その後もひなたのパパから、あれこれ説得された。

 自分の経営している会社の社長にしてやるとか。
 その会社で働いても、なにもしなくていい。
 小説でも書いて遊んで暮らせばいい。
 大事なのは、娘のひなたと子作りすることだ……。
 特に男子が欲しいだとか。


 長い間、湯船に浸かったこともあってか、俺はのぼせていた。
 フラフラになりながら、先に脱衣所へ向い、ママさんが用意してくれたパジャマに着替える。
 俺の着てきた服は、今洗濯して乾かせているらしい。


 リビングに戻ると、ひなたが一人でテーブルに座っていた。
 ルームウェアに着替えて。
 タンクトップとショートパンツの露出度高めなやつ。

 聞けば、自身もシャワーを浴びてきたとか。
 この家には、他にもバスルームが2つあるらしい。

 なんて、お金持ちなんだ……。
 確かに俺がこの家へ婿入りしたら、素晴らしいセレブ生活が送れるんだろうな。

 そんなことを考えていると、テーブルに置いていた俺のスマホが鳴り出す。
 手に取って、画面を確認すれば。
 相手は、「アンナ」だ。

「いっ!?」

 まさかとは思うが、ここ、梶木に来ているのか……。
 恐る恐る電話に出ると。

『もしもし、タッくん?』
「はい……そうですが」
 恐怖から敬語になってしまう。
『今ね。アンナ、梶木にいるの☆ タッくんのお仕事、そろそろ終わる頃かなって☆』
 近くにあった時計を確認すれば、既に夕方の6時。
 彼女の言う通り、普通の取材であれば、終わってもいい頃だ。

「アンナ……実はちょっと、予定があって。泊りの仕事になってな」
 そう言うと、彼女の声色が急変する。
 凍り切った冷たい声。
『なんで?』
 怖っ!
「そ、その……えっと……」

 一生懸命、言い訳を考えてみるが、なにもいい案が思いつかない。
 しどろもどろになっていると、近くにいたひなたが、それに気がつく。

「センパイ? 誰と話しているんですか?」
 自分の物みたく、パシッとスマホを奪い取る。
 そして、画面を見て、一言。
 
「チッ……ブリブリアンナじゃん」
 彼女のとった行動は、スマホの電源ボタンを長押し。
 つまり、強制シャットダウン。

「お、おい! まだ通話中だったのに!」
 しかし、ひなたはスマホをショートパンツのポケットに押し込み、ニコリと笑う。
「センパイ♪ ダメですよ、女の子の家へ取材に来たんだから、集中しないと♪」
「いや……電話ぐらいさせてくれても……」
 ひなたは笑顔で断言する。
「絶対にダメです♪ パパから聞きましたよ♪ 今日はお泊り回なんでしょ?」
「はい……」
「ちゃんと取材してくださいね。そうじゃないと小説に使えませんよ? 私に集中してくださいね♪」
「……」

 アンナさんがこの周辺を徘徊していないか、怖くて集中できないんですけど。