんだな。
 その代わりといってはなんだが、ロングソックスを履いている。
 なんだか、ミハイルの絶対領域を初めて見て、妙に色っぽく感じてしまった。


 振り返った彼は、なぜか俺を見て優しく微笑む。

「ふふ……タッくん」
「え?」
 思わず、アホな声が出てしまう。
 聞き間違えかな。
「も~う☆ タッくんたら、女の子の家に入る時はノックしなきゃダメだぞ☆」
「はい。ごめんなさい」
 おかしい……目の前にいるのは、間違いなくミハイルだ。
 女装していないから、アンナさんの出番じゃない。
 でも……。


「タッくん。今日は何の取材しよっか☆」
「えっと……お医者さんごっことか、どうですか?」
「いいよ☆」

 完全にミハイルモードだというのに、この神対応。
 そうか、高熱で人格がブレブレになっているのか。
 しかし……なんだというのだ。
 この胸の高鳴りは?

 信じたくないが、俺は……。