いつか、出会ってしまうとは思っていたが……。
こんな早くに遭遇するなんて、俺には想像できなかった。
部外者だと言うのに、勝手に高校へ侵入するし。
全日制コースの女子高生たちの胸を揉みまくり、アンナを探すなんて……。
マリアを敵に回すと怖すぎ。
彼女がその場を立ち去ってから、ずっとミハイルは黙り込んでいた。
ショックを受けたのも事実だろうが、それよりもマリアへの怒りを抑え込むのに必死みたいだ。
とりあえず、午後の授業が始まるから、俺は彼に教室へ戻るように促す。
「ミハイル。あ、あの……とりあえず、授業に出よう」
「わかってるって!」
俺にキレなくても、いいじゃん。
足早に廊下を歩くミハイルを追いかけようとしたその瞬間だった。
背後から、肩を掴まれる。
それも、物凄い力でだ。
「いてて……」
振り返ると、ニコニコと笑うひなたの姿が。
だが、目が笑ってない。
これは……絶対に怒っている顔だ。
「センパイ。久しぶりに取材しませんか?」
「え……」
「マリアちゃんの胸を触ったなら、手が汚れているでしょ? 新宮センパイの身体を浄化しておかないと♪」
これは逆らえば、怖い。
「わ、分かった」
※
結局、その後もミハイルは黙り込んだままで、俺が何を言っても答えてくれなかった。
怒っているのは分かるが、一体、彼が何を考えているのかが、分からない。
ただ、俺に対して怒っているのではなく、マリアへの憎しみとだけは、理解できる。
その日のスクリーングは、静かに終わりを迎えた。
帰りの電車でも、無言。
ミハイルの地元である席内駅に着いて「バイバ~イ☆ タクト☆」と、天使のスマイルはもらえず……。
「じゃあな、ミハイル」
と声をかけても。
「……」
俯いたまま、駅のホームへと下りて行った。
こりゃ、重症だな。
※
後日、ひなたから電話がかかってきた。
次の取材についてだ。
『新宮センパイ、今度の日曜日に久しぶりの取材をしましょ♪』
この前、マリアに出会って機嫌が悪いと思っていたが。
偉くご機嫌な彼女に驚く。
「構わんが……どこへ取材に行く?」
『それなら、私もう決めておいたんです! ほら、前に水族館へ行った時。アンナちゃんにデートを邪魔されたじゃないですか~』
「ああ、あれね……」
もう少しで、アンナが人殺しするところだった回ね。
『私が動物好きって言ったでしょ? なら、誰にも邪魔されないで取材できる場所があるんですよ!』
「誰にも邪魔されない場所……。どこだ?」
『その、ちょっと恥ずかしいんですけど……』
「なんだ? ラブホか?」
『ち、違いますよ! 私の家です!』
「へ……?」
彼女が言うには、ペットを自宅で飼っているので、遊びに来ないかというお誘いだった。
なんだ、至って健全な取材だな。
正直、女の子の家に行くって、結構レアなイベントだと思っていたが。
小学生以下のレベルだな。
これなら、アンナも怒らないだろうと、俺は彼女の提案を承諾した。
そして、電話を切った直後、すぐにスマホのベルが鳴る。
流れ出した音楽は、アイドル声優のYUIKAちゃんの新曲。
『永遠永年』
う~ん、癒されるぅ~
着信名は、アンナだ。
『もしもしぃ☆ タッくん?』
お。あれ以来、連絡なかったのに、機嫌が良いな。
「ああ。久しぶりだな。アンナ」
スクリーングの時も話してくれなかったら、俺までテンションが上がる。
『この前は泣いちゃって……ごめんね』
「いや、こっちこそ悪かったな。傷つけて」
『ううん。いいの。アンナも落ち込んでいられないから☆』
やっと仲直りできた気がして、俺もホッとする。
『ところで、タッくん。今度の日曜日、空いてる? この前さ、なんか悲しい最後だったから、また取材したくて☆』
「ああ、それならもちろん……」
ヤベッ。日曜日はひなたと取材する約束で埋ってた。
せっかく、仲直りできたのに。
バレたらまた彼女の機嫌を損ねる。
「あのな……実はその日、仕事が入ってるんだ。悪い。また次回で良いか?」
自分で喋っていて、なんて歯切れが悪いんだと感じた。
『しごと? タッくんが?』
急に声が低くなった!
疑われているよ~
「そ、そう! ちょっと、編集に頼まれてな。参ったよ、ハハハ!」
毎度毎度、すまん。白金。
『ふーん、小説の取材なのかなぁ? どこに行くの?』
「えっと……梶木辺りです」
恐怖から、正直に答えてしまった。
しかし、梶木と言っても広いからな。
ひなたの自宅を見つけるのは、容易ではない。
俺が行く場所だけを知らせると、アンナは声が明るくなる。
『そっか☆ 分かった。タッくんはお仕事なんだから、絶対に邪魔しないよ☆ アンナ、宗像先生と約束したし☆』
「あぁ……仕事なので、配慮してくれると幸いです」
『任せて☆ アンナはタッくんの味方だから!』
俺の味方ってことは……他の女たちは全員、敵ってことですよね?