一睡も出来なかった……。
 可愛いヘビちゃん達が俺を寝かせてくれなかったから。
 ずっと、首筋をペロペロ舐めて、愛撫され続けた。
 そりゃあ、誰だって興奮して眠れないだろう。

 緊張し過ぎて……。


「うーん! よく眠れたぁ~ あ、新宮センパイ。おはようございます♪」
 お姫様ベッドで背伸びをする、ひなた。
 対して、俺は身動きが取れずにいた。
 たくさんのヘビちゃん達で、重たいからだ。
 それに嚙まれそうで怖い。
「おはよう……」
「あ、センパイ。ヘビちゃん達とすっかり仲良くなれたみたいですね♪」
「う……うん」

  ※

 ひなたに「朝食を食べて行かないか」と誘われたが断った。
 寝不足だし、リビングにはたくさんの犬でうるさいから、休めない。

 
 帰り際、ひなたのパパさんに声をかけられた。
 大きな紙袋を1つ持って、差し出す。
「新宮くん。これ、お土産だから持って帰ってくれないか?」
「はぁ……ありがとうございます」
「いやいや、そう気を遣わなくても良いのだよ。君はもう我が子のようなものだ」
 そう言って、ニコリと笑う。
 このおっさん。俺のことを種馬みたいに思ってない?


「じゃあ、センパイ! また学校で会いましょうねぇ~」

 玄関から手を振るひなた。
 俺はエレベーターに乗る際、手だけ振ってあげた。
 疲れから、声を出すのもしんどかったからだ。


 エレベーターの中に入ると、パパさんから貰ったお土産が気になった。
 やけに重たく感じる。
 袋の中を開いて見ると、3つの箱が入っていた。
 1つ取り出し、包装紙を破ってみる。

『赤坂饅頭』と書いてある。

 どうやら、あのパパさんが経営している和菓子店のようだ。
 本当に金持ちなんだな。
 いろんな会社を経営しているとは……。

 どんな饅頭か、気になったので、蓋を開けてみた。
 すると……。

「いっ!?」

 見た瞬間、血の気が引く。
 だって、予想していた和菓子なんて、どこにも入っていなかったから。
 箱に入っていたのは、ただの紙切れ。
 いや、福沢諭吉さんという偉人がプリントされた紙幣だ。
 見たこともないぐらいの束。
 これは……100万円だ!

 生まれて初めて見る札束に、腰を抜かしそうだ。

「あのおっさん……なにを考えているんだ」

 箱の隅に小さなメモ紙を見つけた。

 何か書いてある。

『未来の息子である新宮くんへ。これはほんの気持ちだから、気にしないでね♪』

 お気持ちってレベルじゃねー!
 俺の遺伝子を金で買うってか……。

 最後にもう一言。

『お母さんと妹さんがいると聞いたから、三人分のお土産を入れておいたよ。今度はみんなで我が家へ遊びにおいで。ていうか、もうみんなで一緒に暮らそう♪』

「……」

 10代の若者が、一晩で300万円も手にしちまったよ。
 どうしたら、いいの? これ。