カナルシティの一階。
噴水ショーが行われるサンプラザステージの前にあるハンバーガーショップ。
キャンディーズバーガーに入る。
いつも俺が頼む、BBQバーガーをセットで2つ注文した。
初めて訪れた冷泉が「私は分からないから」と困っていたので、同じものを頼んだ。
二人がけのテーブルで、向かい合わせに座り込む。
ハンバーガーを頬張りながら、また先ほどの口論を再開。
「だから言っているだろ。あのセリフの少なさが良いところであって……むしゃむしゃ」
「それが観客に優しくない映画だと言っているのよ……もしゃもしゃ、美味しいわね。これ」
なんだかんだ言って、美味そうに食べる冷泉。
「じゃあ、お前が今まで観てきた映画で一番良い作品を教えてみろ……じゅるじゅる」
「あのね……私、あまり邦画は好きじゃないの。どちらかと言えば、洋画が好きなの……ちゅるちゅる」
話せば、どうも俺と趣味が合う女だと思った。
「それは俺も同じだ。だが、タケちゃんの映画だけは違う。他の邦画にはない良さがある……ゲップ」
「汚いわね。私は元々、映像よりも活字が好きなのよ。今日だって学校を休んだから、たまたま観ていたに過ぎないわ……うっぷ」
2人同時に完食。ゲップも息がピッタリ。
聞けば、冷泉も現在不登校らしい。
ハーフであることで悪目立ちしているらしく。
また俺みたいに曲がったことが大嫌いな性格だから、すぐ級友に突っかかっては口論となり、クラスで浮いた存在らしい。
俺より二歳年下の6歳。
小学1年生にしては、随分大人びた女の子だと感じた。
「活字……だとか言ったか? つまり漫画が好きなのか?」
俺がそう尋ねると、冷泉は鼻で笑う。
「そんなわけないでしょ。小説よ。文字だけの本が好きなの」
「ほう。文字だけとか何が面白いんだ?」
「あのね。小説っていうのは既に作り上げられた世界、映像、イラストとは違った楽しみがあるの。文章から自分の頭の中で文字を映像に変換するのが楽しいんじゃない」
と小バカにされてしまった。
年下のくせして、本当にムカつく。
「それ、面白いのか? 映画の方がよっぽど楽しいだろ。俺は今日見たタケちゃんの映画を見て感動した。なんだったら、俺がああいう映画を将来撮ってみたいもんだ」
そう言うと、冷泉は大きなため息をつく。
「あなたね……撮るっていうけど、そのためには原作が必要でしょ?」
「そう言えば、そうだな」
「ものづくりには“最初”が必ずあるはずでしょ? 何でもゼロから作るのが基本よ。それが小説よ」
クソ。1年生の小便臭いガキに、ことごとく論破されてしまう。
「だ、だったら脚本を書けばいいであって……」
「それも小説と似たようなものでしょ? 文字じゃない」
なんて呆れた顔をする。
こいつ、バカだわ~ って感じで。
言い返せない。
確かに冷泉が言っていることは、ほぼ的を得ている。
もし将来、俺が映画監督を目指そうと夢見ても、一人じゃ作れない。
必ず原作が必要になる。
「お、俺もタケちゃんみたいな映画を作ってみたい……」
気がつけば、年下の女に弱音を吐く始末。
しかし、冷泉はそんな俺を見て笑うことはなく、真顔でこう言った。
「じゃあ作ればいいじゃない」
「え?」
「今あるものであなたが作ればいいのよ。タクトだったかしら? タクトみたいな子供じゃ、ビデオカメラとか使えないだろうから……そうね。私だったら文字で書いてみるかしら」
「俺が文字を?」
「ええ。ノートとペンぐらい持っているのでしょ? それならタダじゃない。今日観た映画は覚えているかしら?」
言われて俺は自信たっぷりに胸を叩いて見せる。
「それなら、ちゃんと脳内にしっかりと映像は残っているとも!」
「じゃあ今日の映画をノートに文字で描いてみたらどう?」
この一言が、俺が小説を書くきっかけとなった。