10年ぶりに再会したマリアは、自ら俺の取材対象として、立候補した。
そして、「タクトを必ずもう一度振り向かせる」と宣言。
彼女はとりあえず、今後のことがあるからと連絡先を交換することを提案する。
それを聞いた俺はすぐに、L●NEの交換だと察して、断ろうとした。
「悪い、マリア。L●NEだけは無理なんだ」
歯切れ悪く答えると、彼女は首を傾げる。
「なんのこと? 私が知りたいのは、メールアドレスと電話番号なのだけど」
「え…今の時代、L●NEが主流なのでは?」
俺がそう言うと、マリアは鼻で笑う。
「あのアプリは既読スルーとかいう、いじめが横行していると聞くわ。だから私は嫌い。連絡先と言えば、メールアドレスと電話番号で充分だわ」
意外な彼女の答えに、思わず吹き出してしまう。
「ふっ、同じだな……」
「な、なによ! 私が時代遅れの女だって言いたいの!?」
顔を赤くして、怒り出す。
「いや。マリアは変わらないなって思ったんだよ」
「そ、そういうタクトもね……」
※
聞けば、マリアはまだ日本に帰国して間もないらしく。
両親と博多付近のホテルで暮らしているそうだ。
これから、親子で住まいを探すそうな。
連絡先も交換したし、今後はいつでも会える……わけではないが、とりあえず彼女も俺の小説のために取材してくれる。
マリアに別れを告げた俺は、急いで小倉行きの列車に飛び込む。
ずっと気になっていたことがある。
それは、うちのメインヒロイン。アンナのことだ。
10年ぶりにマリアに出会って確信した。
アンナとマリアを会わせるのは、絶対に危険だ。
流血沙汰なんてもんじゃないだろう。
今後、取材と称してデートを繰り返すにしても、あの2人だけは顔を合わせることだけは避けた方がいい。
すぐさま、スマホを取り出して、画面を確認する。
案の定、L●NEの通知が鬼のように入っていた。
未読メッセージが9987件……。
お、恐ろしい。
読むのも面倒だ。
『タッくん。サイン会、まだ終わらないの?』
『アンナはタッくんのマンガを50回は読み直したよ☆』
『今、なにしてるの? ファンの女の子に変なことされてない?』
「……」
ファンの女の子と変なことはしていました。
ノーブラの生乳を揉み揉みしていたよ♪ なんて返信できない!
ていうか、マリアは正真正銘の女の子だから、初めてのパイ揉みだったのか?
いや、女装男子のアンナもなかなかに気持ちが良くて、あの感触を思い出すだけでも、股間が元気に……。
「あ」
ここで俺は気がつく。
ミハイルの水着姿ですら、俺の股間はパンパン。
アンナの水着の時は、カチンコチン。
でも……女のマリアをダイレクトに揉ませて頂いたというのに……。
無反応だった!?
オーマイガッ!
列車内の汚い床に座り込み、うずくまる。
そして念仏のように、一人ブツブツと口から言の葉を吐き出す。
「俺はノンケ……俺はノンケ…ノンケ……ノンケだってば……」
その後、帰宅するまでの記憶がほとんど無い。